第12話 ついに自由の身! 俺たちの冒険者ライフが始まるぜ! (第1部)
スディスタ村の日常は、今日も活気に満ちていた。
子供たちが通りを駆け抜け、砂埃を舞い上げる中、通行人たちが商店の屋台を冷やかしている。
しかし、村にあるとある書店の奥にあるリビングの中だけは、全く異なる空気が漂っていた。
「男の子たち、紅茶を淹れてきたわ――きゃっ!」とアナステリアが小さく悲鳴を上げる。
彼女の持つお盆が危険な角度に傾き、ティーカップが磁器にぶつかってカチャカチャと音を立てた。
「おや? これは我らが愛しの店長殿。ご機嫌いかがかな?」
エドワードが、三流貴族のように甘ったるく間延びした声で言った。
1ヶ月前、ダンジョンから無様に帰還して以来、この4人のろくでなし(ギャレー船の奴隷並みのチンピラ連中)がこれほど大人しかったことはない。
少なくとも、そのうちの2人は。マイクとサンズはローテーブルの周りには見当たらなかった。
イツロウが、自分には大きすぎるバスローブに身を包んだまま、ゆっくりと立ち上がった。
タオル地の裾が床を擦っており、手を出すために何度も長すぎる袖を不格好にまくり上げなければならない。
「やれやれ、店長殿。そのお盆、私にお持ちさせてください」と、イツロウは一点の曇りもない胡散臭い笑顔を浮かべた。
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、イツロウ、私一人で大丈夫よ。それより、マイクとサンズはどこへ行ったの?」
エドワードの口角が、耳まで届くほど不気味に大きく吊り上がった。
「奴らなら当然、店長が俺たちに恵んでくださった仕事のほかに、ちょっとした小遣い稼ぎ(肉体労働バイト)に出かけてますよ」
実際、死に物狂いでダンジョンから逃げ出して以来、彼らの状況は劇的に変化していた。
暗殺者たちから回収した契約書のおかげで、偽善者の騎士セアリウス・ゴルトステリアを法廷で堂々と告発することに成功したのだ。
さらに良いことに、彼らが(完全に馬鹿げた偶然と卑怯な手段の連鎖によって)『三日月』の恐るべきリーダーであるゾルネリウスを打ち倒したと知ったヘスティリアのポンコツ裁判官たちは、掌を返して彼らの前科をすべて帳消しにしてくれた。
ついに自由の身だ。さよなら、偉業団!
ただ一つだけ問題があった。任務終了ということは、装備の返還を意味する。
最高級の素晴らしい制服を返却しなければならず、その結果、現在の彼らは安宿のバスローブ姿という情けない状態なわけだ。
クエスト参加報酬である3500万ヴェンヌという天文学的な賞金については……完全に消え失せていた。
暗殺者に追い詰められたエドワードとイツロウを光の速さで救出するため、マイクとサンズは老魔術師マクスウェル・ヴァネステリアに転移魔法を懇願しなければならなかった。
復讐心に燃えるあのエロジジイは二つ返事で引き受けたが、その代償として彼らの報酬を『全額』要求したのだ。完全なる合法的な強盗である。
それでも、アナステリアは彼らを両手を広げて歓迎し、宿と書店での簡単な仕事を提供してくれた。
だが、冒険者の生活には金がかかる。
そこでこの1ヶ月間、エドワードとイツロウはソファの上から威張って「後方支援」をこなし、マイクとサンズの『仲間を置いて爆睡していた』という罪悪感を嬉々として搾取し、村での割に合わない過酷な下働きを彼らに押し付け続けたのだ。
すべては資金を貯めるため。
今日、その極貧節約生活がついに実を結ぼうとしていた。彼らは、記念すべき初めての『初期装備』が配達されるのを待ちわびていたのである。
「ああ、そうだったわね、忘れてたわ。でも、あなたたち二人はいつも騒がしくて、顔を合わせれば子犬みたいにケンカばかりしてるのに……今日は随分静かじゃない?」
「何の話か全くわかりませんね、店長。さあ、そのお盆をお持ちしましょう」
イツロウはお盆に向かって両手を伸ばし、不気味なほど真っ直ぐなサイコパス・スマイルで書店員を見つめた。
アナステリアは慌てて片手を空け、イツロウの手首をグッと下へ押し戻すと、自分で安全にローテーブルへとお盆を置いた。
エドワードは、計算し尽くされたゆっくりとした動作でカップの一つを手に取った。見せつけるように優雅に小指を立て、琥珀色の液体に息を吹きかけ、一口すする。
「ふむ……店長が淹れた紅茶はなんて美味なんだ」
アナステリアの頬がほんのりと桜色に染まった。
「あなたは本当に素晴らしい人です、店長」
イツロウも自分の分の熱い紅茶を手に取り、クッションに深く沈み込んだ。
アナステリアは顔を真っ赤にして床に視線を落とした。
彼女は緊張した様子で髪の毛をいじり、ドレスの生地を握りしめるその指の関節は白くなっていた。
「あなたと離れるのは本当に寂しいですよ。今日装備が届いて、冒険者ギルドのクエストで自活できるようになれば……俺たちはきっと、もっと良い拠点を探して出て行くことになりますからね、店長」
「嫌っ! それだけは絶対に嫌あああ!」
アナステリアはドンッ!と鈍い音を立てて床に膝から崩れ落ちた(ORZのポーズ)。
絶望に満ちた顔でローテーブルの端にしがみつき、ちょうどエドワードの顔と同じ高さになる。
エドワードは、心底満足そうな悪魔の笑みを唇に浮かべながら、カップの中で紅茶を優雅に揺らしていた。
「本当に、残ってくれる気はないの? 仕事の量は減らしてもいいわ! お給料も弾むから!」
「残念ですが……」エドワードは最後の一口を飲み干し、イラつくほどゆっくりとカップを置いた。「男4人で同じベッドに寝るなんて、マジで地獄なんですよ! わかります? 俺たち、個別のベッドすらないんですよ!」
イツロウもついにカップを置いた。
「その通り! ギルドを見つけ次第、酒場の部屋でも借りて出て行きます。こんな割に合わない下働き、もうウンザリですからね!」
イツロウはイライラした様子で文句を言い、いよいよ鬱陶しくなってきた長すぎるバスローブの袖を何度もまくり上げた。
コンコンコンッ。玄関の扉を叩く鋭い音が3回響いた。
「「あっ! ついに来た!!」」二人は声を揃えて歓喜した。
彼らは、床で泣きじゃくっているアナステリアを完全に無視し、なんなら跨ぐような勢いで猛ダッシュでドアへと向かった。
エドワードが勢いよくドアを開ける。だが、その満面の笑みは一瞬でドロドロに溶け落ちた。
「あー……なんだ、お前らか」エドワードが心底ガッカリしたように露骨なため息をついた。
「なんだって何だよ! こっちは一日中、死ぬほど身を粉にして働いてきたんだぞ!」サンズがわざとらしく厳しい顔を作って言い返す。
「こいつは一日中、何一つ働いてねえよ」背後から現れたマイクが、死んだ魚のような目で冷酷に訂正した。「事実上、俺一人で全部の仕事をこなした。こいつは外でガキどもと泥んこになって遊んでただけだ」
指を差されたサンズは、ヒュ~と口笛を吹きながらパチパチと瞬きをして目を逸らした。彼は何食わぬ顔でリビングに入り、そのままソファにドサッと寝転がった。
一方のアナステリアは気を取り直して戻ってきたが、マイクの巨体を見るなりバッと目を逸らした。彼女は本がぎっしり詰まった棚へ逃げるように向かい、はたきを持って狂ったような猛スピードで掃除をしているフリを始めた。
「今日のアナステリアさん、なんか変だな……何があったんだ? なんで俺、親の仇みたいに避けられてるんだ? もしかして、前に襲われたフリ(自作自演)をしたこと、まだ怒ってるのか?」
マイクは疲労で眉間におうとつを作りながら推測した。
「さあな。俺に言わせりゃ、お前が夜中にトイレで変なことしてるのを見られたからじゃないか?」
エドワードが窓の外を眺め、荷物の到着を待ちわびながら適当に言い放つ。
「ち、ちげーよ! 濡れ衣を着せるな、エドワード! 俺はまだ純潔だぞ!」
……(残念ながらな)、とマイクは少し顔を背け、自分の叶わぬ妄想を嘆くように小声で付け足した。
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