第21話 さらばアネステリア、こんにちはお城暮らし!(第1部)
「だから言っただろ、こんなことすべきじゃないって!」
「でも、いつかは言わなきゃいけないだろ?」
「ダメダメダメ、絶対ダメだ。こういうトラブルの時はな、全部『臭いものにはフタ(物理)』をするのが俺の流儀なんだよ」
「フタって……絨毯の下に破片を隠しただけだろ!? ボコボコに膨らんでてバレバレだぞ!」
「マイクの口癖を借りるなら、『プロセスを信じろ(トラスト・ザ・プロセス)』ってやつさ」
スディスタ村の美しい朝。しかし、4人の悪友たちにとっては、かなり……波乱に満ちた一日の始まりだった。
「いやぁぁぁっ! 私の乾燥地帯産の高価な粘土細工の花瓶がぁぁっ! ちょっと男子たち、今すぐ来なさーーい!!」
不運なことに(というか当然)、アンネステリアは4人がしでかした愚行の『残骸(絨毯の下の不自然な山)』をあっさりと発見してしまったのだ。
当の4人はというと……相部屋のベッドの中。絶賛、夢の世界を満喫中(という設定の演技中)であった。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
「開けなさい! なんで私の花瓶が、粉々になって絨毯の下に隠されてるのか説明しなさい!」
4人は揃って『すばらしい夢を見ている』アカデミー賞モノの演技に突入した。
ご丁寧に、マイクに至っては少しイビキまでかき始めている。
「いいこと? 誰も返事しないなら、力ずくで開けるわよ! ここ、私の家なんだからね!」
おや? サンズは親指をくわえて寝ている……なんて愛らしい(キモい)寝姿だろうか。
「入るわよ!」
ガチャッ――バーーンッ!
ふむ……イツロウはエドワードと手足が複雑に絡み合うように、知恵の輪のようななんとも奇抜なポーズで寝ていた。まるで難解な現代アートである。
その異様な光景を前に、アンネステリアは思わず息を呑んだ。あまりにも……『愛らしい(アホっぽい)』寝姿にショックを受けたのだ。
(これ以上騒いだら、本当に起こしちゃうかも……。サンズがあんなに無防備で可愛い寝顔だったなんて……)
と、心の中で呟くアンネステリア。
だが、彼女はすぐに『違和感』に気がついた。マイクのイビキが、どう聞いても故障したチェーンソーのように不自然でわざとらしいのだ。
(なるほど、そういうことね……狸寝入りってわけね)
アンネステリアは大股で歩み寄り、4人のベッドの足元でピタリと止まった。そして、少しだけ身を乗り出して、わざとらしく明るいトーンで口を開く。
「そういえば、エドワードの荷物、そろそろ整理しなきゃって思ってたのよねぇ。あの子が『高校の制服』って呼んでる謎の黒い服……あの子の一番の宝物みたいだけど、ちょっとクローゼットの場所を取りすぎてるのよ」
ピタッ。
エドワードの心臓と呼吸が完全に止まった。
「勝手に売っちゃっても、きっと怒らないわよね。あんな変わった服なら、マクスウェル爺さんの店で高く売れそうだし。他の3人の服も同じようにしちゃおうかしら♪」
今度は、残り3人の呼吸が死体のように完全に停止した。
アンネステリアは上機嫌に鼻歌を歌いながら、どうやって彼らの服を売り払って金にするか、首を左右に揺らして楽しそうに語り続けた。
「ふぁ〜あ……あれ、アンネステリア、いたの?」
エドワードが耐えきれなくなり、わざとらしく両腕を大きく伸ばしながら、大あくびをして起き上がった。
アンネステリアは鼻歌をピタリと止め、ゆっくりと振り返る。
「あらエドワード、起きたの? ちょうどよかったわ。私の粘土細工の花瓶を割ったのは誰か、教えてくれる?」
「サンズだよ」
エドワードは光の速さで、1ミリの感情も込めずに即答した。
サンズがベッドからバネのように勢いよく飛び起き、エドワードを指差す。
「お前、一瞬の躊躇もなく俺を売りやがったな、この卑怯者!! 今回はマイクに全部かぶってもらうって約束だっただろ!」
「あれ、俺そんなこと言ったっけ?」
マイクがゆっくりと身を起こし、仲間たちが裏でコソコソ自分をハメる陰謀を企てていたことに呆れたように片眉を上げた。
「イツロウ、起きろ。完全にバレてるぞ」
イツロウは、さらにわざとらしいイビキを大きくした。
(このチキン野郎……)と、エドワードは心の中で毒づいた。
「ふん、どうやら誰も素直に犯人を自白する気はないみたいね? いいわ、怒ってないから。ただ……『お給料から天引き』させてもらうわね」
「それだけは勘弁して、アンネステリアお姉ちゃん!!」
エドワードは瞬時に子犬のような涙目を作り、甲高い声で懇願した。
そう。先日マイクが酒場のど真ん中で金貨の袋をうっかり放り投げ(寄付し)てしまったため、結果的に彼らの社会的地位は向上したものの……現在の財政状況はどん底だったのだ。
クエストの報酬でダラダラ過ごす余裕もなくなり、彼らは再びアンネステリアの書店で奴隷のように働き始めるハメになっていたのだ。
エドワードは、ボーナスをもらうため、あるいは自分のミスを許してもらうためなら、高校生としてのプライドを捨てることなど造作もなかった。
他の3人もそれを絶対に馬鹿にはしない。なぜなら、彼が尊厳を犠牲にして「可愛い弟」を演じてくれるおかげで、自分たちの連帯責任が免除され、なけなしの給料が守られるからだ。
「まあ、そこまで可愛い弟に言われちゃあねぇ」
アンネステリアはすっかりチョロく満足げに喉を鳴らした。
4人はこの理不尽な状況を前にただ無力だった。ここでまともな給料を稼ぐには、これ(エドワードの尊厳破壊)しか方法がないのだ。
「ねぇ、お姉ちゃん……。俺の大事な制服、どこにあるか知らない? 引き出しの中に見当たらないんだけど」
「ええ、聞いてくれて嬉しいわ。実のところ、あなたたちが今日花瓶を割ってくれて『ちょうどよかった』のよ」
エドワードは彼女が何を言おうとしているのか全く読めなかったが、愛嬌たっぷりの弟ポーズのまま顔を引きつらせた。
「え、えっと……お姉ちゃん? お姉ちゃんが嬉しいなら、俺も嬉しいよ?」
「1週間くらい前、あなたたちがあのレプラコーンの討伐任務から帰ってきた後なんだけど……私、うっかり『間違った服』を、スディスタ村の領主様のところに発送しちゃったみたいなの」
エドワードは可愛いポーズのまま完全にフリーズした。すでに彼のこめかみには、滝のような冷たい汗が流れている。
他の3人も、もはや現実逃避(タヌキ寝入り)など無意味だと悟り、目を見開いて飛び起きた。
「お、お姉ちゃん……俺の制服、どこにあるんだっけ……?」
エドワードは声を震わせて尋ねた。
「だから、その『間違って領主様に送っちゃった服』というのがね……あなたたちの高校の制服よ」
重苦しい、殺人的な沈黙が部屋に落ちた。その沈黙を破ったのは、ただ一つの恨みに満ちた視線だった。
「でも、これで私たち『おあいこ』ね、可愛くて愛しい弟くん! あなたが私の花瓶を割って、私があなたたちの制服を失くした。さあ、大好きなお姉ちゃんの胸に飛び込んできなさい!」
4人の悪友たちは、完全な殺意に満ちた目でアンネステリアを睨みつけた。彼女は自分たちを責める口実として、花瓶の件を利用しただけだったのだ!
しかし、そんな彼らの怒り狂う心の奥底に、奇妙な『小さな誇り』が芽生えていた。
(アンネステリアも、自分のミスを隠すために他人の罪を利用するなんて……ついに俺たちと同じくらい底辺のクズに落ちたな。俺たちの教育も案外、捨てたもんじゃないぜ!)
4人のバカ野郎たちは心の中で見事にハモった。そのあり得ないクズな誇りと……制服を永遠に失った悲しみで、彼らの目には厳粛な血の涙が浮かんでいた。
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