第13話 クエストと労働の狭間で!(第2部)
「起きろお前ら! 今日はスライム狩りだ!」
「お前は昨日の夜、もう別のモンを狩ってたじゃねえか」
「うるせぇ口閉じてろ! 早く準備しろ、遅れるぞ!」
しっかりと腹ごしらえを済ませ、道中ずっとエドワードをイジり倒した後、一行はスディスタの村の郊外、農家や牧場が広がる平原へと到着した。
「よし、作戦は覚えてるな? 俺たちがやるべきことはスライムを倒すこと、それだけだ。スライムが最弱の魔物だってことは周知の事実だが、あいつらは目の前にあるものを手当たり次第に食って吸収する。このクエストなら、スライムを一匹倒すごとに1万ヴェンは手に入るはずだ!」
エドワードのこの上なく励みになる指示のもと、マイクがグループの先頭に立った。
「ふん、プロの動きってやつを見せてやるよ。俺の『民兵』クラスにかかれば、あんなもん一瞬で殲滅だ」
「最弱クラスの一つじゃなかったっけ?」
「違うわ!」
「あ、そういやお前なんで剣持ってないの? 忘れたのか?」
「は? いや、昨日も言っただろ、俺はこのチームのキャプテン・アメリカ的なポジションなんだよ。二つ名は『リトル・ソルジャー』か『ソルジャー・ボーイ』で迷ってるところだ」
(こいつアホなのか? 盾しか持ってないのにどうやって敵を倒す気だ? しかもその盾には魔力が全くないし、そもそもコイツ自身にも魔力がないだろ!)
イツロウとエドワードは内心でそう突っ込んだ。
「そういえば、サンズはどこ行った?」とマイクが尋ねる。
「あいつは本屋でバイトだろ。ここにいてもどうせ足手まといだしな」
しかし、突如としてゴム毬が跳ねるような、ベチャッとした音が響き渡った。
ボイン、ボイン、ボイン。
「お前ら、構えろ!」イツロウが叫び、剣を抜いて戦闘態勢をとる。
三人は自信たっぷりに足を踏み出した。スライムのフォルムは、どこか哀愁が漂い、むしろ可愛らしくすらある。
(こんな奴らのどこにビビる要素があるってんだ?)彼らはそう高を括っていた。
「ファースト・キルの経験値は俺がいただくぜ!」
そう叫ぶや否や、マイクは超人兵士のごときスピードで突進した。好機とばかりに飛び上がり、ターゲットに向かってナイフを真っ直ぐに投げつける。
ピシュゥゥゥ……。ナイフはスライムを貫通しなかった。いや、待て。ナイフが溶けている?
マイクは勢いよく立ち止まったが、エドワードとイツロウの視線は別のスライムに釘付けになっていた……。
「嘘だろ……」二人は震える声で息を漏らす。
彼らの目の前で繰り広げられている光景に、全員の瞳孔が開いた。
「エッグい!!」彼らは叫んだ。
なんと一匹のスライムが、彼らの目の前で家畜の牛をドロドロに溶かしていたのだ。あまりにもショッキングで、猟奇的な光景だった……。
「おい集中しろ! まだ倒せる! 物理攻撃が効かないなら、魔法とバフで攻撃するだけだ!」
エドワードとイツロウは我に返った。マイクの放ったその自信に満ちた言葉に、再び活力を取り戻す。
「ああ、お前の言う通りだ。それに俺には作戦がある!」
「完璧だ、行くぞ!」
その言葉通り、彼らは例の作戦を実行に移した。
1時間に及ぶ死闘の末、彼らはクエストの報酬を受け取るためにスディスタの酒場へと戻ってきた。
「は!? なんで1万ヴェンしかもらえねえんだよ!? 俺たち、あのスライムを10匹は狩ったぞ!」
「申し訳ありません……今回のクエストの主な目的は、畜産農家の家畜を保護することでした。報酬の大部分は、失われた家畜の補償金として相殺されます。何しろ、それが契約の絶対条件でしたので……」
エドワードは足を引きずりながら、待っていた二人の元へと合流した。
友人たちは彼の帰還を喜ばしく迎えた。なにせ、10万ヴェンが手に入れば、一人あたり3万3333ヴェンの大金が手に入ると信じて疑っていなかったのだから!
マイクとサンズが丸一ヶ月働いて稼いだ額よりも、はるかにデカい稼ぎだ!
「ほらよ、これが全額だ」
マイクとイツロウは目を丸くした。
その場に長い沈黙が降り下りたが、なぜこんなハシタ金しか貰えなかったのかを聞かされた時、彼らはようやく「なぜそうなったのか」を思い出した。
エドワードの立てた作戦とは、彼がプレイしていたゲームでよく知られた「ファーム(稼ぎ)」のテクニックだった。
すなわち、モブやNPCをデコイ(囮)として使い、自分たちは1ミリのダメージも受けずに安全な場所から敵を一方的にボコるという外道戦法である。
彼らはその作戦を忠実に実行し、家畜がスライムに生きたまま食われているのを完全に放置した。そしてその間に、イツロウのバフを受けたエドワードが、威力は弱いがスライムには劇的に効く火球の魔法をチクチクと撃ち込み続けたのだ……。
結果として、彼らはクエストに成功し、同時に大失敗を犯したのだった。
「……帰るか」三人は深いため息をついた。
本屋にたどり着いた頃には、彼らは疲労困憊し、あらゆる感情を失い虚無に陥っていた。
「あら、やっと帰ってきたのね!」
「まあ、可哀想に。とっても疲れた顔をしてるわ。美味しいご飯はいかが? 今夜のディナーを作り終えたところなのよ!」
サンズはエプロン姿で箒を手にしていた。汗をかいた形跡すらなく、アンナステリアが彼にいかに楽な仕事を割り当てていたかは火を見るより明らかだった。
「お前ら、なんだそのお通夜みたいな顔は? で、結局いくら稼いだんだ? レベルは上がったのか?」とサンズが尋ねる。
「ほら、サンズ。今日はお疲れ様」
「うおお! ありがとうございますアンナステリアさん! って、えっ!? これ5万ヴェンも入ってるじゃないですか!」
「ええ、今日は本当によく働いてくれたからね。労働には正当な対価が支払われるべきよ!」
この圧倒的な不条理を目の当たりにした三人は、ただ呆然と立ち尽くした。
彼らは自分たちのスッカスカの財布を見つめ、再びサンズの分厚い財布へと視線を戻した。
彼らの脳内を占めていたのは、ただ一つ。あいつの不当な財布を強奪してやりたいという黒い欲望だけだった!
食卓につくと、一行は出された食事に貪りついた。
「ねえ……みんな、今日はどんな一日だったの?」アンナステリアが、自分に突き刺さる殺気立った視線に居心地の悪さを感じながら恐る恐る尋ねた。
「ああ、大したことじゃないっすよ。スライムを10匹ばかりぶっ殺して、底辺みたいなハシタ金を貰ってきただけなんで!」エドワードが吐き捨てるように答える。
イツロウとマイクは、狂気に満ちた絶望の笑い声を上げ始めた。
「やれやれ、お気の毒に……。住む世界が違うとはまさにこの事。これぞ富裕層の紳士と、惨めな平民を分かつ壁というわけですな」サンズが、貴族のような気取った口調で言い放った。
食卓に、重苦しい沈黙が落ちる。
「今、まさに自分が階級社会の階段を登りきったのを実感しておりますわ。オーッホッホッホ!」サンズが、鼻持ちならない貴族そのものの笑い声を響かせた。
残りの三人は無言のまま席を立ち、それぞれの部屋へと消えていった。
「サンズ……あなた、さすがにちょっと調子に乗りすぎたんじゃないかしら……」アンナステリアがテーブルを片付けながら、ポツリとこぼした。
「俺はこれをカルマって呼んでるだけさ」
この疲労と屈辱に満ちた一日の後、友人たちは赤子のように泥のように眠り、当然の休息を満喫した。
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