第20話 等価交換…良いものと良いもの~残念ながら (第2部)
サンズはリーダーにふさわしいカリスマ性(※ただし本人の脳内に限る)を漂わせ、一歩前に出た。
「まあ、その些細な問題は置いといて……出発するぞ、野郎ども!」
サンズのその無駄にカッコつけた励ましの言葉を合図に、一行は新たなクエストの目的地へと歩き出した。
通称『悪戯好きのレプラコーンの森』。一見すると、童話に出てきそうな少し馬鹿馬鹿しくて単純すぎる名前の場所だ。
だが、奥へ進むにつれて、肌にまとわりつくような重苦しい空気が漂い始めた。
この森、マジで怖いのだ!
深い霧に、枯れ木に反響する不気味な鳥の鳴き声。まるでB級ホラー映画のセットのど真ん中に放り込まれたような気分だった。
もしかして、クエストの張り紙自体が罠なのか? 実は凶暴な人食いレプラコーンの部族が住む呪われた森とか?
エドワードは木の根にビビって、すでに十回は軽くつまずきそうになっていた。
「なあ、エドワード……お前、ビビってんだろ?」
「見りゃ分かんだろ、イツロウ……? だいたい、五分おきにマイクの背中に隠れるくらい足がガクガク震えてるお前にだけは言われたくねえよ……」
道中、このホラー展開の恐怖に支配されていなかったのはマイクとサンズの二人だけだった。
この二人はずっと、霧の中で『潜入任務中の特殊部隊ごっこ(SWAT)』をして遊んでいたのだ……。
少しの物音で左右の霧を血眼になって睨みつけるエドワードとイツロウとは大違いである。
「気をつけろ!」サンズが唐突に叫んだ。
「ヒッ! どこ!? どこだ!?」イツロウとエドワードがパニックになり、情けない声を上げて身を縮める。
マイクは見えないインカムから通信を受信しているフリをし、サンズは地面から拾ったただの石をトランシーバー代わりに口元へ当てた。
「こちらエージェント・マイク。異常なし(クリア)、セクターは安全だ。オーバー」
「了解した、エージェント・マイク。引き続き索敵を頼む。オーバー」
『このアホ共、無駄にビビらせやがって! マジで心臓止まるかと思ったわ!』と、イツロウは膝をガクガクさせながら心の中で激しく毒づいた。
「お前ら、集中しろ! 誰かに見られてる気がする!」
エドワードだった。彼は道のど真ん中で硬直していた。悪意のある笑い声と、深い草むらをかき分けるような素早い足音が聞こえたのだ。
ガサッ、ガサッ……。音が近づいてくる。マイクがシールドを構えた。
さらに音が近づく! イツロウはサッとマイクの背後に隠れた。
音のペースが上がる! 四方八方からだ! 完全に包囲されている!
四人は戦闘(あるいは全速力で逃走)の構えをとった!
ピョコンッ!
何者かが草むらから、効果音を伴って飛び出してきた!
「サプラーーーイズ☆」
四人は「うわあっ!」と短く叫んだが、すぐにピタリと動きを止めた。右には誰もいない。
左にも誰もいない。彼らがゆっくりと視線を下へ向けると……そこには、キラキラと妖精の粉を舞い散らせる、目を丸くしてしまうような光景があった。
「こんにちは、勇敢なる冒険者たちよ! 悪戯好きのレプラコーンの森へようこそ! 僕はビドゥイユ! 大胆不敵で賢い僕のトリックは、悪ふざけと策略でいっぱいさ! 僕の魔法の釜を盗みに来たんだろう? 残念だったね! 金貨一枚たりとも渡さないよ!」
……深い霧の森に、重苦しい沈黙が流れた。
悪戯好きのレプラコーン(ビドゥイユ)は、その滑稽なヒーローポーズのまま固まり、冒険者たちの熱い返答を待っている。
だが、誰も何も答えない。
「ブッ……」マイクが吹き出した。
「おや、シャイなお客さんたちみたいだね! でも心配ご無用! この偶然の出会いが君たちの恐怖を克服するきっかけになるかもしれないよ! もっとも、君たちの崇高なクエストは確実に失敗に終わるだろうけどね!」
「プッ……ククッ……アハッ……」エドワードとサンズも堪えきれずに吹き出した。
妖精がさらに長々とモノローグを続けていると、さすがに腹が立ってきたのか、なぜそんなにニヤニヤしているのかと腰に手を当てて問い詰めてきた。
四人の悪友たちは、全員全く同じことを考えていた。
『このチビ(マスコット)から宝を奪うの、絶対楽勝じゃん!』
彼らはついに妖精の鼻先で堂々と腹を抱えて爆笑し始め、その小さな生き物の演劇のようなスピーチを完全に遮った。
「あーヤバい! 世間の奴らがなんで俺たちの身長をからかって楽しんでるのか、今ならすげえよく分かるわ!」イツロウが太ももをバンバン叩きながら大笑いする。
「な、なんだと? 僕は今、君たちに……ちょっと待て、お前ら僕を馬鹿にしてるのか!?」
「ああ、完全に馬鹿にしてる!」
四人は息ができなくなるほど腹を抱えて笑い転げた。ホラーの空気は完全にぶち壊しである。
悪戯好きのレプラコーンの額に、ピキッと青筋が浮かんだ。
「で、迷子になったのかい、ボウヤ? ブワッハッハッハ!」
「僕はビドゥイユだ! お前らよりずっと年上だぞ、この無礼者どもが!」
「はいはい、ビドゥイユちゃん。ちゅーちゅーちゅー」
サンズはレプラコーンの帽子をひったくり、頭上高く持ち上げた。小さな妖精はそれを取り返そうとピョンピョン飛び跳ねるが、全く届かない。
「おい見ろよ、このチビ! 必死だぜ!」
「僕の『勇気いっぱいの帽子』を返せ!」
「いや、待てよお前ら。こういうのを笑い者にするのは良くないぞ。俺たちだって、実際そういう身長のハンデには苦しんでるんだから……」
エドワードのその良識ある言葉を聞いて、レプラコーンは少し希望を取り戻した。この人間たちにも、いくらかの思いやりがあるのかもしれない……。
「……でも正直に言うわ。やられる側じゃなくて、やる側(いじめる側)になるのって最高に気持ちいいな!!」
「この人間の悪魔どもぉぉぉっ!!」
レプラコーンは完全にキレていた。
白黒の古い映画に出てくるカンガルーボクサーのように、小さな両拳を前に突き出してシュッシュッとシャドーボクシングを始めたのだ。
こいつ、やる気か?
「おやおや、小さな妖精さん。俺たちと喧嘩でもする気か?」
「僕を本気で怒らせたことを後悔させてやる!」
「厳しい現実を受け入れられないのかい?」
マイクが一歩前に出て、妖精の頭頂部をポンポンと小馬鹿にするように叩いた。レプラコーンは顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。
驚くべきことに、その足踏みのたびに地面が『ズンッ、ズンッ』とわずかに揺れていた。
「僕の頭からその汚い手をどけろ! 痛い目を見たいのか!?」
マイクは耳の裏に手を当てて身を乗り出し、聞こえないフリをした。
「ああん? ごめん、下の方すぎて声が聞こえな――」
ドゴォォォォンッ!!!
残された三人の悪友が、目の前で起きた出来事を脳内で処理するまでに数秒を要した。
マイクが立っていたはずの場所には、手放したカイトシールドだけが、コマのようにクルクルと回転し、カラランッ……と情けない音を立てて地面に倒れた。
肝心のマイク本人はというと、数メートル上空を舞っていた。残りの三人が恐怖で顔を引き攣らせながら、空を仰ぎ見なければならないほどの高さ(成層圏)まで、一直線にカッ飛んでいったのだ。
「だから警告しただろう、生意気な悪ガキども! 僕の悪戯(物理)をたっぷりと味わうがいい!」
ああ……そうだった。
この世界には、地球の物理法則や常識なんて一切通用しないんだった。
身長120センチの小さな妖精が、グループで一番デカくて力が強い重戦車を、たった一発のアッパーカットで空の彼方へ吹っ飛ばしたのだ。
マイクは魔力こそ皆無だが、身体ステータスはほぼカンストに近い優秀なタンクであるにもかかわらず、だ。
結局のところ、このクエストの本当の『罠』とは……俺たちの底知れぬ傲慢さだったのだ。
ってか、待てよ。グループ最強の男があんな風にワンパンで吹っ飛ばされたってことは……残された俺たちは……。
(((ヤバい、全滅する!!)))
三人の心の絶叫が、深い霧の森に見事に響き渡った。
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