第9話 危険手当すら出ねぇのかよ!(第2部)
突然、アナステリアの柔らかな手がマイクの太い手首をギュッと掴んだ。
『ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ! 俺の脈拍は完全にフルスロットルだ! 中二の時に下駄箱に入ってた偽のラブレターをもらった時と同じくらい激しく波打ってる!』
「マイクさん、私、本当に心配していたんですよ! もうダメかと思ってました。でも、あなたに……」
「シーッ……」
マイクの震える人差し指が優しく彼女の唇に触れ、その言葉を三流ヒモ男のようにキザに遮った。
「分かってます。でも、これは……許されざる恋なんです」
「え、えっ!?」
「隠さなくていいですよ。あなたが俺に夢中なのは百も承知です。あなたのような美しいレディからのアプローチを断らなければならないなんて、俺の心も張り裂けそうです」
「い、いえ、そういうことじゃなくて……」
「何も言わないでください。辛いのは分かります。でも、この残酷な拒絶を受け入れるしかないんです!」
その勢いのまま、マイクはサンズの襟首を子猫のように引っ掴み、酒場の出口へと向かってラグビー選手のように猛突進した。彼は血が滲むほど下唇を強く噛み締めていた。
『生まれて初めて……女からの告白を断ってしまった……!』内心で血の涙を滝のように流しながら。
後ろに取り残されたアナステリアは、ポカーンと口を開け、猛烈な勢いで瞬きをしながら、虚空に向かって手を伸ばしたまま立ち尽くしていた。
酒場を出てすぐ、マイクが村を離れるために乗合馬車の方へ歩き出した時だった。
「マイク、今日のお前なんかおかしいぞ。なんで仲間を増やすチャンスを自分から潰すんだよ! まともな異世界モノなら、俺たちをサポートしてくれるチート固有スキルを持った美人四人に囲まれてるのがデフォだろ!」マイクの後ろを引きずられながらサンズが不満を漏らす。
「お前、バカなのか!? 俺たちが異世界の主人公なわけないだろ! 完全に頭イカれてるぞ! ここに来てから新しいトラブル(主に逮捕)が舞い込んでくるばっかりだし、この世界は最悪だ! 俺は生まれて初めて女の誘いを断ったんだぞ! くそったれぇぇっ!」マイクは頭を抱え、髪を鳥の巣のようにぐちゃぐちゃに掻きむしりながら天に向かって叫んだ。
彼は頭上で、見えない空気をむしり取るような八つ当たりの身振りを繰り返した。
『サンズが究極のポジティブ思考なのか、それともただの底抜けのアホなのか、俺にはもう判断できねえ。エドワードとイツロウもそうだ。自称・教官が「3500万ヴェンヌ稼げる」って言っただけで、これまでの極限の苦痛を全て忘れるなんて! どう考えても胡散臭すぎるだろ!』
「見つけましたよ!」
マイクはピタリと足を止めた。
『この声……まだ諦めてないのか! もういい、どうにでもなれ! 彼女は俺のストライクゾーンど真ん中だし、色気もあるし、自分の欲しいものを分かってる大人の女だ!』
マイクはクルッと振り返り、少女漫画のヒーローのように両手を広げた。
「分かりました、アナステリアさん! 俺の完全な負けです! 二人の愛のために、エドワードからの大目玉も全てを投げ打つ覚悟ができました!」
「は? なんで私がこんなガキと付き合わなきゃいけないのよ! 犯罪でしょ!」
「年齢なんてただの数——えっ、今なんて?」
マイクの脳が完全にフリーズし、エラー音(ピガガガッ!)を鳴らした。彼は首を傾げ、アホのように口を半開きにした。
アナステリアは誤解を解くために、目の前で必死に手を振った。
「ごめんなさい、マイクさん。あなた、全然私のタイプじゃありません。裁判であんなことを言ったのは、面倒事に巻き込まれたくなかったからです。でも、あの『ボールペン』の話は本当ですよ。原稿を書くのにすごく便利ですからね」
「あ……そうですか」
マイクの巨体が、スライムのようにズシリと地面まで落ちた。
『どうせうますぎる話だとは思ったよ。この世界に来たからって、急にモテ期が到来するわけがない。四人の中じゃ一番デカいとはいえ身長166cm(シークレットブーツ込み)じゃ、どこの世界でも基準値以下ってことか……』
「じゃあ、アナステリアさん。マイクに何を伝えに来たの?」とサンズが尋ねた。
「あなたたちが裁判で『偉業団』を選んだと聞いて、警告しに来たんです。今すぐ伝えなきゃと思って……」
彼女の目尻に本物の涙が浮かび始めた。
「この世界で最も危険な仕事の一つなんですよ! なんであなたたちみたいな非力な若い子たちが、あんな命がけの仕事を選んだんですか!」
「い、命がけ?」マイクとサンズの声が見事に重なり、情けなく裏返った。
「あなたたち、本当に何も知らないんですか、このおバカさんたち!? 給料は確かに破格ですけど、リスクが高すぎます! 最初の任務での『死亡率は80%』なんですよ!」
「「は、はちじゅっパーセント!?」」
二人の顔から一瞬にして全ての色が失われ、石像のように白く固まった。
『終わった……完全に終わった!』マイクとサンズは心の中で完全にシンクロし、瞳孔を針の穴のように極限まで収縮させた。
「ま、ま、待って! ただの警備の仕事だろ!? 普通に街をパトロールして、迷子の猫を探すだけじゃないのか?」サンズが滝のように汗を流しながら、必死に自分を落ち着かせようとする。
「何言ってるんですか? 洞窟の中ででも暮らしてたんですか? 可哀想な子供たち……神様は本当にあなたたちに『脳みそ』を与えなかったのね」アナステリアは呆れ果てて言った。
彼女の細い指が、母性本能全開で、ガクガクと震えるマイクとサンズの手をきつく握りしめた。
「若い命が無駄に失われるのを見過ごすなんてできません。奉仕期間が終わるまで、私の家に隠れていなさい!」
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