↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/156

第70話 ここ、空いてますか?


翌日。



また増えていた。



「…………」



昨日。


百匹以上いなくなって、

海が広くなったと思った。



今日。



知らない魚がいる。



「ここ、空いてますか?」



「俺に聞くの?」



「はい」



「海だよ?」



「はい」



「俺の土地じゃないよ?」



「じゃあ空いてますね」



「そうなるの!?」



*



魚は岩の近くを一周した。


穴を見る。


隙間を見る。


少し泳いで戻ってくる。



「ここにします」



「何を?」



「住む場所です」



「もう決めたの!?」



「空いてるので」



「昨日空いたんだよ!!!」



*



その後も。


一匹。


また一匹。



知らない魚がやってきた。



「ここ、空いてるって聞いたんですけど」



「誰から聞いたの?」



「向こうで」



「向こうってどこ!?」



「向こうです」



「魚の口コミ雑すぎるだろ!!!」



*



キントキダイが周りを見る。



「住みやすい場所なら、魚が入ってくるのは自然だろう」



「まあ、そうなんだけど」



「昨日までいた魚がいなくなった。それだけだ」



「言い方が冷静すぎるんだよ」



「私は冷静だからな」



その時。


海藻がキントキダイの背中に触れた。



「っ!!」



俺の後ろに入る。



「…………」



「何だ」



「いや」



「確認しただけだ」



「俺の後ろから何を確認してんの?」



「安全だ」



「海藻だよ!!!」



*



少し離れた岩場では、

別の魚が穴を覗いていた。



「ここも空いてる」



「そこはやめた方がいいと思うよ」



「どうして?」



「たぶん住んでるから」



「誰が?」



「知らないけど」



魚が暗い穴を覗く。



「誰もいませんよ?」



奥から。



「……いる」



「うわっ!!」



魚が飛び出した。



代わりに。


ウツボがゆっくり顔を出す。



「……うるせえ」



「いた!!!」



*



久しぶりに見た。



相変わらず。


口の周りには、

釣り針がいくつも残っている。



じゃら。


じゃら。



「相変わらず釣り針ジャラジャラつけてるな、お前」



「……取れねえんだよ」



「増えてない?」



「……知らねえ」



「どうやったら増えたことにも気づかないんだよ!」



イトヨリダイが寄ってきた。



「手伝うっす」



「……何を」



「針取るの」



「……いい」



「めっちゃ付いてるじゃないすか」



イトヨリダイが、

ウツボの口元をじっと見る。



「でもこれ、ピアスみたいっすね」



「ピアス?」



俺はイトヨリダイを見る。



「お前、どこでピアスなんて覚えたの?」



「チャッピー」



「またあいつか!!!」



ウツボはそのまま、

岩穴へ戻っていった。



釣り針をじゃらじゃらさせながら。



*



昼を過ぎても。


魚は来た。



空いている岩場を探す魚。


群れで来る魚。


少し見て帰る魚。



昨日できた空白が、

少しずつ埋まっていく。



キンメダイが言った。



「また賑やかになりそうだね」



「そうだな」



「よかったね」



「よくはない」



「どうして?」



「また何か始まりそうだから」



「何が?」



「それが分からないから嫌なんだよ!」



*



その時。



見たことのない魚が、

こっちへ泳いできた。



俺の前で止まる。



「あの」



「何?」



「チカメ様ですか?」



「…………」



俺は魚を見る。



知らない。



絶対に知らない。



「なんで俺のこと知ってるの?」



「伊東港から来たんですけど」



「伊東港?」



「川奈に行くなら、

チカメ様に聞けばいいって言われました」



「誰に!?」



「向こうの魚です」



「向こうの魚って誰だよ!!!」



魚は気にせず、

周りを見回した。



「ここ、住んでも大丈夫ですか?」



「だから俺に許可取る必要ないから!」



「でも」



魚が不思議そうに俺を見る。



「川奈はチカメ様が仕切ってるって聞きました」



「仕切ってねえよ!!!」



*



「じゃあ、誰が仕切ってるんですか?」



「誰も仕切ってないよ!」



「…………」



魚は少し考えた。



「じゃあ、チカメ様でいいんじゃないですか?」



「よくねえよ!!!」



キントキダイが横で頷いた。



「合理的ではある」



「どこが!?」



「皆がお前に聞きに来るなら、

窓口を一つにした方が早い」



「役所作ろうとすんな!!!」



イトヨリダイがスマホから顔を上げる。



「でも伊東港まで名前回ってるんすね」



「…………」



そこ。



俺も今、

ちょっと気になった。



俺は伊東港に行ってない。



なのに。



伊東港から来た魚が、

俺を知っていた。



しかも。



チカメキントキではなく。



チカメ様。



「…………」



俺の知らないところで。



俺。



何になってんの?



次回。


『川奈のチカメ様』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。