第13話 クエストと労働の狭間で!(第3部)
翌朝。爽やかな小鳥のさえずりと、のどかな鶏の鳴き声が村に響き渡る中……。
「俺の財布!! どこ行った!? 中身がすっからかんなんだけど!?」
平和な朝の静寂を無惨に切り裂く、悲痛な絶叫が響き渡った。
自分の装備を買うためにウキウキで早起きしたサンズだったが、引き出しの奥には、哀れな1万ヴェン(ただの小銭)しか残されていなかったのだ。
「おやまあ、残念だったなサンズ。財布に羽でも生えて飛んでいったんじゃないか?」エドワードが優雅に紅茶をすすりながら、白々しく言った。
「ほんとツイてねえな。あんなに一生懸命(お留守番して)稼いだ金なのによ」マイクもわざとらしく同情して首を振る。
「ああ、この世界がどれだけ理不尽で残酷かってことを、改めて突きつけられた気分だよ」イツロウが、聖者のような一点の曇りもない顔で天を仰いだ。
真実は言うまでもない。犯人は復讐と嫉妬に飢えた彼の友人たち――正確には、昨晩の屈辱を深く根に持ったイツロウとエドワードである。
彼らは、自分たちがこの世界で味わっている悲惨な状況の元凶であるサンズに対し、未だに海より深い恨みを抱いていた。あんなお荷物野郎が、三人合わせたよりも稼いで、あまつさえ貴族のように振る舞ったという事実が、どうしても許せなかったのだ(※残りの4万ヴェンは二人の懐にきっちりと収まっている)。
「この世界、クソすぎんだろぉぉぉっ!!」サンズの血を吐くような絶叫が、虚しく村の空へ吸い込まれていった。
この悲惨な強盗事件の後、アンネステリアが親戚を訪ねるために数日店を閉めることになったため、サンズは失った金を取り戻すべく、血眼になって別の軽い日雇いバイトを探しに出て行った。
マイクとエドワードは、ダンジョンでゴブリンをあっさり倒せた経験(※実際は急所蹴りと石での撲殺だが)から、ゴブリン討伐の美味しいクエストが出ないかと酒場の掲示板に張り込むことにした。
結果、イツロウ一人が本屋に残ることになった。彼は「皆が戻るまで店の留守番を完璧にこなす」と、いかにも責任感のある顔で自ら志願したのだ。
もちろん、その本性は「手や足を汚すことなく、一人で平穏無事にソファでダラダラと昼寝をしたかっただけ」なのだが。
(さて、何をして時間をつぶすか……)
イツロウは誰もいない店内で大の字になり、ぼんやりと天井を見つめた。
(ぶっちゃけ、この世界でも自給自足でクールなソロプレイができると思ってたけど、案外暇だな。俺の人生って、あのアホどもに依存してツッコミを入れなきゃならないほど底辺だったか?)
(そうだ、未だに使い道がわからない『天の呼び声』のスキルの発動条件でも探ってみるか)
(この固有スキル(チート)を手に入れてから、どうやって使うのか全くわからなかったけど……もしかして、単純に俺の魔力の総量が足りなかっただけとか?!)
イツロウはソファからガバッと起き上がり、あるアイデアを閃いた。
(いや待て、そんなことしたってどうせ……いや、もしかすると?)
「おお、我は天に呼びかけ、交信の権利を乞う! 我に力を与え、この世の偉大なる者たちと一つにさせ給え!!」
イツロウは本屋のど真ん中で、天井に向かって両腕を大きく広げ、思いつく限りの最も陳腐で中二病全開のセリフを、やけに芝居がかったイケボ(低音)で叫んだ。
そのままのポーズで数秒間フリーズする。
……シーン。
何も起きない。時計の秒針の音だけが、虚しく店内に響く。
「……まあ、わかってたけどな。誰にも見られなくてマジでよかったぜ」
イツロウは猛烈な羞恥心で顔を真っ赤に染め、ひどく落胆して深いため息をついた……。
だがその直後。
ズンッ!
突然、自身のなけなしの魔力が、巨大な掃除機で吸い取られるようにスッカラカンに枯渇する奇妙な感覚に襲われた。
その瞬間、彼はほんのまばたきをする間だけ、意識をブラックアウトさせた。
再び目を開けると、彼は見渡す限りの緑の平原に立っていた。頭上には広大な空が広がり、柔らかく暖かな太陽の光が降り注いでいる。吹き抜ける風が、青々とした草を優しく揺らしていた。
この場所には、見覚えがあった。あの日、彼らが理不尽に異世界へ送り込まれた、あの場所だ。
「再び我が領域へようこそ、イツロウ」
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