第22話 ナハトヴァルト領に到着! 楽な金稼ぎ!(の予定)(第2部)
彼女は美しく、穏やかで心安らぐオーラを放っていた。まるで本物の大天使(ただし規格外にデカい)を前にしているかのようだ。
「皆様、自己紹介はなさらないのですね。では私から。エリザベス・フォン・ナハトヴァルトと申します。皆様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
エドワードはサッと目を逸らし、激しく貧乏ゆすりをしながら、誰が最初に口を開くか仲間たちに視線を送った。
どうやら、イツロウも極度の緊張のあまり、マイクの広い背中に隠れてしまっている。
一方のマイクといえば、完全に無表情で、まるで死んだ魚のような目をしながら、あまりの美しさに思考を停止させていた。
「どうしたね若者たち。娘が来てから随分とおとなしくなってしまったようだが?」
エリザベスは目の前に立つ四人の少年を上から下まで見つめ、やがてキラキラと後光が差すような笑顔で優しく微笑みかけた。
『めっちゃ美人!!(けどデカい!)』
「何も恐れることはない。クエストの条件さえ満たしてくれれば、ここでは自分の家のようにくつろいでもらって構わんよ」と領主が言う。
エドワードは自信なさげに一歩前へ出た。モジモジと指先を合わせながら、エリザベスの方をチラチラと見るが、決して目は合わせようとしない。
「は、はじめまして。ぼ、僕は……その、僕の名前は……えっと、エドワード・ニシムラと申します……」
エドワードは自己紹介の間ずっとしどろもどろで、顔を赤くし、何より声のボリュームが異常なほど小さかった。
エリザベスは、まるで『迷子の小さな子供』に向けるような慈愛に満ちた笑顔で彼に微笑みかけた。
(クソ恥ずい……! ただの自己紹介でどんだけテンパってんだよ俺!? 童貞か!?)と、エドワードは心の中で自分の不甲斐なさに頭を抱えた。
「お、俺はイツロウ・ブルトですはじめまして!」
エリザベスは片方の眉をひそめた。声はすれども姿は見えず……その声はマイクの巨体の後ろから聞こえてきたのだ。イツロウは小動物のように震えていた。
(ヤバい……! 緊張しすぎて、ラッパーみたいにめっちゃ早口になっちまった!)
そしてついにマイクの番。彼が一歩前に出た拍子に、背後に隠れていたイツロウが軽くつまづき、あわや転びそうになった。
「はじめまして、レディ・エリザベス。私はマイク・タロウと申します。あなたをとても愛しています。どうか私の子供の母親になっていただけませんか――」
ドゴォォォンッ!!
「「頭おかしいんか!!」」
問答無用で、エドワードとイツロウは完璧なユニゾンでマイクの後頭部を思い切り引っぱたき、石畳の地面に激しく突っ伏させた!
エドワードはそのまま彼に激しい説教(物理)を浴びせる。
「も、申し訳ありません、こいつの無礼はお許しください! 決して悪気はないんです! 俺たちの故郷の……ええっと、遊牧民特有の挨拶みたいなものでして!」と、イツロウが冷や汗を滝のように流しながら必死に弁解する。
あまりのパニックっぷりとカオスな光景にエリザベスは驚いた様子だったが、やがて目を閉じ、鈴の音のように美しい声で「ふふっ」とクスクス笑い始めた。
『マジで心が広すぎる大天使じゃねえか!』
マイク、イツロウ、エドワードの三人は心の中で完全にハモった。どうやら彼女は、ある程度のアホさには寛容らしい。
「ふふ、ごめんなさいね。でも、そちらのピンク色の髪の男の子は少しシャイなのかしら? さっきから眉間にしわを寄せて私を見つめているけれど。あなたのお名前を聞いてもよろしくて?」
エリザベスが優しく尋ねる。
他の三人は、未だにエリザベスへの無言の賛美モードから抜け出せずにいた。
サンズがゆっくりとエリザベスの方へ歩み寄る。
彼は全く震えていなかった。彼女の青い目を真っ直ぐに見据え、エリザベスが少し視線を下げなければならないほどの至近距離でピタリと立ち止まった。
エリザベスが微笑みかける中、サンズはオリンポスの神々のごとき絶対的な冷静さを保っていた。そして、大きく息を吸い込む。
「アンネステリアの方がお前より圧倒的に美しいな。お前、肌が真っ白すぎて歩く死体みたいな顔してるぞ」
ピシッ。
中庭の空気が、文字通り凍りついた。
「まぁ、なんて可愛らしいお名前……って、え?」
エリザベスの肩が小刻みに震え始めた。純白の頬が引きつり、今にも泣き出しそうだ。彼女はサンズのあまりにも冷酷で軽蔑しきった視線から逃げるように、サッと目を逸らした。
「お前まで何やってんだサンズ!! その口の利き方はなんだよ!! 殺される気か!」
屋敷の使用人たちの間から、ザワザワと殺気立った私語が漏れ始めた。メイドや執事たちは、すでにこの一行の「教育水準の低さ」を汚物を見るような冷ややかな目で評価し始めている。
(う、嘘だろ……またかよ! サンズのアホのせいで、また地獄を見るなんて絶対にゴメンだ! せっかく村での底辺イメージを挽回して城に呼ばれたばっかなのに!)
エドワードは一秒たりとも無駄にせず、サンズの頭を乱暴に掴んで地面に激しく叩きつけた。強制的な『土下座』である。
「エリザベス様、どうかこいつの戯言はお聞き流しください! 頭のネジが何本か飛んでるだけで、アンネステリアって奴に異常に執着してるだけなんです! 言葉の選び方が絶望的に下手くそで、何も考えずに口走る最悪のクセが――!」
「いや違う、俺は自分が何を言ったか完璧に理解してるぞ!」
サンズが土下座の姿勢のまま、空気を読まずに堂々と火に油を注ぐ。
エリザベスはサッと涙を拭い、高貴な令嬢としての威厳をなんとか取り戻した。
「……気にしておりませんわ。私の美のライバルが、他の方の心を惹きつけていると知って嬉しく思います」
「ほ、本当ですか? 今のサンズの言葉、令嬢のメンタルに絶対クリーンヒットしたように見えましたけど……」
「サンズ……可愛らしいお名前ですね。はじめまして、サンズ」
(マジで嫌な予感しかしない……。すでに第一印象が最悪じゃねえか……)と、エドワードは胃痛を覚えながら内心で呟いた。
(それにしても、大切な愛娘がディスられたのに親父さん(領主)が全く無反応なのは気味が悪いな。娘以上に、こいつも相当な「アホ耐性」を持ってるってことか?)
(この親にしてこの子あり、か……)
この最悪な外交的大失敗の挨拶の後、四人の悪友たちは自室となる部屋へ荷物を運ぶため、冷ややかな目をする使用人たちによって屋敷の奥へと案内されるのだった。
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