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第59話 福音、貸してください




翌朝。


一匹の魚が来た。


「チカメキントキさん」


「何?」


「福音、貸してください」


「…………」


朝一番。


挨拶より先に、借金の相談が来た。


「なんで!?」



*



魚が言った。


「情報を買いたいんです」


「昨日の?」


「はい」


「何の情報?」


「福音が落ちてくる場所」


「…………」


福音を手に入れるために、

福音を借りて情報を買う。


「もう嫌な感じしかしねえ!!!」



*



キントキダイが聞いた。


「返せるのか?」


「福音が見つかったら返します」


「見つからなかったら?」


「…………」


魚が俺を見る。


「もう少し貸してください」


「なんで増えるんだよ!!!」



*



イトヨリダイが言った。


「でも普通じゃないすか?」


「何が?」


「今持ってないけど、あとで返す」


「まあ……」


「人間もやるじゃないすか」


「やるけど」


「じゃあ問題なくないすか?」


「魚がオキアミ借りに来てる時点で問題なんだよ!!!」



*



キンメダイが魚を見る。


「福音、持ってないんですか?」


「はい」


「大変ですね」


「はい」


キンメダイが少し考えた。


「僕の、あげましょうか?」


「え?」


「昨日食べたところに、まだあるかもしれないので」


「…………」


優しい。


珍しく普通に優しい。


「ありがとうございます!」


「じゃあ一緒に行きましょう」


「はい!」


「残ってたら僕も食べます」


「お前も食うんかい!!!」



*



二匹が泳いでいった。


しばらくして、

キンメダイだけ戻ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


「…………」


「もう一匹は?」


「情報を買いに行きました」


「福音あったの?」


「ありました」


「よかったじゃん」


「はい」


「で、お前は?」


「食べました」


「どれくらい?」


「…………結構」


「お前が貸せよ!!!」



*



昼前。


さっきの魚が戻ってきた。


「情報、買えました!」


「おお」


「この先の岩場に、福音が落ちてくるそうです」


「誰が言った?」


「昨日そこで食べた魚です」


「本人が見た?」


「はい」


「いつ?」


「昨日です」


「…………」


昨日。


「今日も落ちるの?」


「…………」


「分かりません」


「古い情報買ってんじゃねえか!!!」



*



魚が固まった。


「でも昨日は……」


「昨日だろ!!」


「福音、返さないと」


「だから情報にも鮮度があるって言っただろ!!!」


魚が困った顔をする。


「どうしよう」


「俺に聞くなよ!!!」



*



キントキダイが言った。


「貸す時に、返せるか確認するべきだったな」


「…………」


また正しい。


「福音が手に入る前提で貸した」


「ああ」


「だが、その前提が崩れた」


「そう」


「なら返せない」


「知ってる!!!」



*



イトヨリダイが言った。


「返す期限、決めとけばよくないすか?」


「期限?」


「今日じゃなくても、明日とか」


魚が顔を上げた。


「明日なら返せるかもしれません!」


「何で?」


「明日は福音が来るかもしれないので!」


「収入の見込みが全部『かもしれない』なんだよ!!!」



*



そこへ別の魚が来た。


「福音、貸してもらえるんですか?」


「…………」


俺はそいつを見る。


「誰から聞いた?」


「さっきの魚」


「広めるの早えよ!!!」


「少しでいいです」


「何に使うの?」


「情報です」


「何の?」


「釣り人が来ない場所」


「…………」


それはちょっと欲しい。


「誰が売ってる?」


「向こうの魚」


「そいつはどうやって知った?」


「…………聞いてきます」


「よし」


魚が泳いでいく。


「…………」


俺は止まった。


「今、貸す前提で審査した?」


キントキダイが言った。


「したな」


「やめろ!!!」



*



しばらくして魚が戻ってきた。


「聞いてきました!」


「どうだった?」


「自分で見たそうです!」


「いつ?」


「今朝!」


「船は?」


「来てないそうです!」


新しい情報。


本人確認。


現地確認。


「…………」


いい情報。


キントキダイが俺を見る。


「貸してもいいんじゃないか?」


「何で俺が決めるの!?」


イトヨリダイも言った。


「返ってきそうですしね」


「お前まで審査側に回るな!!!」



*



俺は少しだけ福音を渡した。


「絶対返せよ?」


「はい!」


「いつ?」


「今日中に!」


「本当に?」


「はい!」


魚が泳いでいく。


キンメダイが言った。


「貸しましたね」


「貸したな」


キントキダイも言った。


「貸したな」


イトヨリダイも頷く。


「貸しましたね」


「全員で確認すんな!!!」



*



午後。


魚が戻ってきた。


「チカメキントキさん!」


「おお!」


ちゃんと福音を持っている。


「返します!」


「おおお!!」


返ってきた。


ちゃんと返ってきた。


俺は返された福音を見る。


貸した。


返ってきた。


「…………」


成立しちゃった。



*



キントキダイが言った。


「問題なかったな」


イトヨリダイも言う。


「信用できる魚っすね」


「…………」


信用。


その言葉に、近くにいた魚が反応した。


「じゃあ俺も借りたい」


「…………」


もう一匹。


「俺も」


さらにもう一匹。


「私も」


「待て待て待て」


魚が集まってくる。


「少しだけ」


「明日返す」


「福音が入ったら返す」


「情報を買いたい」


「餌を交換したい」


俺は少しずつ後ろへ下がった。


「何で増えてんの!?」



*



一匹が言った。


「さっきの魚は返したんですよね?」


「まあ」


「じゃあ、借りても大丈夫なんですよね?」


「その理屈おかしくない!?」


別の魚が言う。


「俺も返します」


「何で信用できるの!?」


「返すって言ってるから」


「一番信用しちゃいけない理由!!!」



*



キントキダイが魚たちを見る。


「全員に貸すのは無理だな」


「当たり前だよ!!」


「返せる魚を選ぶ必要がある」


「…………」


イトヨリダイが言った。


「前に返したことある魚なら、貸しやすいんじゃないすか?」


一回借りた。


ちゃんと返した。


だから次も貸せる。


キントキダイが頷く。


「実績だな」


イトヨリダイも言った。


「信用っすね」


「…………」


嫌な予感がした。


ものすごく嫌な予感が。



*



翌日。


一匹の魚が来た。


昨日、ちゃんと福音を返した魚だ。


「チカメキントキさん」


「…………」


「福音、貸してください」


「また!?」


「今回は多めに」


「何で!?」


「前回、返しました」


「…………」


「信用ありますよね?」


キントキダイが言った。


「あるな」


イトヨリダイも頷く。


「実績あるっすね」


魚が俺を見る。


「なので、前より多く貸してください」


「信用ってそうやって使うの!?」



*



昨日まで、

情報に値段がついただけだった。


今日。


持っていない魚が借り始めた。


返した魚には信用がついた。


信用があると、

もっと借りられる。


「…………」


誰も作ろうなんて言ってない。


ただ、

福音が足りなかっただけ。


俺は目の前の魚たちを見る。


貸して。


返して。


また借りる。


「…………」


これ。


金融じゃない?



「銀行って何なんだよおおおおおお!!!」



次回。


『利子って必要ですか?』



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