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第82話 高い魚が来ました


翌朝。


川奈の日蓮像の先。


「チカメ様」


「はい」


見慣れない魚が来た。


「ここに来れば、色々教えてもらえると聞きまして」


「分かることならね」


最近は最初に言うことにしている。



*



「どこから来たの?」


「南の方です」


「へえ」


俺は魚を見る。


「…………」


なんだろう。


こいつ。


妙に高そう。



「どうしました?」


「いや」


「ずっと見てますけど」


「見てないよ」


イトヨリダイが横から言った。


「また値段考えてるっすね」


「考えてないよ!!!」



*



キンメダイも寄ってきた。


「何て魚?」


「シブダイです」


「シブダイ?」


「シロホシフエダイとも呼ばれます」


「へえ」


俺はもう一度見る。


「…………」


聞いたことある。


「イトヨリ」


「はい」


「ちょっと調べて」


「やっぱり気になってるじゃないすか」


「確認だよ!」



*



イトヨリダイがスマホを見る。


「シブダイ……シロホシフエダイ……」


「うん」


「…………」


「何?」


「高いっす」


「いくら?」


「食いつくの早いっすね」


「いいから!」


イトヨリダイが画面を見る。


「キロ二万円近くになることもあるみたいっす」


「…………」


俺はシブダイを見る。



二万円。



シブダイ。



二万円。



「…………」


なんか急に、立派に見えてきた。


「チカメさん」


「何?」


「見る目変わったっすよ」


「変わってないよ」


「さっきより丁寧に見てるっす」


「魚を見るのに丁寧とかないだろ!!!」



*



シブダイ本人も驚いていた。


「私、そんなにするんですか?」


「するみたい」


「へえ……」


自分の身体を見る。


「知りませんでした」


「まあ、魚は知らないよね」


「二万円……」


「キロね」


「キロ二万円……」


シブダイの泳ぎ方が、少しだけゆっくりになった。


「お前も意識し始めてるじゃん!!!」



*



キンメダイがシブダイを見る。


「高いと何かいいの?」


「分かりません」


「でも嬉しそう」


「少し」


「嬉しいんだ」


「キロ二万円ですから」


「もう使いこなしてる!!!」



*



キンメダイが俺を見た。


「僕は?」


「何が?」


「いくら?」


「お前も気になるの!?」


「うん」


「…………」


キンメダイ。


人間だった頃、何度も見た。


スーパーにもいた。


鮮魚店にもいた。


デパ地下にもいた。


「まあ、高いよ」


「キロ二万円?」


「物によるよ!」


「シブダイより高い?」


「だから競うなって!!!」



*



キントキダイも来た。


「何の話だ?」


「魚の値段」


「なぜそんな話をしている?」


「知らないよ!」


「チカメさんが始めたっす」


「俺!?」



シブダイが言った。


「キロ二万円です」


「自己紹介みたいに言うなよ!!!」



*



そこへ一匹のアジが通りかかった。


シブダイが聞く。


「アジさんは、おいくらですか?」


「知りません」


「気になりませんか?」


「別に」


「…………」


アジはそのまま泳いでいった。



シブダイが俺を見る。


「アジは安いんですか?」


「その聞き方やめようか!!!」



*



でも。


人間だった頃なら、魚に値段がついているのは普通だった。


アジ。


サバ。


キンメダイ。


シブダイ。


同じ海を泳いでいる魚なのに、人間のところへ行けば全部に値段がつく。


こっちに来てから、そんなことはすっかり忘れていた。



「チカメ様」


別の魚が寄ってきた。


「何?」


「私も見てもらっていいですか?」


「何を?」


「値段です」


「魚の査定始めてないから!!!」



*



「チカメ様、俺は?」


「私も」


「この大きさだと?」


「知らない知らない知らない!!!」



気づけば魚が集まっていた。


イトヨリダイがスマホを持ったまま俺を見る。


「どうするんすか?」


「どうもしないよ!」


「でもみんな知りたいみたいっすよ」


「なんで!?」


シブダイが答えた。


「高い方が、なんとなく嬉しいです」


「…………」


分かる。


ものすごく分かる。


「チカメさんも同じ顔してるっす」


「してないよ!!!」



*



その時。


聞き慣れたエンジン音がした。


海上レクサス。


教祖だ。


福音が落ちてくると、集まっていた魚たちが一斉に動いた。


「福音だ!」


「教祖様!」


「行こう!」


シブダイも向かおうとする。


「待って」


「何ですか?」


俺はシブダイを見る。


キロ二万円。


「…………」


「チカメ様?」


「いや」


「…………」


「ちょっと後ろにいた方がいいんじゃない?」


「なぜです?」


「なんとなく」


イトヨリダイが俺を見る。


「高いからっすか?」


「違うよ!!!」



*



仕掛けが落ちてきた。


シブダイが見る。


「餌があります」


「行くな!!」


「なぜ!?」


「キロ二万円だから!!!」


「やっぱり高いからじゃないすか!!!」



*



結局。


シブダイは餌を食べなかった。


俺は少し安心した。



「…………」



なんだろう。


この感じ。



イトヨリダイが言った。


「大事にしてるっすね」


「違うよ」


「キロ二万円だから」


「違うって!」


「教祖様みたいっすね」


「…………」



俺は海上レクサスを見る。



教祖がいる。



シブダイを見る。



キロ二万円。



もう一度、教祖を見る。



「…………」



似てない。



たぶん。



次回。


『値段を聞いてから食べるな』



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