第63話 情報屋、取り立てに使われる
朝。
情報係の魚が来た。
「チカメキントキさん」
「何?」
「相談があります」
「珍しいな」
「情報係、辞めたいです」
「何があった!?」
*
昨日まで。
情報係の仕事は単純だった。
船が来た。
人間が何を言った。
どこに福音が落ちた。
どこで誰かが釣られた。
それを見て。
聞いて。
伝える。
そういう仕事だった。
「最近、違うんです」
「何が?」
「魚を探してます」
「…………」
嫌な予感がする。
「誰に頼まれた?」
「ヒラメです」
「やっぱり!!!」
*
魚が言った。
「昨日も頼まれました」
「何を?」
「ソウダガツオを見たら教えてって」
「それ取り立てだよ!!」
「取り立て?」
「…………」
知らないか。
「借りた福音を返してない魚を探してんの!」
「ああ」
魚は納得した。
「じゃあ、いつもの仕事ですね」
「違うよ!!!」
*
キントキダイが聞いた。
「何が違う?」
「え?」
「魚の場所を調べて伝える。情報係の仕事ではあるだろう」
「目的が違うだろ!」
「目的?」
「今までは船とか福音とか!」
「今回は魚だ」
「そう!」
「情報の対象が変わっただけでは?」
「正論で闇金を支援すんな!!!」
*
イトヨリダイが言った。
「でも、情報って売れるんすよね?」
「そうだけど」
「ヒラメも福音払ってるんすか?」
「…………」
情報係を見る。
「もらってるの?」
「はい」
「いくつ?」
「見つけたら二つ」
「成果報酬になってる!!!」
*
情報係は少し嬉しそうだった。
「船の情報よりいいです」
「なんで!?」
「船は来ない日があります」
「まあな」
「返してない魚は結構います」
「客が安定してるみたいに言うな!!!」
*
そこへ。
ヒラメが来た。
「いた」
「何が!?」
「情報係」
ヒラメは一匹の魚を見る。
「サバ、探して」
「どのサバですか?」
「昨日、五つ借りたやつ」
「特徴は?」
「サバ」
「…………」
情報係が困った。
「サバ、いっぱいいます」
「そりゃそうだ!!!」
*
ヒラメは少し考えた。
「昨日、この辺にいた」
「大きさは?」
「普通」
「模様は?」
「サバ」
「他には?」
「泳ぐ」
「捜索情報が全部サバなんだよ!!!」
イトヨリダイが言った。
「これじゃ探せないっすね」
「だよな!」
「貸す時に特徴聞いといた方がいいっすよ」
「改善案を出すな!!!」
*
ヒラメはイトヨリダイを見る。
「何を聞けばいい?」
「え?」
「見つけやすいやつ」
「いや、あーしに聞かれても……」
「お前も分からない時あるんだな」
「あるっすよ」
キントキダイが言った。
「群れは?」
「群れ?」
「普段どの群れにいるか聞けば、探しやすい」
「なるほど」
「お前まで改善すんな!!!」
*
その日の昼。
また魚が福音を借りに来た。
「五つお願いします」
ヒラメが聞く。
「何の魚?」
「サバです」
「…………」
「ダメですか?」
「貸すよ」
「本当ですか!」
ヒラメが続ける。
「普段いる群れは?」
「え?」
「どの辺泳ぐ?」
「え?」
「よく一緒にいる魚は?」
「え?」
俺は横で震えた。
「貸す前に身辺調査始めたああああ!!!」
*
サバが戸惑っている。
「なんでそんなこと聞くんです?」
「飛んだ時に探すから」
「飛びませんよ!」
「みんな言う」
「…………」
サバが少し考えた。
「やっぱりいいです」
泳いでいった。
「ほら飛んだ」
「借りる前だよ!!!」
*
午後。
情報係が戻ってきた。
「見つけました!」
ヒラメが砂から浮く。
「どこ?」
「沖の岩場です」
「本人?」
「たぶん」
「たぶん?」
「サバだったので」
「…………」
俺は口を挟んだ。
「誰が見た?」
「俺です」
「いつ?」
「さっき」
「昨日借りたサバだって確認した?」
「してません」
「じゃあ別のサバかもしれないだろ」
「…………」
ヒラメが俺を見る。
「確認してきて」
「俺に言うな!!!」
*
情報係がもう一度泳いでいった。
しばらくして戻る。
「違いました!」
「ほら!!」
「別のサバでした!」
「危ねえよ!!」
ヒラメが聞いた。
「福音、借りてない?」
「聞きました」
「借りてないそうです」
「そう」
「…………」
俺は止まった。
「待て」
情報係を見る。
「本人に聞いたの?」
「はい」
「『ヒラメから福音借りてますか』って?」
「はい」
「なんて?」
「『借りてません』って」
「…………」
それ。
借りてても言わなくない?
*
キントキダイも気づいた。
「本人の申告だけでは確認できないな」
「そうなんだよ」
「では、貸した時に何か目印を――」
「それ以上考えるな!!!」
イトヨリダイが言った。
「借りた魚の情報、残しとけばいいんじゃないすか?」
「残す!?」
「魚種とか、大きさとか、いた場所とか」
「…………」
やめろ。
それ以上は。
本当にやめろ。
*
ヒラメがイトヨリダイを見る。
「それ、できる?」
「できるっすよ」
「やるな!!!」
「でもスマホなら――」
「スマホを闇金の顧客管理に使うな!!!」
イトヨリダイが首をかしげる。
「闇金?」
「知らなくていい!!!」
*
結局。
スマホには入れなかった。
俺が止めた。
全力で止めた。
ただ。
ヒラメは覚えた。
貸す時に。
魚種を聞く。
大きさを見る。
よくいる場所を聞く。
一緒にいる群れを聞く。
そして。
返ってこなかったら。
情報係に聞く。
「…………」
どんどん完成していく。
俺が止めるたびに。
別の方法で完成していく。
*
夕方。
一匹の情報係が急いで戻ってきた。
「いました!」
ヒラメが聞く。
「誰?」
「昨日のアジ!」
「どこ?」
「向こうです!」
「確認した?」
「しました!」
「間違いない?」
「はい!」
ヒラメが砂から浮く。
「行ってくる」
「待て!!」
「何?」
「何するの?」
「返してもらう」
「福音なかったら?」
「…………」
「だから黙るなよ!!!」
*
ヒラメが泳いでいった。
その後ろ姿を見ながら。
情報係が俺に聞いた。
「福音、二つもらえますよね?」
「…………」
「見つけたので」
「…………」
こいつら。
もう。
取り立てだとすら思ってない。
ただ情報を売ってるだけだ。
ヒラメも。
ただ情報を買ってるだけ。
その結果。
借金して逃げた魚の居場所が、
ヒラメに届く。
「…………」
誰も悪いことしてるつもりないのに。
完全に。
追い込みの仕組みができてる。
「情報社会ってそういう意味じゃねええええええ!!!」
*
翌朝。
情報係が来た。
「チカメキントキさん」
「今度は何?」
「最近、ヒラメからの依頼が多いので」
「うん」
「専属になろうかと思います」
「なるなああああああ!!!」
次回。
『福音、預かります』




