第87話 ここ、俺の家なんだけど
「ダンジョン攻略を食事で進めるなよ!!!」
ウニが消えた岩壁の奥に。
細い隙間が開いていた。
「…………」
イトヨリダイが覗く。
「向こう、広そうっす」
「行かないよ」
「ミョウバン不使用……」
石鯛が入っていった。
「行くんかい!!」
「塩水で……」
イシガキダイも入っていった。
「お前らもう目的変わってるだろ!!」
ぞろぞろ。
ぞろぞろ。
みんな入っていく。
「待てって!!」
結局。
俺たちも追った。
*
狭い岩の隙間を抜けた瞬間。
視界が。
一気に開けた。
「…………」
広い。
さっきまでの海底トンネルとは全然違う。
大きな岩が折り重なって。
その上には何本も裂け目がある。
そこから太陽の光が差し込んでいた。
青い水の中を。
光がゆらゆら揺れている。
小魚がその間を抜けていく。
「きれい」
キンメダイが言った。
「…………うん」
人間だった頃なら。
金払って潜りに来てもいい。
「ミョウバン不使用……」
横を石鯛が通った。
「お前らだけ旅行の楽しみ方おかしいよ!!」
*
「ここ、さっきの場所と繋がってたんすね」
イトヨリダイが周りを見る。
「誰も知らなかったみたいだけどね」
石鯛たちも。
初めて来たらしい。
「何だここ」
「広いぞ」
「ウニあるか?」
「まだ探してんの!?」
イシガキダイが岩陰を覗く。
「ない」
「残念そうにすんなよ!!」
キントキダイが。
奥を見た。
「…………」
「どうした?」
「岩が動いた」
「岩は動かないよ」
「動いた」
「…………」
見る。
大きな岩。
動かない。
「動いてないけど」
その岩から。
ぬるっ。
何かが伸びた。
「…………」
腕。
長い。
岩の裏から。
もう一本。
さらに一本。
さらに。
「…………」
キンメダイが。
俺の横に来た。
「岩じゃないね」
「うん」
岩だと思っていたものが。
ゆっくり。
起き上がった。
「…………」
タコだった。
しかも。
かなり大きい。
「…………」
石鯛たちが止まる。
イシガキダイも止まる。
さっきまで。
「ミョウバン不使用……」
とか言っていた連中が。
全員。
黙った。
「…………」
タコも。
こっちを見る。
「…………」
俺たちも見る。
「…………」
長い。
誰か喋れよ。
イトヨリダイが小声で言った。
「ボスっすかね」
「聞こえるからやめろ」
タコの目が。
イトヨリダイを見る。
「…………」
「聞こえてたっす」
「だから言っただろ!!」
*
タコが。
ゆっくり腕を伸ばした。
石鯛たちが。
一斉に下がった。
「おい押すな!」
「お前が前行け!」
「嫌だよ!」
「さっきまで強気だっただろ!!」
キントキダイも。
少し下がっている。
「キントキ」
「何だ」
「下がってるよね」
「距離を確認しているだけだ」
「確認便利だな!!」
キンメダイがタコを見る。
「こんにちは」
「挨拶すんの!?」
タコが。
キンメダイを見る。
「…………こんにちは」
「返してくれた」
「普通だな!!」
なんか。
思っていたより普通だった。
「すみません」
俺は言った。
「ちょっと通っただけで」
タコが。
後ろを見る。
俺たちが来た穴。
そして。
俺たちを見る。
「通った?」
「はい」
「そこから?」
「はい」
「…………」
タコが。
もう一度。
穴を見る。
「そこ」
「はい」
「壁だったんだけど」
「…………」
全員。
振り返った。
穴。
確かに。
さっきまで。
ウニで埋まっていた。
石鯛が言った。
「ウニがあった」
「知ってるよ!!」
イシガキダイが言う。
「ミョウバン不使用だった」
「今説明に使うな!!」
タコが。
じっと。
石鯛たちを見る。
「食ったの?」
「…………」
「…………」
「…………高級だったから」
「値段ついてねえよ!!!」
*
タコは。
しばらく。
壊れた壁を見ていた。
そして。
俺たちを見る。
「…………」
「何?」
「いや」
タコが言った。
「ここ」
「うん」
「俺の家なんだけど」
「…………」
また。
家。
石鯛たちを見る。
イシガキダイを見る。
さっきまで住んでいた魚たちを思い出す。
そして。
目の前のタコを見る。
「…………」
家。
家。
家。
今日は。
家しか出てこない。
「また他人の家に入ったのかよ!!!」
次回。
『先月修復したばかりだ』




