第78話 チャッピー、調べて
翌朝。
川奈。
海は。
普通だった。
福音を待っている魚がいる。
根の周りを泳ぐアジがいる。
キンメダイは、
朝から何か食べている。
昨日。
一匹いなくなった。
それでも。
海は普通だった。
*
イトヨリダイは。
スマホを見ていた。
充電。
十分。
昨日までなら。
それだけで喜んでいたはずだった。
「…………」
画面を開く。
「チャッピー」
文字を打つ。
『調べて』
*
返事が来た。
『何を調べますか?』
イトヨリダイの指が止まった。
「…………」
少し考えて。
打つ。
『昨日釣られたおねぇ』
返事。
『情報が不足しています』
「…………」
『場所、時間、人物または対象の詳細を教えてください』
「川奈」
『川奈の何について調べますか?』
「だから、おねぇっす」
『「おねぇ」に該当する対象を特定できません』
「…………」
イトヨリダイは、
画面を睨んだ。
*
俺は少し離れたところから見ていた。
「何してんの?」
「おねぇ調べてるっす」
「チャッピーで?」
「人間のこと分かるから」
「…………」
なるほど。
イトヨリにとって。
人間側で何か分からなければ、
こいつに聞けばよかった。
文字。
言葉。
地図。
人間の文化。
分からないものを、
ずっと教えてくれた。
だから。
今回も。
聞けば分かると思ったんだろう。
*
イトヨリダイが打つ。
『昨日、川奈で釣られたイトヨリダイ』
少し待つ。
返事。
『その情報だけでは、
特定の個体の現在地を確認できません』
「…………」
『釣果情報などを検索しますか?』
イトヨリダイの指が止まった。
「…………」
俺も。
その文字を見た。
釣果情報。
人間側の。
釣った魚の情報。
「…………」
「見る?」
俺が聞いた。
イトヨリダイは、
しばらく黙っていた。
「見るっす」
*
検索。
川奈。
釣果。
昨日。
いくつか出てきた。
知らない魚。
知らない人間。
知らない船。
イトヨリ。
「…………!」
イトヨリダイが開く。
違った。
別のイトヨリだった。
「…………」
次。
違う。
次。
違う。
「おねぇ、いないっすね」
「うん」
「載ってないだけっすかね」
「そうかもしれない」
「…………」
それ以上は。
俺にも分からなかった。
*
チャッピーから、
文字が出た。
『すべての釣果が
インターネット上に公開されるわけではありません』
「…………」
イトヨリダイが聞く。
『じゃあどこにいる?』
返事。
『分かりません』
「…………」
短かった。
*
イトヨリダイは。
しばらく画面を見ていた。
そして。
『そっか』
とだけ打った。
スマホを閉じた。
*
キンメダイが来た。
「分かった?」
「分かんなかったっす」
「そっか」
「はい」
「…………」
キンメダイは少し考えて。
「福音、食べる?」
「…………」
「今はいらないっす」
「そっか」
キンメダイは。
自分で食べた。
「お前が食うんかい」
「もったいないから」
「まあいいけど!」
*
昼。
イトヨリダイが、
スマホを触っていた。
俺は聞いた。
「何見てんの?」
「チャッピー」
「また調べてる?」
「違うっす」
画面を見せる。
人間の言葉。
何かのページ。
「普通に使ってるっす」
「そっか」
「せっかく充電してもらったんで」
「…………」
イトヨリダイが。
モバイルバッテリーを見る。
少しだけ。
海の上を見る。
それから。
またスマホに戻った。
*
夕方。
知らない魚が来た。
「あのー」
「はい」
「チカメ様ですか?」
「…………」
またか。
「そうだけど」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「何?」
魚は言った。
「この辺で、
ウマヅラハギ見ませんでした?」
「知らないよ!!!」
「川奈のことなら、
チカメ様に聞けば分かるって」
「分からないこともあるんだよ!!!」
*
後ろで。
イトヨリダイが。
少しだけ笑った。
「…………」
俺はそれを見て。
何も言わなかった。
海は。
今日も。
普通だった。
次回。
『分からないこともあります』




