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第88話 先月修復したばかりだ




「また他人の家に入ったのかよ!!!」



俺の声が。


広い岩礁の中に響いた。



タコは。


相変わらず。


迷惑そうにこっちを見ている。



「いや、本当にここ俺の家だから」



「分かってるよ!!」



石鯛が言った。



「俺らは知らなかったぞ」



「だからって壁食って入るなよ!」



「食ったのは壁じゃねえ!」


「ウニだ!」


「結果、壁なくなってんだよ!!」



イトヨリダイが。


開いた穴を見る。



「でも、ここ他にも出入口ありそうっすね」



「え?」



周りを見る。



岩の裂け目。



上にも。



横にも。



細い穴がいくつもある。



その向こうから。



普通に小魚が出入りしている。



「…………」



あ。



「岩礁だから入口一個じゃないのか!」



キントキダイが頷く。



「当然だな」



「今気づいたんだよ!!」



キンメダイが言った。



「じゃあ、壁壊さなくても入れたんだね」



「そういうこと言わないで!!」



石鯛たちが。



一斉に。



開いた穴を見る。



「…………」



イシガキダイが言った。



「ミョウバン不使用だったからな」



「言い訳になってねえよ!!」



*



その時。



別の裂け目の向こうから。



声がした。



「貴様ら!!」



「…………」



低い。



よく通る。



さっきまで。



ごちゃごちゃ喋っていた石鯛たちが。



一瞬で黙った。



「どこから入ってきた!!」



岩の向こうから。



一匹のオニカサゴが出てきた。



赤い。



鋭い。



ゆっくり泳いでいるだけなのに。



妙に怖い。



その後ろに。



アヤメカサゴ。



さらに。



少し離れて。



ウッカリカサゴ。



オニカサゴは。



俺たちを見る。



タコを見る。



そして。



壊れた壁を見る。



「…………」



目が止まった。



「先月修復した壁を壊したのか!!」



「先月!?」



タコが言った。



「そうそう、それ」



「知ってたの!?」



「俺の家だから」



「またそれ!!」



オニカサゴが。



壊れた壁の前まで来る。



「誰がやった」



石鯛たちが。



少しずつ。



目をそらす。



オニカサゴの目が。



石鯛たちに止まる。



「貴様らか!!」



*



オニカサゴは。



壁を見る。



ウニを見る。



いや。



ウニがあった場所を見る。



「どうなってる」



誰も答えない。



「ここの担当は……」



一拍。



オニカサゴが。



ゆっくり。



後ろを見る。



「ウッカリカサゴだったな」



「はい!!」



声が裏返った。



「前へ出ろ」



「はい!!」



ウッカリカサゴが。



慌てて前へ出る。



途中で。



貝殻を何枚か落とした。



「あっ!!」



「もう嫌な予感しかしないよ!!」



アヤメカサゴが。



淡々と拾う。



表面には。



細かい傷のような印が刻まれている。



「こちらを」



「ありがとうございます!」



オニカサゴが。



ウッカリカサゴを見る。



「説明しろ」



「はい!」



「なぜ壁が壊れている」



「はい!」



「返事はいい」



「はい!」



「…………」



怖い。



静かなのに。



怖い。



ウッカリカサゴが。



貝殻を見比べる。



「あー……」



「何だ」



「この壁なんですが……」



「うん」



「先月修復して……」



「それは知っている」



「はい」



「なぜ壊れた」



「えー……」



ウッカリカサゴが。



石鯛たちを見る。



石鯛たちが。



ウッカリカサゴを見る。



俺も見る。



「…………」



「何で全員見てんだよ」



*



石鯛が。



先に口を開いた。



「俺らは悪くねえぞ!」



「何がだ」



「ちゃんと家借りてたんだ!」



オニカサゴが。



石鯛を見る。



「どこを」



「さっきの岩穴!」



「誰から」



「カサゴ!」



「誰だ」



「知らねえ!」



「またそこ!!」



俺は言った。



「元の住民もカサゴから借りてたんだよ!」



オニカサゴの目が。



俺に移る。



「本当か」



元の住民が。



頷く。



「はい」



オニカサゴが。



アヤメカサゴを見る。



「記録」



「はい」



アヤメカサゴが。



刻印の入った貝殻を何枚か並べる。



一枚。



もう一枚。



見比べる。



「元の貸し出し記録、あります」



「石鯛側は」



「あります」



「両方あるの!?」



*



オニカサゴが。



ゆっくり。



ウッカリカサゴを見る。



「ウッカリ」



「はい!!」



「説明しろ」



「はい!」



「なぜ同じ場所に二つ記録がある」



「はい……」



「返事はいい」



「はい……」



ウッカリカサゴが。



小さくなる。



「その……」



「言え」



「先住魚の確認を……」



「うん」



「うっかり……」



「またウッカリかよ!!!」



ウッカリカサゴが。



深々と頭を下げる。



「すみません軍曹!!」



イトヨリダイが。



小声で俺に寄ってきた。



「えっ、こわっ」



「何?」



「あの人、軍曹って呼ばれてるっす!!」



「そこ今気づいたの!?」



オニカサゴが。



ウッカリカサゴを見る。



「顔を上げろ」



「はい!!」



そして。



俺を見る。



「原因は分かっただろう」



「分かったけど!」



「ウッカリカサゴがうっかりした」



「そこ普通に受け入れるの!?」



オニカサゴの目が。



少し細くなる。



「海で」



「何」



「ウッカリカサゴのウッカリに難癖をつけるとは」



「…………」



「どういう了見だ?」



「それが海では基本解釈だったの!?」



「当然だ」



「えっ!?」



俺は。



周りを見る。



キンメダイ。



普通に頷いている。



キントキダイ。



普通に頷いている。



石鯛。



普通に頷いている。



イシガキダイ。



元の住民まで。



普通に頷いている。



「ちょっと待って」



俺は言った。



「みんなそうなの?」



キンメダイが首を傾げた。



「だってウッカリカサゴだよ?」



「うん」



「うっかりするよ?」



「…………」



キントキダイが言った。



「それを踏まえて周囲が確認していれば、こうはならなかった」



「周囲が!?」



石鯛も言った。



「そりゃそうだろ」



「お前まで!?」



「ウッカリカサゴに任せたなら、もう一回確認するだろ普通」



「普通なの!?」



イシガキダイが言った。



「俺らも確認しとけばよかったな」



「反省する場所そこなの!?」



元の住民も。



小さく頷く。



「僕たちも……」



「君たちまで!?」



オニカサゴが。



俺を見る。



「何を騒いでいる」



「俺だけ世界の常識が違う!!!」



*



石鯛が。



前に出る。



「じゃあ家の件は終わりだな」



「そうだな」



イシガキダイも頷く。



「次から確認しよう」



「何か丸く収まってる!!」



オニカサゴが。



石鯛たちを見る。



「その件はそれでいい」



「ほら!」



「じゃあ俺ら帰るぞ」



「待て」



「何だよ」



オニカサゴの目が。



岩壁へ向く。



そこには。



さっきまで。



大量のウニがいた。



今は。



ない。



かなり。



ない。



「ここのウニは備品だ」



「…………」



石鯛たちが。



止まる。



「備品?」



俺も聞き返す。



「そうだ」



「ウニが?」



「壁の補修に使っている」



「生きたウニで!?」



タコが。



横から言った。



「前もそれで塞いでた」



「お前はずっと知ってたんだね!!」



「俺の家だから」



「万能だなそのセリフ!!」



石鯛が。



小さく言った。



「ミョウバン不使用だったから……」



「今それ言うなよ!!」



イシガキダイも。



「塩水で……」



「黙ってろ!!」



オニカサゴが。



石鯛とイシガキダイを見る。



「食ったな」



「…………はい」



「強制労働だ」



「は!?」



オニカサゴが。



後ろを向く。



「連れていけ」



「待て待て待て!!」



周囲から。



魚たちが集まってくる。



石鯛とイシガキダイを囲む。



「何でだよ!!」


「俺ら家の件では悪くなかっただろ!!」



「それとこれとは別だ」



「ウニだぞ!!」



「備品だ」



「高級だったんだぞ!」



「知らん」



「ミョウバン不使用で!」



「知らん」



「塩水で――」



「黙れ」



静かになった。



そのまま。



石鯛とイシガキダイが。



ぞろぞろ。



連れていかれる。



「どこ連れてくんだよ!!」



返事はない。



「何やらされるんだよ!!」



返事はない。



「おい!!」



どんどん。



遠ざかっていく。



最後まで。



声だけが聞こえた。



「ミョウバン不使用だったんだぞー!!」



「そこまだ引っ張るの!?」



*



元の住民は。



家に戻れる。



タコの壁も。



また直すらしい。



石鯛とイシガキダイは。



どこかへ連れていかれた。



そして。



ウッカリカサゴは。



普通に残っている。



「…………」



俺は。



ウッカリカサゴを見る。



「何ですか?」



「いや……」



「?」



「…………海ってすごいな」

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