第9話 危険手当すら出ねぇのかよ!(第1部)
四人は顎が床につくほどぽかんと口を開け、見事にフリーズした。ヘスティリアの大都市をただ掃除するだけで、あんなに稼げる仕事があるだって?
『そんなの、もはや詐欺レベルだろ!』と彼らは心の中で激しく突っ込んだ。
だが、すぐに彼らの口角は耳まで裂けんばかりに吊り上がり、目にお金のマーク($)を浮かべながら、微塵の罪悪感もなく揉み手をして喜んだ。
イツロウとエドワードが温かい風呂に入って昼寝をするために兵舎へ戻る中、マイクとサンズはスディスタの村へ向かう乗合馬車に飛び乗っていた。
目的地は、村の酒場だ。
「ねえ、お兄さんたち。もう一時間も水だけで座りっぱなしだけど。今日のランチに何か問題でもあった?」
不機嫌そうなウェイトレスの一人が彼らのテーブルに近づいてきた。
店に到着して以来、サンズは顔の半分を片手で覆い、指の隙間から女性冒険者たちをジッと見つめ、痛々しいほどの『ダークでミステリアスな男(中二病)』のオーラを醸し出そうとしていた。
その横で、マイクも目を細めて意味深な視線を送っていたが……突如として、彼の腹から雷鳴のような野太い腹の虫の音が「ギュルルルルッ!」と鳴り響き、その偽りのミステリアスさはあっさりと粉砕された。
「冷水を頼む。ピッチャーでな、ジョージアさん」
「私はカトリーヌだけど……すぐ持ってくるわね!」
『足早に去っていったな。きっとシャイなんだろう。確かに俺たちのようなダークなオーラは人を威圧しやすいからな。俺の膨大な魔力に目が眩んだに違いない』と、サンズは本気で思っていた。
マイクは顎を手に乗せ、深いため息をついた。
『サンズのしょうもない作戦に耳を貸すのは、いつだってろくな結果にならない』
刑期が終わる頃には、このテクニックで俺たちのパーティーは女の子だらけになるってあいつは約束した。
確かにそのテクニックは効果があったが、半分だけだ。釣れる女の子ってのは、ウェイトレスのことだったからな。
しかも、テーブルに来るウェイトレスはドン引きして毎回違う人に変わる。
むしろ、前のウェイトレスたちは二度と俺たちのテーブルに近寄りたくないと思ってるようにすら見えるぜ。
「なあサンズ、こんな痛いポーズで本当にハーレ……仲間が集まるのか?」
「もちろんだとも。英語で言うところの『trust the process(過程を信じろ)』ってやつさ」
サンズは中二病ポーズを崩さず、虚空を見つめ続けている。
『言うまでもなく、こいつは完全に頭がお花畑だ』とマイクは心の中でツッコミを入れた。『あの女神が「心優しき勇者たち」なんて夢物語を語って俺たちを送り込んだこの世界が、本物のファンタジーだと信じてるのはこいつだけだ』
このファンタジー世界、見た目に騙されそうになるが、中身はただの現代社会(しかもクソみたいな司法制度)と変わらねえ。俺たちのチート能力はどこにある? 伝説のスキルは?
無いんだよ。誰かがアホな願い事をしたせいだからな。
最悪なことに、証拠品はすべて破壊された。つまり、充電満タンだったサンズのスマホは文字通り木っ端微塵になったってことだ。
まあ、確かに俺たちのやりすぎ感は否めない。俺だけは別だがな。あの司書さんは俺に気があるし。
とはいえ、ここからどうやって伝説の勇者になるのか全く見当もつかない。
特にこの村じゃ、俺たちが来て以来、完全にヤバい奴らとしてバカ扱いされてるしな。
「おいサンズ、普段なら俺もお前のこういうノリは嫌いじゃない」
「ああ?」
「今回お前についてきたのは、単に腹が減ってたからだ」
「そうなのか?」
「この真新しい制服を見せびらかせば、可愛い女の子を勧誘できると思ってたんだよ」
「できてないか?」
「現実を見ろ。この村での俺たちの評判は地に落ちてる。チャンスはほぼゼロだ」
しかし、マイクの悲痛な警告にもかかわらず、サンズは微動だにせず顔に手を当てたポーズを維持していた。
『こいつはもう手遅れだな……』と、マイクは首の後ろを擦りながらため息をついた。
「あの、すみません……もしかして、マイク・タロウさんですか?」
マイクの巨大な肩がビクッと跳ねた。
『この声、間違いない! 超絶美人の図書館司書、アナステリアだ!』彼の血が沸騰したが、テーブルの下で拳をガタガタと震えながら硬く握りしめた。『普段なら速攻で口説きにいくところだが、俺たちは一ヶ月の奉仕期間が終わるまで大人しくしていなきゃならない。ここでやらかせば、エドワードとイツロウから絶対に大目玉(物理)を食らう!』
「あー、人違いじゃないですかね。俺はそんな名前じゃ……」
マイクの額に滝のような冷や汗が浮かぶ。
『くそっ、誘惑に勝つのは至難の業だ! 何か自分を抑える方法を見つけないと!』
彼はサンズの方に首を向け、眼球が飛び出そうなほど目を大きく見開いてパチパチと瞬きを繰り返し、必死の無言SOSサイン(モールス信号)を送った。
「あ、裁判で発情してた女の人じゃん! 心配しなくていいですよ、こいつは間違いなくマイクです。たぶん、ただの照れ隠しなんで」と、サンズが相変わらず絶望的なほど空気を読まずに、一瞬で彼を売り飛ばした。
「おいサンズ……エドワードがお前に秘密を一切教えない理由が、今になってよーく分かったぜ……」
「秘密って何?」マイクの殺意のこもった死んだ目を、サンズは不思議そうに見つめ返した。
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