第14話 愛の女神、再び?!(第2部)
「それはさておき! 重要な情報をお伝えします。生者の世界に戻ったら、十分に警戒してくださいね。魔王の『魂の欠片』が、あなたたちの近くを非常に危険な状態でうろついています!」
「魂の欠片? 魔王の? 一体なんだそりゃ?」
「説明すると長くなりますが……まあ、RPGでいうところの『中ボス』だと思ってください。行動範囲の制限がなく、いつでもどこでも突然エンカウントする可能性のある、徘徊型のボスです」
まあ、この駄女神にしては珍しく役に立つ情報をくれたな。結局のところ、俺たちはこの理不尽な世界で完全に放置されてるわけじゃないらしい。
「なるほど、要するに厄介なイベントボスってことだな! それなら事前に対策すればなんとかなるだろ。ああ、ところで、さっきから床に転がってる食いかけのカップラーメンと少年漫画が気になって仕方ないんだけど。気にするな、俺も大の漫画好きだからジャッジはしない。でも、どうやってそれをこっちの世界(神域)に持ち込んだんだ?」
「たまに当たり前のこと聞きますよね。私は『金星愛美』としての女子高生ライフも地球で続けてるんですよ。高校生活、マジで最高ですからね!」
正直、彼女の気持ちは痛いほど分かる。こんな何もない緑の平原で一日中、威厳のある女神のフリをして座っているなんて、疲れるし退屈で死にそうになるだろう。
「なあ、愛美。ダチが帰ってきたら、俺の魂を体に戻してくれないか? それまで少しの間ここに残って、あんたが床に放置してる面白そうな漫画を読みたいんだ。もしラーメンが余ってるなら、それももらうよ」
ウェネリスは「ヒャッ!」と小さく甲高い声を上げた。顔がみるみるうちに赤く染まっていく。嫌がっているというよりは、俺にそうフラットに頼まれて嬉しそうだった。
「はい! いつまででもいていいですよ! ねぇ、恋愛漫画とか読みます?」
「あー……いや、俺は『ドラゴンボール』の最新話を読もうと思ってたんだ。てか、今見たらその単行本、あんまり開かれた形跡がないな……」
「そ、そんなことないです、ストーリーはちゃんと知ってますよ! 宇宙の猿が金髪になってめっちゃ強くなるお話ですよね!」
ああ、その浅すぎる一言で、彼女がドラゴンボールについて何一つ知らないことが完全に証明された。
それ、にわかがこの作品について知ったかぶりで語る時のテンプレだろ……。
「……あんたがそう言うなら、そうだな」
ラーメンをすすり、漫画を読み漁ること約30分。ウェネリスはついに俺の魂を肉体に戻してくれた。
現実に戻ると、エドワードとマイクは、クエストボードがある酒場から追い出され、手ぶらで肩を落として戻ってきていた。
エドワードの奴、きっとまたあの傲慢な策略をやりすぎて、酒場の荒くれ者たちをキレさせたに違いない。
サンズはというと、結局また村の子供たちと泥だらけになって遊んで終わったようだ。俺たちに盗まれた5万ヴェンヌを取り返すことなど、すっかり忘れたか諦めたのだろう。アホで助かった。
俺は、ウェネリスとの間に起こったことについては一切口にしなかった。
この神様との直通ラインという特権を享受するのは俺一人で十分だし、運が良ければヒロイン枠として彼女の『女神ルート』に入れるかもしれないだろ?
イツロウにとって、この日は悪くない気分で終わった。
エゴイストな4人のダチは、ある者は満足し、ある者は疲れ果てて、それぞれの思惑を抱えながら眠りについた。
――朝が来た。村は……どこか慌ただしく、落ち着かない空気に包まれていた。
一番に目を覚ましたマイクは、村の酒場に向かっていた。一人で。
酒場のウェイトレスたちは彼の顔を覚えていた。また水だけ頼んで席を占領するか、クエストボードを見るふりをして、あの彼特有のねっとりとした『変態の視線』でこっちを観察するつもりだろう、と警戒の目を向ける。
しかし、マイクはチャリン、と3,333ヴェンヌ(昨日のスライム討伐の惨めな取り分)をカウンターに置いた。しっかりとした朝食をとるのに十分な額だ。
「聞いたか? エリート近衛兵たちが1週間前に遠征に出たまま、二度と戻ってこないらしい」
「ああ、聞いたよ。この辺りにいる超強力なモンスターの仕業かもしれないな」
「いや、そうは思えない。通常、将校たちは自らは戦闘に参加しないから、部下がやられても彼らだけは必ず戻ってくるはずだ。つまり、何者かが意図的に部隊ごと彼らを全滅させたってことだ」
「魔王の仕業だって言うのか? 噂の『魂の欠片』の?」
「分からないが、俺は事態が落ち着くまで別の地域に避難するつもりだ。特に、周りの雑魚モンスターの数が1週間前より明らかに減ってるしな。嵐の前の静けさってやつだ」
ベテラン冒険者のグループが、深刻な顔でそんな話で盛り上がっていた。
マイクはハードボイルドな探偵のように聞き耳を立て、一言一句聞き逃さなかった。
彼は巨体を丸め、一切の動揺を見せることなく、優雅にパンケーキを切り分け、落ち着いた様子で甘いミルクココアをすすっていた(厳つい見た目と飲み物のギャップが凄まじいが)。
食べ終わると、彼は口元を拭い、敬意を払ってカウンターにチップを置いた。
店主は驚きを隠せなかった。スディスタのドワーフ――いや、彼らの新しい通り名である「スディスタの臆病なガキども」の一人から、無言でスマートな支払いを受けるとは予想もしていなかったのだ。
マイクはカラン、とベルを鳴らしてクールに店を出ると、歩道の中央で立ち止まった。
そして、深く、大きく息を吸い込んだ。
「ヤベエエエエクソがあああ!!! あいつらに知らせねえと!!!」
彼はハードボイルドの皮を一瞬でかなぐり捨て、白目を剥いて全速力でアンネステリアの本屋へと猛ダッシュした。
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