第57話 その情報、誰が言ってました?
翌朝。
「今日、船来るらしいですよ」
一匹の魚が言った。
「誰が言った?」
「…………え?」
別の魚が聞く。
「誰が言った?」
「向こうの魚」
「向こうの誰?」
「…………知らない」
「じゃあ未確認」
「…………」
俺は横で聞いていた。
「めんどくせえええええ!!!」
*
昨日。
俺は死んだ。
正確には、
死んでない。
釣られてもいない。
人間の、
『チカメキントキ釣れたらいいな』
が魚から魚へ伝わって、
最終的に俺が死んだ。
だから決めた。
情報には出所を付ける。
誰が見た。
誰が聞いた。
誰がそう思った。
「…………」
正しい。
絶対に正しい。
ただ。
「福音、来るらしいよ」
「誰が言った?」
「知らない」
「未確認」
「…………」
会話が進まない。
*
キンメダイが俺のところへ来た。
「チカメさん、向こうに福音あるみたいですよ」
「…………」
「?」
俺は聞いた。
「誰が言った?」
「僕が見ました」
「…………」
強い。
情報源。
「じゃあ行こう」
「はい」
*
泳いでいくと、
本当に福音があった。
キンメダイが食べる。
「おいしいです」
「そう」
一匹の魚が近づいてきた。
「福音あるんですか?」
キンメダイが答える。
「ありますよ」
魚が聞く。
「誰が言った?」
「僕が今食べてます」
「…………」
魚が福音を見る。
キンメダイを見る。
もう一度、福音を見る。
「確認済み」
「目の前のオキアミに情報源求めんな!!!」
*
キントキダイが来た。
「船が来た」
「誰が言った?」
「私が聞いた」
「何を?」
「エンジン音」
「確認済み」
「…………」
俺は止まる。
「何で俺まで普通にやってんだよ!!!」
キントキダイが言った。
「必要な確認だ」
「そうなんだけど!!!」
*
ぶううううううん。
遠くから船の音。
確かに来た。
情報係が配置につく。
俺たちは昨日と同じ、
船から離れた安全な場所。
ここからは船も仕掛けも見えない。
人間の声も聞こえない。
前線から情報だけが来る。
*
しばらくして、
六番が泳いできた。
「情報です!」
「何?」
「今日は深い方からやるそうです!」
「誰が言った?」
「一番です!」
「一番は?」
「人間から聞きました!」
「人間は何て?」
「『深い方からやろう』です!」
「よし、確認済み」
六番が戻っていく。
「…………」
ちゃんとしてる。
ものすごく、
ちゃんとしてる。
魚なのに。
*
少しして、
また六番。
「情報です!」
「何?」
「今日は大物が出るそうです!」
「誰が言った?」
「三番です!」
「三番は誰から?」
「二番です!」
「二番は?」
「一番です!」
「一番は?」
「…………」
六番が止まる。
「聞いてきます!」
「そこから!?」
*
情報が逆に戻る。
六番から五番。
五番から四番。
四番から三番。
二番。
一番。
そして、
また戻ってくる。
一番。
二番。
三番。
四番。
五番。
六番。
「確認しました!」
「人間は何て!?」
「何も言ってません!」
「じゃあ誰だよ!!!」
「一番が」
「うん」
「今日は大物が出そうな気がする、と」
「お前の感想じゃねえか!!!」
*
キントキダイが言った。
「推測だな」
「推測だよ!!」
イトヨリダイが口を挟む。
「でも、分けとけば使えるんじゃないすか?」
「何を?」
「人間が言った」
「うん」
「魚が見た」
「うん」
「魚が聞いた」
「うん」
「魚が思った」
「…………」
キントキダイが頷く。
「合理的だ」
「最後だけ信頼度低すぎない!?」
*
その時。
待機していた魚が言った。
「今日、潮悪いよ」
俺は反射的に聞いた。
「誰が言った?」
「俺」
「何で?」
「泳ぎにくいから」
「…………」
キントキダイが言った。
「体感情報だな」
イトヨリダイも頷く。
「現場の声っすね」
「急に会議みたいにすんな!!!」
*
それからも魚が来る。
「向こう、餌多いぞ」
「誰が言った?」
「俺が見た」
「確認済み」
「大きい魚いたぞ」
「誰が言った?」
「友達」
「友達は見た?」
「たぶん」
「未確認」
「釣り人、帰るらしいぞ」
「誰が言った?」
「知らない」
「未確認」
「でも、みんな言ってる」
「一番危ないやつ!!!」
*
昨日まで、
「聞いたぞ」
で済んでいた。
今日からは、
「誰から?」
「そいつは見た?」
「人間が言った?」
「自分で見た?」
「推測?」
「…………」
めんどくさい。
ものすごく、
めんどくさい。
でも昨日、
俺はこれがなくて死んだ。
「…………」
必要なんだよな。
これ。
*
キンメダイが近づいてきた。
「チカメさん」
「何?」
「お腹すきました」
「…………」
俺は聞いた。
「誰が言った?」
「僕です」
「確認済み」
「はい」
「…………」
「…………」
「いや待て!!!」
キンメダイが首をかしげる。
「何です?」
「お前の腹減ったまで確認してどうすんだよ!!!」
キントキダイが言った。
「本人の申告だ」
「分類すんな!!!」
イトヨリダイも言う。
「一次情報っすね」
「食欲に一次情報とかねえよ!!!」
キンメダイが聞いた。
「じゃあ、食べて確認します?」
「何を!?」
「お腹がすいてるか」
「食ったら解決しちゃうだろ!!!」
*
その頃には、
あちこちで聞こえていた。
「誰が言った?」
「見たの?」
「聞いたの?」
「誰から?」
「確認した?」
「それ推測?」
「…………」
昨日。
誤報を防ぐために始めた、
たった一つの確認。
『誰が言った?』
それだけだった。
*
一匹の魚が、
別の魚へ言う。
「向こうに福音あるって」
「誰が言った?」
「キンメダイ」
「キンメダイは?」
「食べてた」
「確認済み」
「…………」
強い。
キンメダイの食情報だけ、
異様に信頼度が高い。
「なんで食い物だけ情報網が完璧なんだよ!!!」
*
午後。
情報係が戻ってきた。
「情報です!」
「何?」
「釣り人が、そろそろ移動するそうです!」
「誰が言った?」
「人間です!」
「一番が直接聞いた?」
「はい!」
「何て?」
「『そろそろ移動するか』です!」
「確認済み!」
「はい!」
「…………」
完璧。
俺は頷く。
「じゃあ、こっちもしばらく待機で――」
「チカメさん」
イトヨリダイが俺を見る。
「何?」
「今の指示」
「うん」
「誰が言ったんすか?」
「俺だよ!!!」
「根拠は?」
「今の情報だよ!!!」
「確認済み?」
「お前も聞いてただろ!!!」
キントキダイが言った。
「判断と事実は分けた方がいい」
「俺の指示までファクトチェックすんな!!!」
*
情報の出所を確認する。
正しい。
噂と事実を分ける。
正しい。
推測を推測として扱う。
正しい。
全部、
正しい。
「…………」
なのに。
なんでこんなに、
めんどくさいんだ。
*
遠くから声。
「船、帰ったらしいぞー!」
別の魚が叫ぶ。
「誰が言ったー!?」
「知らなーい!」
「未確認ー!」
ぶううううううん。
遠くで、
エンジン音が離れていく。
「…………」
さっきの魚が叫んだ。
「確認済みー!」
「耳で確認しろおおおおおお!!!」
次回。
『情報にも値段がつきました』




