第79話 分からないこともあります
翌日。
川奈。
「チカメ様」
「はい」
「この辺でウマヅラハギ見ませんでした?」
「見てません」
「昨日も?」
「見てません」
「一昨日は?」
「知らないです」
「どこ行ったと思います?」
「もっと知らないです!!!」
*
最近。
俺のところには、
いろんな魚が来る。
住む場所。
福音。
船。
危険な場所。
他の魚。
最初は。
知っていることくらい、
答えてもいいと思っていた。
その結果。
「チカメ様」
「はい」
「明日、福音ありますか?」
「知りません」
「何時くらいですか?」
「知りません」
「量は?」
「知りません!」
「教祖様、来ます?」
「教祖に聞けよ!!!」
*
別の魚が来た。
「チカメ様」
「今度は何?」
「サバの群れ、どっち行きました?」
「知らない」
「さっきここ通ったらしいです」
「俺、魚群探知機じゃないからね!?」
*
また来た。
「チカメ様」
「はい」
「これ食べられます?」
「何それ」
「分かりません」
「分からないもの俺に食わせようとすんなよ!!!」
*
キンメダイが隣で見ていた。
「大変だね」
「なんでみんな俺に聞くの?」
「答えるからじゃない?」
「…………」
正論だった。
「じゃあもう答えない」
「うん」
「今日から全部、分かりませんって言う」
「分かった」
「絶対だからね」
「うん」
*
一匹の魚が来た。
「チカメ様」
「分かりません」
「まだ何も聞いてません」
「分かりません」
「ここ、川奈ですか?」
「そうです」
「答えてるじゃないですか」
「…………」
失敗した。
*
キントキダイが言った。
「分かることまで答えないのは、
合理的ではないと思うぞ」
「じゃあお前がやってよ」
「断る」
「判断早いな!」
「私は冷静だからな」
その時。
海藻がキントキダイの横腹に触れた。
「うわっ」
俺の後ろに隠れた。
「…………」
「今のは確認だ」
「何を確認したんだよ!!!」
*
昼。
イトヨリダイが、
スマホを見ながら泳いできた。
昨日よりは。
いつもの顔に戻っている。
「何してんの?」
「調べものっす」
「何の?」
「人間の言葉」
「また変なの覚えてない?」
「失礼っすね」
イトヨリダイは、
スマホを見せた。
「こういうのどうすか?」
「何?」
画面に。
文字。
『よくある質問』
「…………」
「FAQっす」
「なんで魚社会にFAQ作ろうとしてんの!?」
*
「同じこと聞かれるなら、
答え置いとけばいいじゃないすか」
「どこに置くんだよ」
「…………」
イトヨリダイが周りを見る。
海。
岩。
海藻。
「…………」
「置く場所ないっすね」
「海だからね!!!」
*
「じゃあ、あーしが覚えとくっす」
「お前が?」
「はい」
「例えば?」
イトヨリダイが言った。
「教祖様が来る時間」
「日による」
「福音が落ちる場所」
「日による」
「福音の量」
「日による」
「釣り方」
「日による」
「…………」
イトヨリダイがスマホを見る。
「FAQ向いてないっすね」
「釣りだからね!!!」
*
そこへ。
一匹の小さな魚が来た。
「あの」
「はい」
「チカメ様ですよね?」
「そうだけど」
「聞いてもいいですか?」
「内容による」
魚は少し迷って。
言った。
「この辺って、
どこに隠れれば安全ですか?」
「…………」
俺は周りを見る。
それなら。
分かる。
「あの根の裏」
「はい」
「あと、向こうの岩の隙間。
でも奥まで入るとウツボいるから気をつけて」
「分かりました」
「船が近くに来たら、
開けたところには出ない方がいいよ」
「はい!」
魚は。
嬉しそうに泳いでいった。
「…………」
*
キンメダイが言った。
「詳しいね」
「住んでるからね」
「ちゃんと答えられるじゃん」
「…………」
イトヨリダイも言った。
「川奈のチカメ様っすね」
「やめろ」
「でも今のは、
普通に助かったと思うっすよ」
「…………」
それは。
まあ。
そうかもしれない。
*
次の魚が来た。
「チカメ様!」
「はい」
「明日の潮、何時に変わります?」
「分かりません!!!」
「さっきの魚には教えてたじゃないですか!」
「分かることと分からないことがあるんだよ!!!」
「じゃあ誰に聞けば?」
「海!!!」
「海は喋りません!」
「知ってるよ!!!」
*
夕方。
俺は。
一つだけ決めた。
分かることは答える。
分からないことは。
分からない。
それでいい。
「チカメ様ー!」
遠くから声。
「何ー!?」
「この魚、食べられますかー!?」
「俺に持ってくるなー!!!」
分からないことは。
たくさんあった。
次回。
『これ、誰の卵?』




