第14話 愛の女神、再び?!(第1部)
ウェネリスは、ファンタジー風にアレンジされた神々しいギリシャ風のトーガを身にまとい、後光を背負った自信に満ちた優雅な足取りで俺に近づいてきた。
「よくぞ私を呼んでくれました。久々の訪問客ですが、あなたのことはちゃんと覚えていますよ、親愛なる選ばれし者よ」
彼女は俺の目の前で立ち止まり、少し身をかがめて慈愛に満ちた目線を合わせた。圧倒的な威厳のオーラを放っている。
「そんなに恥ずかしがらないで、選ばれし者よ。恐れることはありません。混乱するのも無理はないでしょう。再びこの場所にやってきたのですから」
ウェネリスは相変わらず息を呑むほど美しく、女神の微笑みを浮かべながら俺の手を取り、細く柔らかい指で優しく絡めとった。
「まさか言葉を失ったわけではないですよね、親愛なる選ばれし者よ? 私を呼び出したのはあなたなのですから」
しかし、俺はその神聖な魅力に全く動じず、ジト目で一点を冷ややかに見つめていた。ウェネリスの瞳が、わずかに泳ぐ。
「なぁ……あそこの茂みにあるの、食いかけのカップラーメンか?」
ピタッ。
ウェネリスはつまずきそうになり、頭からつま先までガクガクと不自然に震え始めた。
「ちょっと待て……お前がさっき座ってた神聖な草の下に隠してあるの、週刊少年漫画じゃないか?」
俺は自分の目を疑った。このユニークスキルの発動方法をようやく見つけたと思ったら、行き着いた先はすべての始まりの場所であり、自分の俗物全開な趣味を必死に隠し持っている『駄女神』の目の前だった。
「わ、わが領域へ、ふ、再びようこそ……!」
要するに、俺が突然やってくるとは思ってなかっただけだ。で、神としての体裁を保つために急いで俺を誘惑し、この散らかった部屋(神域)から目を逸らさせようとしたってわけか。
絶対、女好きのマイクと勘違いしてるだろ。この駄女神、俺たちのことなんて全然覚えてねえ!
「なあ、あんた俺の名前覚えてないだろ。図星か?」
「お、覚えてますとも! 失礼な!」
「じゃあ、俺の名前は?」
「えっと……イツロウ! あなたはイツロウです!」
「いや、俺はマイクだけど」
「あ、あぁっ! やっぱりそうですよね! マイクさん!」
「今のはカマをかけただけだ! 適当に名前言っただろ、図星か?!」
彼女はボロ泣きしそうな顔で視線を激しく泳がせた。マジでガキだな、こいつ。
というか、なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだ?
ダンジョンのアサシンといい、このチート級(笑)のユニークスキルといい、次にどんな理不尽な罠が降ってくるか簡単に予想がつくぜ。
「ところで、俺がここで何をしてるのか教えてくれないか? 適当に中二病みたいな愚痴をこぼしてたら、いつの間にかここにいたんだけど」
おや、質問されて急に嬉しそうに胸を張ったな。嫌な予感しかしない。
「当然のことです、イツロウ。あなたたちを無防備なまま危険な世界へ放り出したりはしませんよ。私から特別な固有スキル(ユニークスキル)を授けたではありませんか!」
嘘だ。もしそうなら、この地球はチート能力者だらけになってるはずだ。この女神は神という地位の割に、あまりにも精神年齢が低すぎる。
「そりゃどうも、ダチと俺を代表して心から感謝するよ! だから別のスキルと交換してくれ。俺はクラスチェンジして、あの無能なサンズみたいに無限に近い魔力を持つ魔法使いになりたいんだ」
「えっ!? で、でも私が与えたものの方が千倍は素晴らしいですよ! 私の助けや加護を直接求めることができるんですから! この特権のためにどれだけの人が殺し合うか分かっていますか?」
必死に言い訳してるあたり、俺たちに実質的な才能を何一つ与えてないってことの証明だな。唯一してくれたのは、願いを一つ叶えてくれたことだけだ。
その願い(スマホの充電など)も、結局何の役にも立ってないわけだが。
「まあいい、加護って言ったか? あんたにそんなことできるのか?」
「もちろんです! 私は愛の女神ですよ? 選ばれし者にちょっとした手助けをするくらい、できて当然じゃないですか」
「それはすごいな!」
結局、嘘じゃなかったのかもしれない。直接加護を与えられるなら、間違いなく大当たり(チート)を引ける。
「驚いたでしょう? えへん!」
彼女は誇らしげに鼻の下をこすっている。まるで何か特別なことでもしたかのようにドヤ顔をしているが、俺からすれば神様ならできて当然の最低ラインだ。
「で、罠はどこにある?」
「罠? ええと、私の名の下に祈り、呪文を唱えれば、味方に加護を与えられるようになりますよ!」
「もう一度聞くぞ。罠はどこにある?」
「あー……ごめんなさい、ちょっと質問の意味がよく分からなくて」
絶対分かってるだろ、この役立たず! 誰を馬鹿にしてるんだ? 明らかに視線を逸らして質問をはぐらかしてる!
「ただ、加護を求めるには……大量の魔力が必要になります……人間と神の間で直接コンタクトを取るには、魔力をものすごーく消費するので」
結局、状況は何も変わらねえじゃん……。効果も分からない加護のために、毎回魔力をすっからかんにして気絶しなきゃならないなら、普通のバフ魔法で十分だろ。
「別にいいさ。俺がここに来れたってことは、あんたの領域にテレポートできるくらい俺の魔力が増えたってことだろ」
「そういうわけでは……」
「なら、加護なんて朝飯前だな。ん、待てよ?」
ウェネリスは顔を真っ赤にして、好きな人の前に立つ女子高生のようにモジモジと指を絡ませていた。
「あ、あなたをここに連れてきたのは、下界で私を呼ぼうとしてるみたいだったから……きっと魔力を使い果たしてフラフラになってるんだろうなと思って……それで特別に、あなたの魂を私の領域に引き上げてあげたんです」
普通ならここで罪悪感を煽ってやるところだが……彼女は寂しさを紛らわせたかったのか、すごく気まずそうにしていた。
このくらいのワガママなら許してやってもいいか。それに、彼女を『愛の女神』として知る前は、俺にとって何よりもただの「金星愛美(あこがれの同級生)」だったことを忘れてはいけない。
そういえば、俺たちの家族はどうしてるんだろう……俺たちが突然消えて、きっと心配で生きた心地がしてないはずだ。
「ちょっと待て」
「どうしました、イツロウ?」
「なあ、もしあんたが人の魂を自分の領域に連れてきたとして……ただのランダムな推測だけど、残されたその人たちの『体』はどうなるんだ?」
「え? 体は死んでますよ、当然じゃないですか」
「……は?」
「あ、そういえば、あなたたちが屋上のドアの前で落ちた時、せっかくなら『ドラマチックな登場』にしようと思って、まさにそれと同じことをしたんです!」
「冗談だろ?」
「屋上から落ちて地面に激突する瞬間に、あなたたちの魂だけをポンッとキャッチして、おまけにこの異世界に合わせて元の体を完璧に再構築したんですよ! こんな神業、誰にでもできるわけじゃありませんからね! えへへっ!」
女神がペラペラと笑顔で意味不明なサイコパス発言を続けている間、俺は彼女の底知れぬバカさ加減に対する純粋な恐怖と、このクソ女神を今すぐ絞め殺してやりたいという衝動の間で激しく揺れ動いていた。
こいつ、今「お前らを物理的に見殺しにして、この世界での転生を異世界転移と偽った」って自白しやがったぞ! このクソアマ!
「ねえイツロウ、なんでさっきから生まれたての小鹿みたいにプルプル震えてるんですか?」
本気でなんで震えてるか聞いてるのか? こいつナチュラルボーン・サイコパスだ、間違いない! 今も俺の魂を握ってるんだぞ!
「お、俺が震えてる? いや、あんたが俺たちをこの世界に『転移(という名の殺害)』させたせいで、両親が俺の死をどう思ってるか考えてただけだ!」
「ああ、その件ならご安心を! 全部完璧に手配済みです!」
彼女は俺の肩にポンッと手を置いた。一瞬、心臓が止まりそうになった。
理性ではドン引きして恐怖を感じているのに、至近距離で見る彼女の顔面偏差値は本当に高すぎる!
「これは私たちの秘密ですよ? あなたたちの代わりとして、地球で生活する『別の魂』を用意しておいたんです! もちろん、あなたたちが魔王を倒すまでの間ですが」
「馬鹿だろ! 親なら俺たちの様子がおかしいって絶対気づくぞ!」
「それが、今までご両親はあんなに誇らしげにしたことないくらい喜んでますよ! 『うちの子が急に真面目で立派になった!』って。特にサンズ君のご両親なんて毎日お赤飯を炊く勢いです。ご兄弟も同じですよ!」
……つまり、俺たちの実の家族でさえ俺たちの不在を喜び、本物よりも『偽物の優等生』の方を好んでるってことか?
なんだその、クソみたいな人生。
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