第74話 川奈に来て一週間です
一週間後。
川奈。
俺は朝から、
知らない魚に起こされた。
「チカメ様」
「…………」
「チカメ様」
「起きてる」
「よかったです」
よくない。
*
「何?」
魚が言った。
「ここって、どの辺まで住んでいいんですか?」
「好きなところに住めばいいよ」
「でも、あっちの穴はウツボさんが使ってますよね」
「使ってるね」
「あっちには先にアジがいました」
「いるね」
「じゃあ、どこが空いてます?」
「なんで俺が不動産屋やってんの!?」
*
最近。
こういう質問が増えた。
ここに住んでいいか。
福音はどこに落ちるか。
手漕ぎボートが来たらどうするか。
あの穴には誰がいるか。
危ない場所はどこか。
全部。
俺に聞きに来る。
「俺、知らないからね?」
「でも川奈のチカメ様ですよね?」
「その肩書きやめろ!!!」
*
キンメダイが来た。
「おはよう」
「おはよう」
そのまま、
俺の前にいる魚を見る。
「また相談?」
「また相談」
「人気だね」
「いらない人気なんだよ」
*
そこへ。
別の魚が来た。
「チカメ様」
「今度は何?」
「船が来ました」
「逃げれば?」
「手漕ぎです」
「じゃあ釣りだね」
「福音ありますかね?」
「俺に聞くなよ!!!」
さらに一匹。
「チカメ様」
「何!?」
「この辺、サメ来ます?」
「来る時は来る!」
もう一匹。
「チカメ様」
「何!!!」
「今日、潮どうですか?」
「海に聞け!!!」
*
イトヨリダイが、
少し離れたところから見ていた。
「なんか窓口みたいになってるっすね」
「閉めたい」
「営業時間決めたらどうすか?」
「開業してねえよ!!!」
*
昼。
昨日。
福音を怖がっていた魚が来た。
川奈に来て、
ちょうど一週間らしい。
「あ、チカメ様」
「お前まで普通に呼ぶようになったな」
「みんな呼んでるので」
「最悪の理由だな」
一週間前。
こいつは手漕ぎボートを見るだけで、
逃げようとしていた。
今日。
手漕ぎボートが見えている。
なのに。
逃げない。
「…………」
「お前、船いるよ」
「はい」
「怖くないの?」
「怖いですよ」
「逃げないの?」
「まだ遠いので」
「…………」
俺はキントキダイを見る。
キントキダイも、
そいつを見ている。
「染まったな」
「一週間で!?」
*
上から。
ぱらぱらと福音が落ちてきた。
魚が見る。
「まだ行かない方がいいですよね?」
「仕掛け確認してからだな」
「ですよね」
「…………」
完璧だった。
川奈の魚だった。
*
キンメダイが嬉しそうに言った。
「もう慣れたんだね」
「はい」
「福音、美味しいもんね」
「美味しいです」
「そこを基準に順応すんなよ!」
*
その時。
少し離れた場所から声がした。
「すみませーん」
また知らない魚だった。
「チカメ様って、どちらですか?」
「…………」
一週間の魚が振り返った。
「あ、この先です」
「お前が案内すんなよ!!!」
「川奈の日蓮像の先にいますよ」
「ありがとうございます」
「住所みたいに教えるな!!!」
知らない魚が、
まっすぐ俺のところまで来た。
「チカメ様ですか?」
「……そうです」
もう否定するのも疲れた。
「よかった」
魚は安心した顔をした。
「赤沢から来ました」
「…………」
赤沢。
また少し。
遠くなった。
「なんで川奈まで?」
「聞きたいことがあって」
「何?」
魚は言った。
「川奈って、魚が増えてるって本当ですか?」
「…………」
俺は周りを見た。
一週間前にはいなかった魚。
昨日はいなかった魚。
今日来た魚。
そして。
そいつらがもう、
次の魚に俺の場所を教えている。
「増えてるね」
「やっぱり」
「でも俺が増やしてるわけじゃないからね?」
「分かりました、チカメ様」
「分かってねえ気がする!!!」
*
夕方。
イトヨリダイが言った。
「次、どこから来るんすかね」
「知らないよ」
「だんだん遠くなってるっす」
「来なくていいんだけど」
キンメダイが言った。
「でも、川奈が人気になるのはいいことじゃない?」
「俺の名前を受付に使わなければね!」
その時。
遠くから。
また魚が泳いできた。
「すみませーん!」
俺は聞こえないふりをした。
「川奈のチカメ様ー!」
「…………」
「聞こえてるよ!!!」




