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第86話 ステータスオープン


「待て!!」



石鯛たちを追って。


俺たちは岩穴の奥へ進んだ。



「…………」



暗い。



入口から差し込んでいた光は、少し進んだだけでもう弱くなっていた。



「ハタは?」


キンメダイが振り返った。



入口を見る。



ハタ。



ハタ。



ハタ。



詰まっていた。



「…………」



来れない。



「入口にいてもらおう」


「完全包囲は?」


「入口だけ完全包囲だよ!!」



キントキダイが言った。



「問題ない。相手もこの先に逃げている」


「それが問題なんだよ」



暗闇の奥から。


石鯛たちの声が聞こえる。



「こっちだ!」


「早く来い!」



まだ近い。



「追うぞ!」



その時。



イトヨリダイが言った。



「ちょっと待ってください」



「何?」



イトヨリダイが前へ出た。



暗い洞窟。


逃げる敵。


分かれ道。



そして。



俺たち。



「…………」



嫌な予感がした。



イトヨリダイが正面を向いた。



「ステータスオープン!」



「開かねえよ!!!」



何も起きなかった。



「…………」



「…………」



イトヨリダイがもう一度。



「ステータスオープン!」



「二回やっても開かねえよ!!」



「おかしいっすね」


「何がおかしいんだよ!」



キンメダイが横に来た。



「僕もやっていい?」


「何で!?」



「ステータスオープン!」



「やらなくていい!!」



何も出ない。



「出ないね」


「当たり前だよ!!」



「私なら出るかもしれない」


「何でお前まで参加するんだよ!」



キントキダイが前へ出た。



「ステータスオープン」



「…………」



何も出ない。



「…………」



キントキダイは静かに戻ってきた。



「何もなかったな」


「知ってたよ!!」



「確認しただけだ」


「絶対やりたかっただろ!!」



イトヨリダイが俺を見る。



「チカメさんもやってくださいよ」


「嫌だよ!」


「でもチカメさん転生してるじゃないすか」


「…………」



「一番可能性あるっす」


「俺を基準に異世界を実在させるな!!」



「ほら」


「やらない」


「出るかもしれないよ?」


キンメダイまで乗ってきた。



「出ないよ!」



「確認するべきだ」


「お前は黙ってろ!!」



三匹が俺を見る。



「…………」



「…………」



「…………」



「…………ステータスオープン」



何も出なかった。



「やった!!」


「うるせえ!!!」



その時。



横の暗闇で。



何かが動いた。



「…………?」



ガッ。



「うわっ!」



イトヨリダイの姿が消えた。



「イトヨリ!!」



横穴。



何かに引っ張られていく。



「チカメさん!!」



「今行く!!」



イトヨリダイが叫んだ。



「ここは任せて先に行くっす!!」



「さらわれてる側が言うセリフじゃねえよ!!!」



「先に行ってください!」


「行けるわけないだろ!!」



「ラノベならここは先に行くところっす!」


「知らねえよ!!」



声が遠ざかる。



「イトヨリ!!」



俺たちは横穴へ飛び込んだ。



*



どれくらい泳いだだろうか。



思っていたより深い。



ただの岩穴だと思っていた。



だが奥へ進むほど、岩と岩の隙間は広くなっていった。



海底トンネルだ。



上も岩。



左右も岩。



ところどころ細くなり。


また広がる。



横穴まである。



「イトヨリー!」



返事はない。



「こっちで合ってるの?」


キンメダイが聞いた。



「たぶん!」



キントキダイが岩の脇を見る。



「こちらに通った跡がある」


「分かるの?」


「何となくだ」


「急に信用できなくなったよ!」



しばらく進む。



「地図とかないの?」


「あると思う?」



キンメダイが言った。



「イトヨリなら持ってるんじゃない?」


「本人ごと持ってかれたよ!!」



その本人は。



まだ見つからない。



*



さらに奥へ進んだ。



どれくらい来たんだ。



もう入口の光なんて見えない。



「…………」



キントキダイが止まった。



「どうした?」



「何か聞こえる」



「イトヨリ?」



耳を澄ます。



暗闇の奥から。



微かに。



声。



「…………バン……」



「え?」



さらに進む。



「…………不使用……」



「何?」



また。



「ミョウバン不使用……」



「…………」



俺たちは止まった。



別の方向から。



「塩水で……」



「…………」



さらに。



「ミョウバン不使用……」



「塩水で……」



「ミョウバン不使用……」



「…………何これ」



暗闇の中。



何かが動いている。



一匹。



また一匹。



ぞろぞろ。



石鯛。



イシガキダイ。



岩壁に沿って泳いでいる。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



バリッ。



「ミョウバン不使用……」



バリバリッ。



「…………」



岩壁のウニを食っていた。



「何やってんの?」



キンメダイが聞いた。



知らない。



普段から食ってるはずだ。



でも。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



バリッ。



別の石鯛もやって来る。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



また来る。



「塩水で……」



バリッ。



「…………」



何なんだよこれ。



「チカメさーん」



「イトヨリ!?」



聞き慣れた声。



石鯛たちの向こうから。


イトヨリダイが泳いできた。



「無事だったの!?」


「はい」


「さらわれてたよね!?」


「さらわれてたっす」



「じゃあこれは何!?」



周りを見る。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



バリバリッ。



「なんでみんな同じこと言ってるの!?」



「あー」



イトヨリダイがスマホを見せた。



「ウニについて調べたんすよ」


「何で!?」


「ここ来る途中、いっぱいあったんで」



「それで?」



「ミョウバン不使用のウニって高級らしいっす」


「…………」



「塩水ウニっていうらしいっす」



「…………」



俺は周りを見る。



海。



当然。



塩水。



「それ言ったの!?」



「はい」



「高級って教えたら、みんな急に食い出したっす」



「…………」



バリッ。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



「普段食ってるウニだろ!!!」



近くの石鯛が顔を上げた。



「違う」



「何が!?」



「これは高級だ」



「さっきまでそこにいたウニだよ!!」



「ミョウバン不使用だからな」



「海だからな!!!」



イシガキダイも顔を上げる。



「塩水で保存されてる」



「生きてんだよ!!!」



「…………高級」



「言葉に負けるな!!!」



*



止まらなかった。



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



バリッ。



「高級……」



バリッ。



洞窟の奥から。



次々と石鯛とイシガキダイが集まってくる。



「何だ?」


「高級らしいぞ」


「どれが?」


「ウニ」


「いつものだろ」


「ミョウバン不使用らしい」


「…………」



バリッ。



「ミョウバン不使用……」



また一匹。



「塩水で……」



また一匹。



「高級……」



ぞろぞろ。



ぞろぞろ。



岩壁に沿って。



石鯛とイシガキダイが移動していく。



ウニを食いながら。



「…………」



キンメダイが俺の横に来た。



「ゾンビみたいだね」



「俺も今それ思ってた」



「ミョウバン不使用……」



バリッ。



「塩水で……」



バリッ。



「ミョウバン不使用……」



バリバリッ。



俺はイトヨリダイを見る。



「なんでこんなことになってるの!?」



「高級って言ったら広まったっす」



「広まりすぎだよ!!」



「流行ったみたいっす」



「パンデミックみたいに言うな!!!」



その時。



バキッ。



「…………」



変な音がした。



バキッ。



バリッ。



石鯛たちが群がっている岩壁。



そこだけ。



異様な勢いでウニが消えていく。



一匹。



また一匹。



食われて。



岩肌が露出する。



そして。



「あれ?」



イトヨリダイがスマホを向けた。



ウニに覆われていた岩壁の奥。



黒い。



細い。



隙間。



「…………」



穴がある。



「なんか開いたっす」



「…………」



石鯛がウニを食う。



バリッ。



隙間が広がる。



イシガキダイが食う。



バリッ。



さらに奥が見える。



俺は暗い穴を見た。



「ダンジョン攻略を食事で進めるなよ!!!」



次回。



『ミョウバン不使用』

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