第22話 ナハトヴァルト領に到着! 楽な金稼ぎ!(の予定)(第1部)
「――なんか知らねえけど、急に喉の奥がつっかえる感じがする。毒でも盛られたか?」
「ああ、言いたいことは分かるぜエドワード……。ずいぶん長いこと忘れてた嫌な感覚だな。吐き気がする」
「自分の一部が欠けちまったような、そんな感じだ」
「お前ら……世間ではその症状を『罪悪感』って呼ぶんだぞ……」
超絶割の良いクエストを請け負った俺たち4人は、豪華な馬車に揺られ、村から少し離れた場所にあるナハトヴァルト領の城へと向かっていた。
新たな冒険(という名のバカンス)へと出発したわけだが……馬車内の空気はいつもと違ってどんよりしていた。
無理もない。泣き崩れるアンネステリアを本屋に一人残して、未練の欠片もなくさっさと出発してしまったことに、彼らの心の奥底に眠っていたわずかな良心がチクチクと痛んでいたのだ……。
「何言ってんだマイク、俺たちが罪悪感なんて抱くわけねえだろ。さっきブラック本屋からついに脱獄したばっかりじゃねえか。清々しい気分だぜ」
「まあ、確かにそうだな。どっちにしろ、この先どうなるか見てみようぜ」
少なくとも、エドワードとイツロウの二人は自分たちに『人間の心』があることを断固拒否していた。それどころかイツロウに至っては、向かいの高級なベルベットの空席に泥のついた靴を投げ出し、必死にリラックスしているフリをする始末だ。
「ほんとにお前らってやつは……血も涙もないのかよ」
「頼むから黙ってろサンズ。お前のせいで優雅な『静寂』の音が聞こえねえ」
エドワードのあまりの態度に、サンズは「ふんっ」と鼻を鳴らして呆れ顔でそっぽを向いた。
一方のエドワードは、頬杖をつきながら少し疲れたような目で、ただぼんやりと窓の外を流れる景色を眺めていた。
「――本当にありがとうございました、マクスウェルさん!」
「いやいや、大したことじゃないよ。未来ある若者の力になれるのは、いつだって嬉しいもんじゃからな。フォッフォッ!」
その声を聞いた瞬間、エドワードの目がカッと猛禽類のように見開かれた。
窓の外、馬車の進行方向の20メートルほど先の道端に、見覚えのあるジジイの姿があった。
俺たちの3500万ヴェンヌを合法的に丸ごと掻っ攫っていった、あの性悪で強欲な嘘つきジジイ……マクスウェルだ!
(あのクソジジイ……!)
エドワードの心の中で、これまでの恨みつらみと、どす黒い感情が渦巻く。
「……ナハトヴァルトさんはお休みのようだな」
「おいサンズ、『卿』か『ナハトヴァルト卿』だろ。礼儀作法がなってないって理由で、城に着く前に速攻でクビになるのはごめんだぞ」イツロウがすかさず小声で訂正を入れる。
「ああ、そうだな……」
エドワードは、大きく深呼吸をした。そして、邪悪な笑みを浮かべる。
「御者さん。ちょっとあそこのジジイの前で、馬車を止めてくれ」
「承知いたしました」
エドワードの頼みで、御者が馬車を止める。
その動きに気づいたマクスウェルが、ナハトヴァルト卿の紋章が入った豪華な馬車が自分の目の前で止まったのを見て、顔をパァッとほころばせた。
かつては高名な大魔導士だった彼だ。領主も彼の武勇伝をよく称賛していたため、面識は十分にある。
(おお、領主様がわざわざわしに声をかけようと馬車を止めてくださったのか。なんとありがたいお心遣い……ここは一つ、威厳ある態度で挨拶を――)
マクスウェルはそう思い込み、恭しく腰を曲げて口を開いた。
「これはこれは、ナハトヴァルト卿。こんな所でお会いできるとは奇遇――」
「よぉ、クソジジ――うおっ、なんか外の空気冷たっ。窓閉めて窓」
ピシャリ。
「え?」
マクスウェルが状況を理解する前に、馬車は無情にも土埃を巻き上げて再び走り出した。
ポツンと道端に取り残される元大魔導士。
「…………なっ、なんだ今のふざけた態度は!!! 何も言わずに去っていくとはどういう了見じゃこのチビガキィィィッ!!!」
遠く後ろの方から、マクスウェルのブチギレる声が心地よく響いてきた。
この最高にしょうもない『嫌がらせ(ドライブ・バイ)』のおかげで、エドワードの喉のつっかえは完全に消え去り、最高の気分になったのだった。
――それから約30分後。馬車はついに目的地へと到着した!
俺たちの目の前にそびえ立つのは、ナハトヴァルト邸。黄金の装飾が施された巨大な門が、これでもかとばかりに富の象徴として眩しい光を放っている。
門の周囲には、領地の制服らしきものを着た屈強な衛兵たちが立ち並んでいた。屋敷の周りには美しく手入れされた広大な庭園が広がり、中庭のど真ん中には巨大な大理石の噴水まである。
俺たち4人は、完全に夢見心地だった。さっきまで抱いていたアンネステリアへの『罪悪感』とやらは、一瞬にして宇宙の彼方へ消し飛んだ。
入り口には使用人たちがズラリと一列に並び、俺たちを温かく出迎えてくれている。
ちょうどそのタイミングで、馬車の中で熟睡していたナハトヴァルト卿も目を覚ました。
「……ヤバい。俺、この生活クセになりそうだわ」
イツロウが感動のあまり一筋の涙を流しながら呟く。
「マジでプチ・ベルサイユ宮殿じゃねえか。俺たち運良すぎだろ!」エドワードも目を輝かせた。
だが、サンズだけは何も言わなかった……。驚くほど無関心で、それどころかこの豪華絢爛な光景に対して、どこか冷ややかな、軽蔑するような視線すら向けていた(※以前5万ヴェンヌを手にして貴族ごっこをした時のプライドがまだ残っているらしい)。
「おい見ろよ! あそこ並んでる可愛いメイドさんたち、全員俺の世話(夜の)もしてくれるんだろ!?」
マイクが鼻の下を伸ばし、興奮気味に叫んだ瞬間。
ドゴォッ!!
「んなわけあるか!!」
エドワードとイツロウの声が見事にハモり、同時にマイクの後頭部に強烈なツッコミ(物理)が炸裂した。
「――エリザベス。こちらへ来て、当面滞在されるお客様方に挨拶をしなさい」
馬車から降りた卿が、娘である『エリザベス・フォン・ナハトヴァルト』の名前を呼んだ瞬間、俺たち4人はピシッと背筋を伸ばし、居住まいを正した。
「はい、お父様」
甘く、とろけるような美しい声が、俺たち4人の耳を優しく撫でた。
邸宅の扉から現れたのは、雪のように真っ白な肌と、陽光を反射して輝く長く美しい白銀の髪を持つ少女だった。純白のまつ毛の下には、宝石のようなサファイアブルーの瞳が輝いている。
まさに、異世界ファンタジーにおける完璧な『お姫様』のビジュアルだった。
だが、何よりも俺たちを驚かせたのは……彼女の『身長』だった。
視線を上へ、さらに上へ……。
なんと彼女は、グループで一番巨大なマイクよりも、さらに頭半分はデカかったのだ。
エドワードに至っては、彼女の腰のあたりしか身長がない。
見上げる俺たち4人の口から、完全にシンクロした同じ言葉が漏れた。
「「「「……でかっ(Wow)」」」」
「……あなたたちが、例のお客様ね。初めまして」
見下ろしてくる超長身の令嬢の冷ややかな視線を浴びながら、俺たちの城での新しい生活が幕を開けた。
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