第93話 ミノカサゴ、買い物に行く
翌日。
イトヨリダイが、朝からやたら元気だった。
「ミノたん、買い物行くっす!」
「なぜじゃ?」
「昨日ので、かわいいの絶対似合うと思ったんすよ!」
「…………」
「行くっす!」
「ま、待て! わっちはまだ何も――」
「チカメさんたちも行くっすよ!」
「俺たちも!?」
こうして俺たちは、イトヨリダイに連れられて買い物に行くことになった。
岩場の一角には、服やアクセサリー、雑貨など、色々な物が並んでいた。
魚たちも何匹か集まり、それぞれ商品を眺めている。
「いっぱいあるっすよー!」
「おお……!」
ミノカサゴが目を輝かせた。
「あ、これかわいい」
キンメダイが一着手に取る。
「それいいっすね! ミノたん、絶対似合うっす!」
「わ、わっちが着るのか?」
「着るっす!」
「じゃが、少し可愛すぎぬか……?」
「大丈夫っす!」
「…………」
イトヨリダイがミノカサゴを連れていった。
しばらくして。
「ミノたん、出てくるっす!」
「…………」
「ミノたーん?」
「こ、これは……わっちには少し可愛すぎぬか?」
ミノカサゴがおそるおそる出てきた。
「かわいいっす!!」
「似合う」
「そ、そうか……?」
ミノカサゴがモジモジしている。
「ちょっと回ってみるっす!」
「こ、こうか?」
くるっ。
服だけその場に残った。
「…………」
「あっ、脱げたっす!」
「魚じゃから仕方ないのぉ」
「じゃ、もっと引っかかるやつ探すっす!」
「う、うむ!」
「…………」
次の服。
その次の服。
イトヨリダイとキンメダイが選んでは、ミノカサゴが試す。
「これ、どうじゃ……?」
「かわいいっす!」
「…………そうか」
「こっちは?」
「それも似合う」
「…………そうか」
「ミノたん、これも着るっす!」
「まだあるのか!?」
「あるっす!」
「…………」
そのままアクセサリーの並ぶ場所へ移った。
「あ! ブレスレットあるっす!」
「おお、綺麗じゃの」
「ミノカサゴ、こっちのイヤリングも似合いそう」
「少し大人っぽいのぉ……」
「付けてみるっす!」
「うむ!」
「…………」
イトヨリダイがブレスレットをヒレにつける。
「いいっすね!」
「そ、そうか?」
「こっちも付けるっす!」
「まだ付けるのか?」
反対側にも一個。
背びれにも一個。
「これもかわいいっす!」
「ま、待て、まだあるのか?」
「いっぱいあるっすよ!」
尾びれ。
腹びれ。
背びれ。
胸びれ。
気づけば、ミノカサゴのヒレというヒレにアクセサリーがぶら下がっていた。
「…………どうじゃ?」
「アクセサリースタンドみたいっすね」
「誰が什器じゃ!!!」
「でもまだ付けられるっす!」
「わっちを売り場にするな!!」
キンメダイが別の飾りを持ってきた。
「これもかわいい」
「おお……」
「ミノたん、付けるっす!」
「う、うむ!」
「…………」
完全に三匹の世界になっていた。
俺とキントキダイは、少し離れたところで待った。
「…………」
「どうした?」
「…………」
「そうか」
何も言ってない。
そのとき、店の奥から声が聞こえた。
「ママー! これ買ってー!」
小さなアナゴの子供だった。
白い何かの穴から、嬉しそうに顔を出している。
「ここ住むー!」
母親のアナゴが近づいてきた。
「気に入ったの?」
「うん!」
「…………」
子供のアナゴが奥へ引っ込み、今度は別の穴から顔を出した。
「こっちからも出られるー!」
「広さは?」
「ちょうどいいー!」
「…………」
俺はそれを見た。
白い。
丸い。
大きな穴が二つ。
「…………え?」
もう一度見る。
人間の頭蓋骨だった。
「海難事故の人いた!!!!!」
イトヨリダイが振り返った。
「どうしたんすか?」
「どうしたじゃねえよ!!!」
俺は店の中を指した。
「さっきの服! ビニール袋!!」
「え?」
「ブレスレット! サルカン!! サルカンは釣具!!」
「釣具?」
「イヤリング! 釣り針!!」
「かわいかったっすよ?」
「そういう問題じゃねえ!!!」
俺はアナゴが入っている頭蓋骨を指した。
「で、ついに人骨!!!!」
「これゴミじゃないんすか?」
「最後だけゴミ扱いするな!!!!」
俺は店を見回した。
貝殻や綺麗な石、海藻。
その間に並んでいるのは、人間が海に落とした物ばかりだった。
ビニール袋。
ペットボトルのキャップ。
切れたストラップ。
空き缶。
釣り糸。
釣り針。
「呪いのゴミ置き場じゃねえか!!!」
「お店っすよ?」
「人間側ではゴミなんだよ!!!」
「ママー、これにするー!」
アナゴの子供が頭蓋骨の穴から顔を出した。
「そうねえ」
イトヨリダイは、もう次の商品を見ていた。
「あ! ミノたん、抱き枕あるっす!」
「切り替え早いな!!」
「抱き枕?」
ミノカサゴが近づく。
そこには、魚のような形をした色鮮やかな物が置かれていた。
「…………エギじゃねえか!!!」
「エギ?」
「イカ釣るルアーだよ!!」
ミノカサゴが身体を寄せてみる。
「抱き心地がよいぞ」
「イカが抱くために作られてるけど!!」
「では、抱き枕ではないか」
「そう言われると否定しづらい!!!」
「ミノたん、似合うっす!」
「そ、そうか?」
ミノカサゴがもう一度エギを抱く。
「…………これ、買う」
「買うの!?」
「気に入った」
「本来お前らを釣る側の道具だからな!?」
エギの抱き枕を買うことになった。
その隣には、大きな瓶が横倒しになっていた。
「こちら、フィッシュイーターシェルターです」
店の魚が説明する。
「何それ?」
小魚が瓶の口から中へ入っていった。
そこへ、大きな魚が近づいてくる。
中の小魚を見つけ、そのまま瓶ごと噛もうとした。
ガッ。
「…………」
もう一度。
ガッ。
噛み砕けない。
瓶の中では、小魚が平然としている。
「安全です」
「…………」
俺は瓶を見た。
「一升瓶じゃねえか!!!!」
「フィッシュイーターには噛み砕けません」
「本当にシェルターとして正しい!!!」
「人気商品です」
「人間の酒瓶が防災用品になってる!!!」
買い物はまだ続いた。
しばらくして、イトヨリダイが戻ってきた。
「チカメさん、これ持っててほしいっす!」
「はいよ」
渡された。
ペットボトルのキャップだった。
「…………」
また戻ってきた。
「これもお願いするっす!」
「はいはい」
切れたストラップだった。
「…………」
また来た。
「これも!」
「待て待て待て!」
気づけば俺の周りには、買った物が山になっていた。
隣ではキントキダイも大量に抱えている。
「なんで俺、海洋ゴミ回収してんの!?」
「俺も回収している」
「お前は受け入れるの早すぎるんだよ!!」
遠くからイトヨリダイの声が飛んできた。
「次、あっち見るっすよー!」
「まだ行くの!?」
ようやく帰ることになった頃には、俺とキントキダイは大量の荷物を抱えていた。
「楽しかったっすー!」
「満足じゃ!」
「楽しかったね」
三匹は楽しそうだった。
帰り道。
ミノカサゴは、買ったエギを大事そうに抱えて泳いでいる。
「それ、そんなに気に入ったの?」
「…………」
ミノカサゴがこちらを見る。
「…………うるさい」
「いや、別にいいけど」
「…………」
「かわいいし」
「…………そうか?」
「うん」
「…………そうか」
イトヨリダイが横から覗き込む。
「ミノたん、やっぱそれ気に入ったんすね!」
「うるさい!!」
「また買い物行くっす!」
「しばらくはよい!!」
そう言いながら、ミノカサゴはエギを抱えたまま泳いでいた。




