第16話 全員で挑め! 恐怖の「第7号」!
「ほう、なんという偶然。またお前か、生意気な小僧……」
「おいおい、クソジジイ! 誰が小僧だって?」
案の定、老魔術師マクスウェルが姿を現すなり、エドワードは空気を読まずにいつもの口喧嘩を再開した。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、エドワード!」
そう叫びながら、サンズもちゃっかり魔術師たちの背後に隠れようと全速力で走っていく。
「あそこを見ろ! スディスタの書店のセクハラ男だ!」
「ああ、見えるぞ! 自分の命を賭して、魔王の欠片を必死に押さえ込んでいる!」
(いや……お前らが思ってるような感動的な状況じゃないから)
「きっと村への償いをしようとしているんだ。彼は真の英雄だ!」
(いや……あいつはただ自分の性癖を満たしてるだけだ……書店から何一つ成長してない)
「あの半人前の体格で、あんな恐ろしい化け物を必死に食い止めているなんて。なんという勇気、なんという自己犠牲だ!」
(違う! お前ら、あいつを完全に美化して誤解してる! 今まさに俺たちのパーティーを破滅(社会的な意味で)に導こうとしてるんだよ、クソッ!)
イツロウは心の中で、血を吐くような激しいツッコミを入れた。
「いい加減にしろ、このド変態がぁっ!!」
ズドゴォォォォッ!!
悪魔の膝が、マイクの無防備な腹部に容赦なく深くめり込んだ。
次の瞬間、マイクの巨体はボールのように数メートル先まで吹き飛ばされ、太い木に激突して重い音を立てた。
「マイク!!」
仲間たちは(今回は本気で)心配そうな声を上げた。
「おい、大丈夫か!? 返事しろ!」
サンズがマイクの肩をガッチリと掴み、激しく揺さぶる。
エドワードとイツロウは、悲痛な面持ちで彼を見下ろしていた。マイクはゆっくりとサンズへ手を伸ばし、消え入りそうな声で何かを呟いた。
ドサッ……!
サンズは突然、マイクの肩からバッと手を離した。支えを失ったマイクの体は、情けない音を立てて地面に崩れ落ちる。
「おいサンズ! マイクはどうした!? まさか死んだから手放したなんて言わないよな!?」
エドワードが慌てて叫ぶ。
「彼……満面の笑みで親指を立てながら、こう言いました。『本望だ(ワース・イット)』……って」
(このクソド変態が!!)
エドワードは盛大に呆れ、見捨てようか本気で迷った。
「お前ら、それより少しばかり厄介な問題があるぞ!」
兵士たちの陣形はすでに壊滅状態だった。魔術師たちの攻撃は「第7号」に全く通じず、彼女はただ見下すように鼻で笑っているだけだ。
彼女が一歩進むごとに、周囲の草木は生命力を奪われ枯れ果てていく。
「くそっ、マクスウェル様! 我々の魔法が全く効きません! まさかこいつが……第7号、『魔法の掃除機』!?」
マクスウェルは戦慄していた。
神官たちのバフを受けた上級魔法でさえ、そして腕利きの純エルフ魔術師たちの総攻撃でさえ、彼女の表面を滑り落ちるだけで傷一つ付けられないのだ!
「なんて心地よい魔法のシャワーかしら! もっと私を満たしなさい。メインディッシュの前に、しっかり前菜を味わっておきたいの」
「……ぶふっ」
「ん? 今、誰か笑ったか?」
「ぷっ……くくっ……ヒィッ……アハハハ!」
「またよ! 私をコケにするなんて絶対に許さないわ!」
笑っていたのはエドワードとイツロウだった。彼らはとうとう堪えきれず、腹を抱え、地面を叩きながら爆笑し始めた。
「あんたたち、敵を挑発するのはやめなさい!」
エルフの女性が怒鳴りつける。
(狂気のあまり笑うしかなくなったというのか? 死を悟り、絶望に呑まれたか……可哀想に)
マクスウェルは彼らを哀れんだ。
しかし、彼らが笑い転げている本当の理由は、「第7号」のあまりにもダサすぎる二つ名のせいだった。
(魔法の掃除機!? なんだそのクソダサいネーミング! ラスボス感ゼロじゃねえか! 笑っちゃダメだ、でも無理、くだらなすぎる!)
二人の心は完全に一つになっていた。
「ええい、そこまでじゃ! わしはマクスウェル・ヴァネステリア! この恐るべき脅威を排除する義務がある!」
老魔術師の杖から、太陽のように燃え盛る光の球が放たれた。
「これでも喰らえ! 『極炎の聖光』!!」
第7号の足元から、黄色と紫色が交じり合った巨大な光の火柱が猛烈な勢いで噴き上がった。
大地を揺るがす大爆発が起き、その場に巨大なクレーターが形成される。
「やったか!?」とサンズ。
「なんだ、あのジジイも結構やるじゃねえか」とエドワードがライバル心を燃やして呟く。
ピキッ!
「アイタタタ! 腰が!! わしの腰が!!」
……前言撤回。やっぱりただのポンコツ老人だった。
「マクスウェル大魔導師様! 魔力を完全に使い果たしてしまわれたのですね! あらかじめ我々の魔力を送る護符を背中に貼っておいて正解でした。それでようやく、あの固有魔法が撃てたのですから!」
「ふん、造作もないことじゃ……」
(笑わせるな、他人の魔力をバッテリーにして撃っただけじゃねえか……)
イツロウは冷ややかなジト目を向けた。
「そこの若い民兵さん、私が傷の手当てをします!」
美しいエルフの女性がマイクに駆け寄り、治癒魔法をかけ始めた。
「おお……俺ってなんて幸運なんだ……痛い、痛いからもっと密着して癒やしてくれ……」
マイクはエルフの豊かな胸の谷間をガン見しながら、鼻の下を伸ばして呟いた。
彼女が一生懸命マイクの傷を探している様子を、遠くからエドワードとイツロウが般若のような顔で観察する。
(あいつ、絶対に仮病だろ……後で殺す)
「一瞬だけ驚いたわ。でも残念だったわね、私はその名の通り、全てを吸い尽くすのよ」
「ば、馬鹿な!」
第7号はあの最強魔法を完全に耐え抜いていた。そして彼女が最初にとった行動は、クレーターに近づきすぎていたサンズに飛びかかることだった。
ガシッ!
彼女はサンズの顔面をアイアンクローのように鷲掴みにし、直接魔力を吸収し始めた!
「愚か者め! まずはこの小虫から干からびさせてやるわ!」
「サ、サンズ! マクスウェル、なんとかしろ!」
「む、無理じゃ……さっきの一撃でわしもすっからかんじゃ……もう、おしまいじゃ……」
エドワードが慌てて下級魔法を連発するが、友人が今まさに……全魔力を吸い取られている!?
ギュイィィィン……。
しかし、第7号の顔が次第に赤く染まり、余裕の表情が崩れ始めた。
「ちょっと、あんた……いつになったら死ぬの!? 吸っても吸っても、底が見えないんだけど……!」
「あなたの肌……近くで見るとすごくすべすべですね。マイクの言っていた通りだ」
顔を掴まれ、宙に浮いたまま、サンズがまともに喋り出した。
「はあ!? 違うでしょ、早く死になさいよ! なんでピンピンしてんのよ! なんか気持ち悪いんだけど!」
マイクがガバッと起き上がり、友人を非難するように指差した。
「このラッキーボーイめ!! お前ばっかり顔面を触られやがって!」
(可愛いエルフに手当てされてるお前が言うなよ……)とイツロウは深くため息をつく。
(なるほど、完全に理解した)エドワードの脳内に電流が走った。(サンズの魔力量はほぼ無限……あいつが魔法を使えないのは頭が悪すぎるからであって、タンクとしては超一級品……いろいろと腑に落ちたぜ……。いや待てよ!!!)
エドワードはパンッと手を叩いた。
「マイク、イツロウ! あの悪魔を完全にぶっ飛ばす最強の作戦がある!」
数分の作戦会議の後、三人は悪魔のような笑みを浮かべて頷き合った。だが、彼らは第7号の苛立ちを甘く見ていた。
「もういいわ……自分の手を汚すのは趣味じゃないけど……」
彼女は空いた方の手を伸ばし、鋭い爪を持った拳を強く握りしめた。
「お前だけは特別に物理で殺してあげる」
冷酷で優雅な声。彼女はサンズを直接貫くつもりだ!
「来やがれ!」
「生意気なガキが!」
彼女が腕を振り下ろそうとした瞬間、マイクが分厚い盾をフライングディスクのように投げつけ、見事な近接戦闘へと持ち込んだ!
「見ろ! あの民兵だ! 彼から神聖な光が溢れ出ているぞ!?」
エドワードとイツロウの額には、いつの間にかマクスウェルからパクった護符がキョンシーのお札のように貼られていた!
「マイクが僕の命を救ってくれました!」
「ああ、だがなサンズ。この世界を救うのは俺たちじゃねえ、お前だ!」
エドワードはサンズの胸ぐらを掴み、その額に護符を『ピシャァァンッ!』と勢いよく叩きつけた!
それは魔力譲渡のための特殊なタリスマンだった!
「続きは分かってるな、マイク!」
エドワードが手を前に突き出すと、手のひらからオレンジとブルーの星屑のような魔力の粒子が猛烈な勢いで形成され始めた。
「俺の合図だ、マイク! 今だ!!」
マイクはフラッシュステップで後ろにフェイントをかけ、予備のカイトシールドで強烈な裏拳を放った! ダメージこそ与えられなかったが、第7号の軽い体を空高く打ち上げるには十分だった。
「このふざけた力、そして残酷で容赦のない力によって、俺の鬱憤を打ち砕かせてもらう。だがそれだけじゃない! マイク、イツロウ、そしてサンズ(の無限魔力)! お前たちと分かち合うこの喜びと興奮もすべてブチ込んでやる!」
「これで終わりだ! 『星屑の直射光』!!」
「だから、そんな魔法は効かないっていつになったら理解するの!?」
彼女は空中で叫んだ。
しかし、第7号はその極太の光線を受け止めるのに必死だった。
ただの魔力のはずだ。だがこれは……祝福を受けたような、圧倒的で神聖な暴力的な魔力!?
「こんな……こんな終わり方、認めるもんですかぁぁぁっ!!」
彼女は絶叫した。
星屑の大爆発と眩い閃光が走り、猛烈な突風が周囲のすべてを吹き飛ばした。
そして、静寂が訪れる。
砂埃が晴れ、風が攻撃の残滓を散らしていくのを待つこと数分……立っていたのは三つのシルエットだけだった。
マイク、イツロウ、そしてエドワードだ!
イツロウとエドワードのタリスマンは黒焦げの灰と化し、サンズは白目を剥いて完全に力尽きていた。
どうやら、エドワードの超絶燃費の悪い魔法とイツロウの固有スキルを、サンズの無限魔力(タリスマン経由)で無理やり回した結果、サンズのツルツルの脳みそが少々オーバーヒートしてショートしてしまったようだ。
ゴホッ! ゴホッ!
「……殺してやる……」
第7号がよろめきながら立ち上がった。足元はおぼつかないが、まだ生きている。
「よくも、よくもこんな真似を! この許されざる屈辱、絶対にタダでは済まさないわよ!」
マイクが一歩前に出てトドメの構えをとるが……パリンッ!
彼の盾が唐突に砕け散り、彼を包んでいた神聖な光も、雲の切れ間から消え去るようにスゥッと消滅してしまった。
(((ヤベェ!!)))
三人の心の声が見事にハモった。
「ふん、聞こえてないフリをしたって無駄よ! 怖気づいたんでしょ? ボロボロとはいえ、お前たち全員を消し炭にするくらいの魔力はまだ残っているのよ!」
「……ハッタリだな」
エドワードは、冷や汗をかきながらも、この世の真理でも語るかのような絶対的な真顔で言い放った。
「は、はぁ!? 冗談じゃないわ、自分の状況が分かってるの?」
「だったらどうして撃ってこない? やってみろよ」
二人の間に激しい視線の交錯が起きる。エドワードは自信に満ちた不敵な笑みを1ミリも崩さない。
やがて、悪魔は諦めたようにフッと微笑んだ。
「ふふっ……案外、馬鹿じゃないみたいね。私の言葉の裏を見抜いたこと、褒めてあげるわ」
エドワードは第7号と真剣な視線を交わし、互いの健闘を称え合うかのように笑い合った。
「これが私の最期かもしれないわね……どうして私がハッタリをかましていると分かったの?」
「当てずっぽうだ。でも今は、イツロウの加護がなくてもマイクがお前を何とかできると確信してるぜ」
重苦しい沈黙が落ちる……。
彼女はうつむき、顔を引きつらせた。互いを認め合ったあの美しい空気は完全に粉砕された。
「そう……この、クソ嘘つきが」
「負け惜しみだな」とエドワード。
マイクが力強い足取りで前に出た。盾の残骸を振り上げ、トドメの一撃を……放とうとした。
だが、スローモーションのように彼の動きはどんどん遅くなっていった……。
彼の視線は、第7号の諦観した表情から、徐々に下へとスライドし……破れた服から覗く、彼女の『巨大な主張』に完全に釘付けになっていた!
その一瞬のドスケベな隙が、致命傷だった!
「『転移』! シュンッ!」
……マイクはゆっくりと振り返った。その顔にはだらしないアホ面のような笑みが浮かんでいる。彼はのんきな足取りで二人の元へ戻ってきた。
「……逃げられたわ」
「ふざけんなこのクソガキ!! お前のせいで台無しだ!!」
二人の怒号が響き渡った。
――半分だけ成功したこの戦いの後、おバカな男たちは村の真の英雄となっていた(相変わらずその小さな背丈のことは村人たちにイジられていたが)。
拠点に戻ると、アンネステリアがまるで母親のように彼らを優しく甘やかしてくれた。
……あ、ちなみに彼女は17歳だ。彼らとたった2歳しか変わらない。驚きだろう?
サンズはひどい知恵熱と体調不良に陥っていた。しかしこの戦いを経て、友人たちはついに彼に「真の利用価値」を見出したのだ。そう、ただの『携帯用魔力タンク』として。
イツロウは、ウェネリス様と素晴らしい時間を過ごした秘密をずっと仲間に隠していた。グループの中で自分だけが神に特別扱いされているという、優越感を味わいたかったからだ。
残念なことに、マイクのあの愚行(ガン見)のせいで魔王の欠片を逃したため、彼らが受け取った報酬はすずめの涙ほどだった。
賞金の大部分は環境破壊の損害賠償に充てられ、残りの大金はなんと、またしてもマクスウェルの懐に入ってしまった!
目撃者の大半が「一番活躍したのは極炎の聖光を撃ったマクスウェル様だ」と証言したためだ。あのクソジジイ、事実を一切否定しやがらなかった!
ともあれ、数々の騒動を終え、ボスの計らいで休暇をもらった4人は、ついに心地よい夜を迎えていた。
少なくとも、イツロウだけは素晴らしい夜になるはずだった。
「おお、天よ! 私に交信の権利を与え給え! その力を貸し与え、この世界の偉大なる存在と一つになることをお許しください! ……ていうか、ウェネリス様、お願いします!」
そう、他のメンバーが死んだように爆睡している間、イツロウは自分のスキルを利用して密かにウェネリスと時間を過ごし、独占的な心の癒やしを得ようと企んでいたのだ。
唐突に、体内の魔力が掃除機に吸われるように空っぽになる感覚に襲われた。
その瞬間、彼はほんの短く瞬きをした。
目を開けると、そこは果てしなく広がる青空と、暖かな太陽の光が降り注ぐ、緑豊かな大草原だった……。
なぜか、他のバカ3人と一緒に。
「ウェネリス、ぶっ殺してやる!!!」
「ひっ、お願いエドワード、落ち着いて! 髪引っ張らないで! さっきから何度もごめんなさいって謝ってるじゃない!」
「謝って済むか! 俺の人生を台無しにしやがって! なんで『転移』じゃなくて『転生(実質殺人)』なんだよ! しかも俺の魂のパクリを作って、俺の代わりに高校生活を満喫させてるだぁ!? さらに最悪なのは、あいつ(クローン)が俺より先に彼女作ってんじゃねえか!! 許さねえ!!」
イツロウは、自分だけの秘密の園、自分だけが特別だと信じていた聖域が、目の前でガラガラと音を立てて崩れ去っていくのを見ていた……。
「よお。見ろよサンズ、イツロウがいるぜ」とマイクがポテトチップスを食いながら言った。
「やあ、イツロウ、こっち来なよ。ウェネリス様に領域へお呼ばれしたんだ。ドラゴンボールの最新話、出てるよ」とサンズが漫画を片手に手を振る。
そう、イツロウにとって、この甘い夜は全く予想外の(そして最も騒がしい)結末を迎えるのだった。
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