第68話 今日も教祖様が来ました
翌日。
遠くからエンジン音が聞こえた。
古参の魚たちが反応する。
「教祖様ですな」
「今日も分かるの?」
「もちろんです」
「まだ姿も見えてないけど?」
「教祖様ですから」
「便利な言葉だなそれ!!!」
*
しばらくして。
海上レクサスがやってきた。
昨日と同じ船。
教祖の船だ。
すると。
昨日いた小魚が動いた。
「あ」
「ん?」
小魚が上を見る。
「昨日の人だ」
「…………」
覚えてる。
*
別の小魚も寄ってきた。
「ごはんくれた人?」
古参が答える。
「教祖様だ」
「教祖様!」
「もう名前覚えたの!?」
まだ信仰ではない。
たぶん。
昨日ごはんをくれた人の名前を、
覚えただけだ。
たぶん。
*
上から福音が落ちてきた。
「来た!」
「ごはん!」
「教祖様!」
小魚たちが集まる。
その後ろから。
仕掛けも落ちてきた。
「そっちも昨日と同じだからな!!!」
*
小魚が餌をつつく。
取る。
逃げる。
別の小魚がつつく。
取る。
逃げる。
針には掛からない。
昨日と同じだった。
*
海の上。
教祖が竿を上げる。
餌がない。
「…………」
新しい餌を付ける。
もう一度落とす。
*
海の中。
「また来た!」
「教祖様いっぱいくれる!」
「お前らが針に掛からないからだよ!!!」
古参のイサキが俺を見た。
「チカメ様」
「何?」
「教祖様のご厚意ですぞ」
「釣ろうとしてるよ!?」
「しかし我々は福音をいただいております」
「その横に針ついてるよ!?」
「ありがたいことです」
「話聞けよ!!!」
*
キンメダイも福音を食べていた。
「美味しい」
「お前は昨日も仙人の食ってたよな」
「美味しかったよ」
「節操がねえ!!!」
「福音に節操って必要?」
「宗教としてはかなり必要だと思う!!!」
*
キントキダイは少し離れた場所にいた。
「お前は食わないの?」
「私は状況を見ている」
「昨日も似たようなこと言ってなかった?」
「昨日とは違う」
「何が?」
「今日は教祖だ」
「…………」
「安全性が高い」
「針あるけど?」
「…………」
キントキダイが少し下がった。
「だから距離を取っている」
「怖いんじゃん!!!」
「合理的だ」
*
イトヨリダイは小魚を見ていた。
「昨日のこと、普通に覚えてるんすね」
「そりゃ覚えるだろ」
「じゃあ明日も来たら、また覚えるんすかね」
「まあ、来ればな」
「ふーん」
それだけ言って、
またスマホを見た。
俺も特に気にしなかった。
*
その日の教祖も。
福音を撒いた。
仕掛けを落とした。
餌を取られた。
また福音を撒いた。
また仕掛けを落とした。
また餌を取られた。
一匹も釣れない。
「…………」
小魚たちは満腹になっていた。
*
海の上。
教祖が首を傾げる。
「今日は難しいですな」
海上レクサスの上で。
高そうな竿を持ち。
高そうなリールを巻き。
一匹も釣れていない。
「…………」
俺は上を見た。
「金で釣果は買えないんだな」
イトヨリダイが言った。
「いいこと言った感あるっすね」
「うるさいよ!!!」
*
教祖が帰り始めた。
海上レクサスのエンジン音が遠ざかる。
小魚がその方向を見た。
「帰っちゃった」
「また来るだろ」
古参が言う。
小魚が聞いた。
「いつ?」
「さあ」
「明日も来る?」
「教祖様がお決めになることだ」
「…………」
小魚は少し考えた。
そして。
「じゃあ明日もここにいる」
「…………」
俺は小魚を見る。
昨日は。
たまたま福音が落ちてきた。
今日は。
昨日の人だと覚えていた。
明日は。
待つらしい。
「…………」
これ。
なんか始まってない?




