第60話 利子って必要ですか?
翌朝。
俺のところに、
昨日の魚が来た。
福音を借りて。
返して。
信用を手に入れた魚。
「チカメキントキさん」
「何?」
「また福音、貸してください」
「また!?」
「今回は多めに」
「何に使うんだよ」
「情報を買います」
「また情報かよ!」
魚は頷いた。
「あと、少し貸します」
「…………」
「誰に?」
「他の魚に」
「…………」
待て。
*
「お前が?」
「はい」
「俺から借りた福音を?」
「はい」
「他の魚に貸すの?」
「はい」
「…………」
俺はキントキダイを見る。
キントキダイも、
少し考えている。
イトヨリダイが言った。
「又貸しっすね」
「魚社会に又貸し持ち込むな!!!」
*
魚は不思議そうに俺を見る。
「ダメですか?」
「いや、ダメっていうか……」
「ちゃんと返します」
「お前はな」
「借りた魚から返してもらいます」
「返ってこなかったら?」
「困ります」
「仕組みが雑!!!」
*
結局。
そいつには、
昨日より少し多く貸した。
前回、
ちゃんと返したから。
信用がある。
「…………」
本当に。
そういう理由で貸してる。
俺。
*
昼過ぎ。
泳いでいると、
見覚えのある魚がいた。
さっきの魚。
その前に、
別の魚がいる。
「福音、貸してください」
「いいですよ」
「ありがとうございます!」
「明日、これだけ返してください」
「はい!」
「…………」
俺は止まった。
貸した量を見る。
返す量を見る。
もう一度、
貸した量を見る。
「…………」
多くない?
*
俺は近づいた。
「ちょっと待て」
「あ、チカメキントキさん」
「今、いくつ貸した?」
魚が答える。
「五つです」
「いくつ返してもらうの?」
「六つです」
「…………」
「…………」
「なんで一個増えてんの?」
魚が普通に答えた。
「貸すからです」
「出たああああああ!!!」
*
キンメダイが首をかしげる。
「何がです?」
「利子だよ!!!」
「リシ?」
「借りたものを返す時に、少し多く返すの!」
キンメダイが魚を見る。
「なんで?」
「貸してもらったからです」
「…………」
強い。
理屈が。
ものすごく単純。
*
キントキダイが聞いた。
「なぜ六つなんだ?」
「五つ貸したので」
「それは分かる」
「一つ多く返してもらいます」
「なぜ一つ?」
「…………」
魚が考える。
「一つくらいなら返してくれるかなって」
「金利の決め方が感覚!!!」
*
イトヨリダイが興味深そうに見る。
「でも、この魚」
「何?」
「自分で福音増やしてないっすよね」
「…………」
そう。
俺から借りる。
別の魚に貸す。
少し多く返してもらう。
俺には、
借りた分を返す。
残り。
「…………」
こいつ。
福音を。
福音で増やしてる。
「働けええええええ!!!」
*
魚が言った。
「働いてます」
「どこが!?」
「貸してます」
「それを仕事って言い始めたらもう終わりなんだよ!!!」
*
すると。
後ろから別の魚が来た。
「すみません」
「何?」
「今日、貸せます?」
「…………」
俺じゃない。
そいつに聞いている。
「どれくらい?」
「三つ」
「明日四つなら」
「分かりました」
「成立すんな!!!」
さらに別の魚。
「俺、今日中に返すから二つ」
「じゃあ三つ」
「高くない?」
「今日中ですよ」
「…………」
「じゃあいいです」
「交渉まで始めんな!!!」
*
俺は魚を問い詰めた。
「お前、いつからこれやってんの?」
「昨日からです」
「昨日!?」
「チカメキントキさんから借りたあと」
「早えよ!!!」
魚は昨日。
福音を借りた。
情報を買った。
その情報で福音を手に入れた。
俺に返した。
その時。
思ったらしい。
福音がない魚は。
他にもいる。
「…………」
そこに気づくな。
*
「何匹に貸した?」
「今日は四匹です」
「もう四匹!?」
「昨日は二匹」
「昨日から営業してたの!?」
イトヨリダイが言った。
「需要あったんすね」
「分析すんな!!!」
*
キントキダイが魚に聞いた。
「返さない魚はいないのか?」
「一匹います」
「いるの!?」
「今日返す約束でした」
「どうするんだ?」
「探します」
「見つからなかったら?」
「…………」
魚が少し考えた。
「情報係に場所を聞きます」
「情報網を取り立てに使うな!!!」
*
その時。
向こうから、
一匹の魚が猛スピードで泳いできた。
「待って!」
「いた」
「いたじゃねえよ!」
さっきの魚が前へ出る。
「今日、返す約束です」
「福音が入らなかったんです!」
「じゃあ明日」
「いいんですか?」
「一つ増えます」
「…………」
俺は止まった。
「今なんつった?」
「明日なら、一つ増えます」
「なんで!?」
「待つので」
「延滞金まで自然発生すんなあああああ!!!」
*
借りた魚は悩んだ。
「じゃあ……明日で」
「分かりました」
「納得すんな!!!」
キントキダイが言った。
「待つ側にも負担はある」
「理屈を補強すんな!!」
イトヨリダイも言う。
「返すの遅い方が多くなるの、普通っちゃ普通っすね」
「お前も人間社会から余計な知識持ってくんな!!!」
*
キンメダイが、
ずっと話を聞いていた。
そして。
聞いた。
「じゃあ僕も貸したら増えます?」
「…………」
「やめろ」
「福音、いっぱいあります」
「やめろ」
「貸せます」
「やめろって」
「増えます?」
「お前が金融に目覚めるのが一番怖いんだよ!!!」
*
キンメダイは少し考えた。
「でも僕」
「うん」
「返ってくるまで待てないです」
「食うからな」
「はい」
「向いてないよ」
「残念です」
「残念がるな!!!」
*
夕方。
俺たちの前には、
何匹かの魚が集まっていた。
借りたい魚。
貸したい魚。
返しに来た魚。
返せない魚。
情報を買いたい魚。
そして。
福音を貸して、
福音を増やしている魚。
「…………」
昨日まで。
福音を貸す。
ただそれだけだった。
今日。
貸すこと自体で、
福音を増やす奴が出てきた。
誰も教えてない。
誰も制度を作ってない。
俺なんか、
まだ利子を付けるかどうかすら考えてない。
なのに。
もう。
商売してる。
「…………」
俺はそいつを見る。
「なあ」
「はい?」
「お前、その仕事なんて呼んでんの?」
「仕事?」
「福音貸して、増やしてるやつ」
魚は考えた。
「…………」
そして言った。
「福音貸し?」
「そのままだな!!!」
*
イトヨリダイが言った。
「名前つけます?」
「やめろ」
「分かりやすい方が」
「絶対やめろ」
キントキダイが言った。
「必要ではあるな」
「必要にするな!!」
キンメダイが聞いた。
「福音屋さん?」
「かわいくすんな!!!」
*
その横で。
福音貸しが、
別の魚に言った。
「五つですね」
「はい」
「明日六つで」
「分かりました」
「…………」
もう。
俺の許可なんか。
必要なかった。
「…………」
魚社会に。
勝手に。
金貸しが生まれた。
「誰か止めろおおおおおお!!!」
次回。
『返せないなら働いてください』




