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第92話 ミノカサゴ、一人称を変える

挿絵(By みてみん)




今日は、久しぶりにミノカサゴが遊びに来ていた。


そしてなぜか、さっきからイトヨリダイと二匹でスマホを覗き込んでいる。



「ほら、これもっす」


「…………ワシと言っておるな」


「こっちも」


「ワシじゃ」


「これも」


「ワシじゃ!」


イトヨリダイが画面を滑らせる。


「あと、このキャラもっすね」


「またワシじゃ!!」



ミノカサゴがスマホを睨んだ。



「ワシは量産型なのか!?」



「割とどこにでもいるっすねぇ」



「そんな……」



俺は横から画面を覗いた。


「何してんの?」



ミノカサゴが不満そうにこちらを見る。


「以前こやつに、ワシという一人称は他にもたくさんいると言われたであろう」


「ああ」


「気になっておった」


「ずっと!?」



イトヨリダイがまた画面を滑らせる。



「あ、この人もワシ」


「もうよい!!」



ミノカサゴが顔を背けた。



「何がいいのかのぉ〜……」


「一人称?」


「うむ。ワシ以外で、ワシに似合うものじゃ」


「もうその文章だけでワシが三匹いるぞ」



しばらく考えていたイトヨリダイが、ぱっと顔を上げた。



「あーしに任せて!」


「何かあるのか?」


「実際に試せばいいんすよ!」


「どこでじゃ?」


「人間相手に!」


「なんで!?」



こうして俺たちは、近くのダイビングポイントまでやって来た。


今日も何人かのダイバーが潜っている。


そのうちの一人がミノカサゴを見つけ、カメラを構えた。



「おー。相変わらず人気だな、ミノカサゴ」



「当然じゃ」



ミノカサゴが大きなヒレを広げた。



「では、行ってくる」


「何しに!?」



「わらわを写すことを許可しよう!」



カシャ。



「わらわの斜め四十五度をくらえ!!」



カシャカシャ。



「姿は写せても、わらわの心まではやるまいよ!」



カシャカシャカシャ。



「わらわを屈服させる写真が、お主に撮れるかな?」



カシャカシャカシャ。



「えっ、何? ゲームのセリフ集?」



ひとしきり撮られて、ミノカサゴが戻ってきた。



「どうじゃ?」


「いいんすけど……」


「なんじゃ?」


「『わらわ』以外ないんすか?」


「わらわ以外?」


「色々試してこー!」


「そんな簡単に変えるものなのか!?」



再び撮影が始まった。



「余の降臨じゃ!」


「いーよ! いーよ!」



カシャカシャ。



「それがしの美技、とくと見るがよい!」


「目線こっち!」



「あちきを見な!」


「いいね! もっと自分出してこ!」


「出しておる!!」



「拙者の横顔、しかと目に焼きつけ――」


「顎引いて!」


「魚に顎を要求すんな!!」



カシャカシャカシャ。



「あたいを撮りな!」


「仕上がってるねー!」


「何がじゃ!?」


「ヒレ!」


「そこ!?」



「うちを見てみい!」


「でかいよ! デカいよ!」


「何がじゃ!?」


「態度が!」


「褒めておらんじゃろ!!!」



カシャカシャカシャカシャ。



「もっといこー!」


「うむ!」


「ヒレ開いて!」


「こうか!」


「いいよー!」


「どうじゃ!」


「最高!」


「もっと!」


「こうか!?」


「いいね! みんな見てるよー!」



「…………みんな?」



いつの間にか、近くを泳いでいたダイバーまで足を止めていた。


一人が撮る。


それを見た別の一人もカメラを構える。


さらに向こうからも寄ってくる。



カシャ。


カシャカシャ。


カシャカシャカシャ。



気づけば、何台ものカメラがミノカサゴに向いていた。



「…………はぁ、はぁ」



「いいよミノたん! その顔!」



「みんなが……見てる……」



「そう! もっとヒレ見せて!」



「いつもより……見てる……」



カシャカシャ。



「かわいいよー! ミノたん!」



「あぁ……毒が……抜けて……いく……」



「いいよー! そのまま!」



「なんじゃろう……この感じ……」



カシャカシャカシャ。



「もっと! もっと自分出してこ!」



「なんか……毒針を一本ずつ抜かれてる感じがする……」



ミノカサゴは、完全にカメラしか見ていなかった。



「ミノたん! かわいいよー!」



カシャカシャカシャカシャ。



「はぁ……すごい……」



また一人、ダイバーが寄ってくる。



「わっち……こんなの……初めてじゃ……」



ミノカサゴが大きくヒレを広げた。



「わっち……」



どうやら、かなり気に入ったらしい。



「わっち」


「わっち」


「わっち」



カシャカシャカシャ。



「あんだけ試して、ほぼ元に戻っただけじゃねえか!!!」



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