第56話 速報、チカメキントキ死亡
翌朝。
俺は。
生きている。
「…………」
普通に。
生きている。
泳いでいる。
飯も。
食った。
「…………」
なのに。
一匹の魚が。
俺を見て。
止まった。
「…………」
「何?」
「…………」
魚が。
ゆっくり。
近づいてくる。
「チカメキントキ?」
「そうだけど」
「…………」
「何だよ」
「生きてる」
「生きてるよ!!!」
*
魚が。
俺の周りを。
一周する。
「…………」
「何してんの?」
「確認」
「何の!?」
「本物かどうか」
「本物だよ!!!」
キンメダイが。
横から。
言った。
「チカメさんですよ」
「知ってるよ!!!」
*
魚が。
首を。
かしげる。
「でも」
「何?」
「死んだって聞いた」
「…………」
「…………」
「誰が?」
「みんな」
「みんなって誰だよ!!!」
*
昨日。
情報係から。
届いた。
情報。
『チカメキントキが釣れた』
もちろん。
誤報。
人間が。
言ったのは。
『チカメキントキ釣れたらいいな』
それが。
伝言の途中で。
変わった。
訂正も。
した。
はず。
だった。
「…………」
なのに。
今日。
俺は。
死んでいる。
「一晩で何があったんだよ!!!」
*
別の魚が。
通る。
俺を見る。
止まる。
「…………」
「あ」
「何!?」
「チカメキントキ」
「そうだよ!!」
「…………」
「生きてる」
「その確認もう二匹目!!!」
魚が。
驚いて。
近づいてくる。
「海上から戻ったの?」
「行ってねえよ!!!」
「でも釣られたって」
「それが誤報!!!」
「帰ってこなかったって」
「ずっとここにいた!!!」
「じゃあ」
「うん」
「生還した?」
「出発してねえ!!!」
*
イトヨリダイが。
言った。
「広まってるっぽいっすね」
「何で!?」
「魚から魚じゃないすか?」
「…………」
魚から。
魚。
昨日。
俺たちの。
情報係だけじゃない。
近くには。
他の魚も。
いた。
聞いた魚が。
別の魚へ。
その魚が。
また。
別の魚へ。
「…………」
嫌な。
予感。
*
俺たちは。
話を。
逆に。
辿った。
「誰から聞いた?」
「向こうの魚」
向こうへ。
行く。
「誰から聞いた?」
「あっちの魚」
あっちへ。
行く。
「誰から聞いた?」
「通りすがりの魚」
「通りすがるなよ!!!」
*
さらに。
辿る。
「何て聞いた?」
「チカメキントキが釣られた」
「そこまでは分かる」
次。
「チカメキントキが海上へ行った」
「まあ釣られたならそうなるな」
次。
「チカメキントキが帰ってこない」
「そりゃ俺はそいつらのところには行ってねえからな!!」
次。
「チカメキントキは戻らなかった」
「…………」
次。
「海上奉仕に出たらしい」
「勝手に奉仕させんな!!!」
そして。
次。
「チカメキントキは死んだ」
「完成すんなああああああ!!!」
*
キンメダイが。
言った。
「少しずつですね」
「何が!?」
「変わってます」
「見りゃ分かるよ!!!」
キントキダイが。
考える。
「最初の情報は」
「ああ」
「釣れた、だった」
「ああ」
「釣られた魚は戻らないことが多い」
「…………」
「だから」
「…………」
「死んだ、と判断された」
「勝手に死亡判定すんな!!!」
*
そこへ。
また。
魚が。
来る。
俺を見る。
止まる。
「…………」
もう。
分かる。
「生きてるよ」
「えっ」
「生きてる!!!」
「でも」
「誤報!!!」
「じゃあみんなに伝えます」
「頼む!!!」
魚は。
泳いでいった。
「…………」
これで。
終わる。
今度こそ。
*
しばらくして。
別の魚。
「チカメキントキさん」
「はい」
「生き返ったって本当ですか?」
「そう伝わったかああああああ!!!」
*
「違う!!」
「?」
「死んでない!!」
「でも」
「何!?」
「死んだって聞いて」
「それが間違い!!」
「そのあと、生きてるって」
「そう!!」
「じゃあ」
「言うな」
「復活?」
「言うなって言っただろ!!!」
*
キンメダイが。
言った。
「すごいですね」
「何が!?」
「チカメさん」
「俺!?」
「死んでも戻ってくるんですね」
「お前まで信じんな!!!」
キントキダイが。
言った。
「信仰的には強そうだな」
「強くしなくていい!!!」
*
俺は。
魚たちを。
集めた。
「いいか!!」
ざわ。
ざわ。
「俺は!!」
ざわ。
「死んでない!!!」
「…………」
静かに。
なった。
「昨日も!!」
「…………」
「釣られてない!!!」
「…………」
「ずっと!!」
「…………」
「ここにいた!!!」
「…………」
一匹が。
聞いた。
「じゃあ、死亡は?」
「誤報!!!」
「生還は?」
「してない!!!」
「復活は?」
「してない!!!」
「奇跡は?」
「何も起きてねえ!!!」
*
魚たちが。
ざわつく。
「死んでなかったらしい」
「釣られてもいないらしい」
「じゃあ最初から?」
「生きてた?」
「そう言ってんだろ!!!」
*
魚が。
散っていく。
今度は。
それぞれが。
別の魚へ。
伝えに。
行く。
「…………」
キントキダイが。
言った。
「これで訂正されるだろう」
「頼むからそうして」
*
少しして。
一匹が。
戻ってきた。
「チカメキントキさん」
「何?」
「死亡情報は誤りだったそうです」
「そう!!!」
「釣られてもいない」
「そう!!!」
「ずっとここにいた」
「そう!!!!」
完璧。
やっと。
正しい。
情報。
「よし!!!」
魚が。
続けた。
「誰から聞いたかも分かりました」
「え?」
「死亡情報」
「誰?」
「…………」
魚が。
後ろを見る。
一匹の。
魚。
「…………」
そいつが。
言った。
「俺は」
「うん」
「釣られたって聞いたから」
「うん」
「死んだと思った」
「…………」
「それを伝えた」
「…………」
「…………」
「お前かああああああ!!!」
*
キントキダイが。
言った。
「問題はそこだな」
「何が?」
「見た情報と」
「うん」
「聞いた情報と」
「うん」
「考えた情報が」
「…………」
「全部同じように伝わっている」
「…………」
なるほど。
釣られた。
は。
聞いた。
死んだ。
は。
考えた。
でも。
次の魚には。
どっちも。
同じ。
情報。
「…………」
イトヨリダイが。
言った。
「誰が言ったか付ければよくないすか?」
「誰が?」
「情報に」
「…………」
「誰が見た」
「うん」
「誰が聞いた」
「うん」
「誰がそう思った」
「…………」
キントキダイが。
頷く。
「出所を残すのか」
「そうっす」
「合理的だ」
「…………」
また。
始まった。
*
その日の。
午後。
情報係が。
戻ってくる。
「情報です!」
「何!?」
「船で大きい魚が釣れました!」
「誰が見た!?」
「一番です!」
「人間が何て言った!?」
「『でかい』です!」
「魚種は!?」
「まだ分かりません!」
「じゃあそこまで!!」
「はい!」
「…………」
俺は。
止まる。
キンメダイが。
俺を見る。
「チカメさん」
「何?」
「慣れましたね」
「…………」
キントキダイが。
言った。
「合理的だ」
「…………」
イトヨリダイが。
言った。
「情報源確認、おけまる水産〜」
「…………」
「…………」
俺は。
何を。
やってる?
昨日まで。
釣られないために。
情報が。
欲しかった。
だけ。
なのに。
今日。
俺は。
情報の。
出所を。
確認している。
「…………」
魚に。
取材ルール。
できてない?
*
遠くで。
魚が。
叫ぶ。
「速報ー!」
別の魚。
「誰が見たー!?」
「一番ー!」
「確認済みー!?」
「まだー!」
「じゃあ未確認ー!」
「…………」
俺は。
海を。
見る。
「報道って何なんだよおおおおおお!!!」
次回。
『その情報、誰が言ってました?』




