第97話 ばら撒き政策
「福音をすべての魚にー!」
「福音をすべての魚にー!」
朝。
俺たちが岩場へ行くと、魚たちが集まっていた。
「…………何してんの?」
メジナが振り返った。
「ばら撒き政策を求めています」
「ばら撒き政策?」
イトヨリダイが海面を見上げた。
ちょうど教祖がコマセを撒いていた。
「もう毎週やってるっす!!!!」
福音が降ってくる。
「福音だー!」
「福音だー!」
「もっと撒けー!」
魚たちが一斉に集まった。
「これ政策じゃなくて釣りっすよ!!!!」
「でも福音は必要です」
キタマクラが前へ出た。
「私たちキタマクラとネンブツダイは、生活保護というアミコマセがないと生きていけません」
「昨日まで普通に生きてたっすよね!?」
「生活保護を打ち切られたら死んでしまいます」
「海に餌あるっす!!!!」
別の魚が叫んだ。
「これは不正受給だ!」
イトヨリダイが振り返った。
「誰っすか!?」
「メジナです」
「お前も福音待ってたっすよね!?」
「それとこれは別です」
「どう別なんすか!!!!」
俺は静かに頷いた。
「生活を守るということは、生活を守っていくということだ」
「チカメさん?」
「何?」
「いや……何でもないっす」
◇
「だったら選挙をしよう」
誰かが言った。
「なんで!?」
イトヨリダイが振り返る。
「一番福音をくれる魚を選べばいい」
「政治の始まり方が最悪っす!!!!」
すぐに三匹の魚が前へ出た。
一匹目のメジナが叫ぶ。
「私が選ばれたら、すべての魚に百福音を配ります!」
「おおー!!!」
歓声が上がった。
「財源どうするんすか!?」
「教祖です」
「他人のコマセで選挙すんなっす!!!!」
二匹目が前へ出る。
「私は二百福音を配ります!」
「おおおー!!!」
一匹目が慌てた。
「では私は三百福音!」
「おおおおー!!!」
三匹目が叫ぶ。
「五百福音!」
「うおおおおおー!!!」
「政策がオークションになってるっす!!!!」
「千福音!」
「二千!」
「五千!」
「もう教祖そんなに持ってないっすよ!!!!」
俺は候補者たちを見た。
「できない約束は、できる約束にしていくことが大切だ」
「チカメさん!?」
「何?」
「さっきから何言ってるんすか!?」
「政治の話をしてる」
「何も言ってないっす!!!!」
◇
選挙運動が始まった。
「福音を増やします!」
「おおー!」
「生活保護を増やします!」
「おおー!」
「税金をなくします!」
「おおおー!」
イトヨリダイが止めた。
「ちょっと待つっす!」
「何ですか?」
「そもそも税金まだないっす!!!!」
「なくします!」
「だからないっす!!!!」
「完全撤廃します!」
「最初からゼロっす!!!!」
歓声が上がった。
「すげえ!」
「税金ゼロだ!」
「この魚にしよう!」
「何もしてないっすよ!!!!」
候補者が続ける。
「さらに医療費も無料にします!」
「おおー!」
「魚に医療ないっす!!!!」
「教育費も無料!」
「学校もないっす!!!!」
「高速道路も無料!」
「道路がないっす!!!!」
「すげえ!」
「全部無料だ!」
「この魚すげえ!」
「何一つ存在してないっす!!!!」
俺は拍手した。
「ゼロという数字も、ゼロである限りゼロなんだ」
「チカメさん今日どうしたんすか!?」
◇
そこへキンメダイが泳いできた。
「ねえねえ、私も投票できる?」
「もちろんです!」
「誰に入れたらいいの?」
候補者たちが一斉に叫んだ。
「百福音!」
「五百福音!」
「千福音!」
キンメダイが考えた。
「じゃあ千!」
「理由が清々しいっす!!!!」
キントキダイも来た。
「私は政策を比較して決める」
「おお!」
イトヨリダイが嬉しそうに振り返った。
「やっとまともな魚が来たっす!」
キントキダイは候補者を見た。
「お前は?」
「五百福音です」
「お前は?」
「千福音です」
「では千福音」
「比較したの金額だけっす!!!!」
俺は頷いた。
「選挙とは、一票を投じることで一票を投じたことになる」
「知ってるっす!!!!」
◇
その時。
海面から大量の福音が降ってきた。
「来たー!!!」
魚たちが一斉に上を向いた。
「追加財源だー!!!」
「財源じゃないっす!!!!」
さらに福音。
「教祖が政策を支持したぞ!」
「支持してないっす!! 釣ろうとしてるだけっす!!!!」
海面の向こう。
海上レクサスから教祖の声が聞こえた。
「今日は食いがいいですなぁ」
追加のコマセが投入された。
「うおおおおお!!!」
「景気対策だー!」
「違うっす!!!!」
「もっと撒けー!」
「福音を増やせー!」
「生活を守れー!」
「針も入ってるっすよ!!!!」
誰も聞いていない。
福音へ群がる魚たち。
その中を針が落ちていく。
「これ、ばら撒き政策じゃなくて罠っす!!!!」
俺は海面を見上げた。
「針があるということは、針がそこに存在しているということだ」
「チカメさん!!!!」
「何?」
「帰ってきて!!!!」
◇
結局。
選挙は、千福音を公約したメジナが勝った。
「やったー!」
「福音だー!」
「千福音だー!」
魚たちが当選したメジナを囲む。
「では千福音ください!」
「ください!」
「ください!」
メジナが困った。
「…………」
「早くー!」
「千福音ー!」
「…………まだ教祖が撒いてないので」
「え?」
「次回の福音まで待ってください」
魚たちが静かになった。
「今ないの?」
「ありません」
「じゃあ何で千福音って言ったの?」
「選挙中だったので」
「…………」
「…………」
イトヨリダイが前へ出た。
「公約違反っす!!!!」
魚たちが一斉に騒ぎ始めた。
「嘘つきー!」
「福音返せー!」
「まだ貰ってねえよ!!!!」
「辞めろー!」
「選挙やり直せー!」
「次は二千福音だー!」
「反省が一個もないっす!!!!」
俺は騒ぐ魚たちを見ながら、静かに頷いた。
「誰も読んでいないということは、これから初めて読まれるということだ」




