第2話 愛の女神 (第3部)
「この冒険、先が思いやられるな……。俺たち男子高校生四人を召喚した理由もガバガバすぎるし」いつろうがため息をついた。
彼は少し考え込んでから言った。
「まあいい。この世界に放り込まれるんなら、せめて『スターターパック』くらいもらえるんだろうな?」
ヴェネリスはついに気を取り直したように笑顔を見せ、元気に親指を立てた。
「もちろんです! 手ぶらで送り出したりなんてしませんよ。まず、この世界の言葉を話し、読み、書くことができるようになります。そして、アトラス王国の巨大都市のすぐ近くに転送してあげます!」
彼女は続けて人差し指を立てた。
「さらに! あなたたちの元の世界とは違い、この世界には能力の限界がありません! つまり、訓練すればするだけ本当に強くなれるんです! まあ……凄まじい潜在能力があればの話ですが」
彼女はウィンクをして見せた。
「ただし、この進化は皆さんが『偉業』を成し遂げた時にしか起こりません。ゴブリンを退治したり、王国に貢献したりすることでね!」
「要するに、クエストと経験値(XP)のシステムで成長するって説明しただけだろ……」エドワードが非常に懐疑的なトーンで要約した。
ヴェネリスは目を丸くし、女神らしい美しいポーズのまま固まった。
「当ててやろうか……この世界での『人間』のポテンシャルは低いんだろ? 誤魔化そうとするなよ。ゴブリンがいるってことは、他にも色々な種族がいるってことだからな」イツロウが冷ややかに推測した。
彼は顎に手を当て、分析的な顔つきになった。
「状況を整理しよう。あんたは男子高校生四人を、中世レベルのファンタジー世界に放り込もうとしている。どうせ貴族の腐敗や、ろくでもない宗教組織がはびこってる世界なんだろ。そこで俺たちに与えるのは、コミュニケーション能力とクエストシステムだけ……で、魔王を倒してこいって?」
彼がヴェネリスを睨みつける。
女神は責任逃れをするように、一瞬だけスッと目を逸らした。
そして、逃げ場を失った彼女は、消え入りそうな声で呟いた。
「えっと……みなさんの願いを『一つだけ』叶えてあげることもできますよ……」と、彼女は恐る恐る提案した。
四人の少年たちは目を丸くしてヴェネリスを見た。
「「「「待て、マジか!?」」」」四人の声が見事に重なった。
エドワードがだらしなく笑う。
「これで死ぬほど金稼ぎができるぜ!」彼は架空の札束を数えるように指をこすり合わせながら歓喜した。
隅の方では、イツロウの目が暗く沈んでいた。彼はすでに、チート能力を手に入れて自分だけのマキャベリ的帝国を築き上げる妄想に取り憑かれていた。
「ど、どんな願いでもいいのか!?」マイクは顔を真っ赤にしてどもった。天を仰ぎながら、スケベな笑みとともに口の端からヨダレを垂らしている。
「えー、俺はとりあえず、スマホの充電を満タンにしてほしいな。バッテリーやばいし……」
サンスがスマホの画面をアホ面で見つめながら言った。
パチンッ!
指を鳴らす音が響いた。
「ほーい、完了です!」ヴェネリスは両手を頬に当てて喜び、見事に約束を果たしてのけた。
残りの三人はゆっくりと首を回してサンスを見た。
「「「お前、頭イカれてんのか!?」」」彼らは激怒した。
だが、エドワードは静かに鼻で笑い、ヴェネリスの前に進み出た。
「気にするなよサンス。俺の将来の宮殿に住まわせてやるからよ」
そして、この上なく鼻につくドヤ顔で、エドワードはコホンと咳払いをした。
「さて、親愛なる女神様。俺の願いですが、アトラス王国に送られた時、俺が超絶大金持ちになっているようにしてくれ!」
「ええと……それは無理ですね」ヴェネリスは申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべた。
「もちろん、その王国の金で圧倒的な大富豪に……ん? は?」エドワードは、彼女が今言ったことを理解して言葉を失った。
彼は震える指を突き出し、突然信じられないほど丁寧な口調に戻った。
「む……『無理』とは、どういうことでしょうか……?」




