第17話 この女神が俺たちに説教だと? 笑わせるな。(第2部)
「……このポンコツクソ女神が」
エドワードが地を這うような低い声で呟く。
「え、ちょっと若者、今なんて言ったの?」
「クソ女神だって言ってんだよ!!」
「ひぃぃっ!?」
ウェネリスは情けない短い悲鳴を上げた。次の瞬間、身長157センチのエドワードは飛び上がって彼女の神聖なトーガの胸ぐらをガシッと掴み、自分の顔の高さまで強引に引きずり下ろしていた。
「てめえ、俺たちを舐めてんのか? あのサンズが勇者だと!? 俺たちが問題児だってことは認める。それは事実だからな。だが、あのお荷物が勇者扱いされるってことは、俺たちが血反吐を吐いてやってきた数々の努力(と裏工作)を完全にコケにしてるってことなんだよ!!」
ウェネリスは反論する代わりに、エドワードの頭を胸の谷間にグッと抱き寄せ、よしよしと優しく撫で始めた。
(な、何をしてるんだ、こいつは!? 新手の罠か!?)
エドワードは心の中で最大限に警戒した。
「あなたの言う通りよ、私の可愛いエドワード。あなたがどれほど苦しんでいたか、私には見えていなかったわ。リーダーの役割を担うのは、さぞ疲れたでしょうね……さあ、今はリラックスして、自分を誇りに思いなさい」
「ん……悪くないな、めっちゃ良い匂いするし柔らかい……って、ちょっと待て!」
初めて会った時のこいつは、優しくて、アホで、純真だった。無理に威厳を保とうとした時でさえ、ここまで強引に自分のペースに巻き込むようなことはできなかったはずだ……ああ、なるほど。
「なあ、お前、俺たちに影響されすぎじゃないか? 話を逸らそうとするその手口、追及や非難をかわす政治家そっくりだぞ」
「確かに。お前が裁判所でやってた陰湿な手口とそっくりだな」
エドワードへの純粋な嫉妬から、マイクが丸めた漫画を武器のように構えながら付け加えた。
ウェネリスはエドワードを撫で続けた。
「そんなことないわ」
「そうか? さっきから胸に顔を押し付けてくるその変態っぷりを見るに、俺たち全員がマイクの予備軍だとでも思ってるんじゃないのか」
「ち、違うわよ!」
ウェネリスはまるで煮えたぎる熱湯にでも触れたかのように、慌ててエドワードを突き放した。
「こ、こ、こうやって愛情を示すのは私にとって普通のことよ! 私は愛の女神なんだからね!」
「完全に事案だろ。警察呼ぶぞ」
「このクソガキ……!」
「おっ、図星突かれて殴る気か?」
ウェネリスは、エドワードの憎たらしいドヤ顔をビンタしようと振り上げた手をワナワナと震わせながら下ろし、深く深いため息をついた。
「でも、あなたが言ったことは正しいわ。あなたたちは偉大な偉業を成し遂げた。決して小さなことじゃないわ。あの強大な『第7号』を退けたんだから」
彼女はついに、慈悲深い女神らしい振る舞いを見せた!
少し恥ずかしそうにしているのが見て取れる。両手を前に組み、うつむき加減でモジモジしている。どうやら暇つぶしに地球の高校へ通い続けているせいで、女子高生(JK)特有のあざとい仕草まで完全にマスターしてしまったらしい。
「ありがとう、ウェネリス。結局のところ、俺たちは少しネガティブになりすぎていたのかもしれないな。最初は散々な目に遭ったが、結果的にはうまくやった。俺たちの勝利は、完全に『俺たち自身の実力』によるものだ」
「その通り……って、えっ、私は!?」
ウェネリスは見事なポーズを崩し、ガシッとエドワードの肩を掴んだ。
「で、でも、私だってあなたたちにたくさん便宜を図ってあげたじゃない! 私がいなかったら、イツロウはあなたたちの攻撃に祝福を与えられなかったのよ!」
「ああ、で、他には何をしてくれたんだ? 暗殺者の集団を打ち破って解体したことや、腐敗したバカ騎士を逮捕させた俺たちの偉業については一言も触れなかったよな」
彼女はついにキレてエドワードを脇に抱え上げ、ぬいぐるみのようにおもいっきりブンブンと振り回し始めた。
「ちがーう! 私は4人のことをずっと見守ってたのよ!」
「頭が! 弟みたいに脇に抱えるのはやめろ!」
エドワードは彼女を力一杯押し除け、叫びながら他のメンバーの安全地帯へと逃げ帰った。
ウェネリスが部屋の隅で体育座りをして、頭にいじけたキノコを生やして泣いている間、一行はこの神域にある元の世界(地球)のアイテムで遠慮なく遊ぶことにした。
彼らは残りの時間をすべて、新刊の少年漫画を読むことに費やした。ウェネリスも、構ってもらえず拗ねた顔をしながら、しれっと輪の中に混ざり込んできた。5人は驚くほど和やかな、ただのオタクの集いのような時間を過ごした。
しかし、スディスタの村にはやがて夜明けが訪れる。彼らが自分の肉体に戻る時間がやってきたのだ。
「みんな、また私と一緒に時間を過ごしてくれるって約束する?」
「みんなって? 展開が早すぎるぜ、ウェネリス。でも、地球の新作アイテムを取り寄せてくれるなら、いつでも喜んで付き合ってやるよ」
エドワードは正直な(そして強欲な)笑顔を見せて答えた。
「じゃあな、ウェネリス!」
4人の友人たちが一斉に声を上げる。
「またね、私の愛しき選ばれし者たち!」
――目を覚ました時、4人の表情は驚くほど穏やかで、目の下にクマ一つなかった。一晩中漫画を読んで遊び明かしたというのに、彼らは絶好調だったのだ。おそらく、魂だけが抜け出していた身軽さと、明晰夢を見ていたような感覚のおかげだろう。
「男子たち、朝ごはんよ! あら、なんだか今日はすごく元気そうね。機嫌も良さそうだし」
アンネステリアが、キッチンからエプロン姿で声をかけた。
「そう見えるか?」
マイクは、完全にリラックスした笑みを顔に貼り付けながら答えた。
結局のところ、この夜はイツロウにとっても、そして3人の友人たちにとっても、最高の形で締めくくられたようだった。




