第55話 情報は鮮度が命です
翌朝。
ぶううううううん。
遠くから。
エンジン音。
「来たな」
でも。
今日は。
近づかない。
*
俺たちは。
船から。
離れた場所に。
いる。
かなり。
離れている。
船の音は。
聞こえる。
でも。
仕掛けは。
見えない。
人間の声も。
ここまでは。
届かない。
昨日までは。
情報が欲しくて。
船の近くに。
いた。
そして。
釣られた。
食われた。
追い回された。
「…………」
学習した。
船の近くへ。
行くのは。
情報係だけ。
俺たちは。
離れて。
待つ。
「…………」
安全。
大事。
キンメダイが。
遠くを見る。
「船、見えませんね」
「ああ」
「福音も見えません」
「ああ」
「…………」
「戻りたい?」
「ちょっと」
「安全を選べ!!!」
*
昨日。
六匹になった。
情報係。
今日は。
十二匹。
「増えてる!!!」
イトヨリダイが。
スマホを見る。
「交代要員っす」
「倍にすんなよ!!!」
キントキダイが。
言った。
「六匹が前線」
「前線」
「六匹が待機」
「待機」
「交代で回す」
「…………」
完全に。
シフト。
じゃねえか。
*
キンメダイが。
待機している魚を見る。
「この魚たちは?」
「休憩だ」
キントキダイが。
答える。
「まだ仕事してないですよ」
「…………」
「…………」
キントキダイが。
俺を見る。
「制度上の休憩だ」
「俺を見るな!!!」
*
遠くから。
小さく。
聞こえる。
小魚♪
小魚♪
小魚♪
求人♪
「…………」
もう。
誰も。
気にしていない。
それが。
一番。
怖い。
*
エンジン音が。
止まった。
「配置」
キントキダイが。
言った。
「お前が仕切るの!?」
六匹が。
泳いでいく。
一番は。
船の近く。
二番は。
少し離れて。
三番。
四番。
五番。
そして。
俺たちに。
一番近い。
六番。
「…………」
魚の。
情報リレー。
昨日より。
明らかに。
手慣れてる。
「なんで一日で熟練してんだよ……」
*
しばらくして。
六番が。
戻ってきた。
「情報です!」
「来た!」
俺たちからは。
見えない。
聞こえない。
船の上の。
情報。
それが。
六匹を。
渡って。
ここまで。
来た。
「今日は、沖から始めるそうです!」
「おお」
「昼前には、場所を変えるかもしれないそうです!」
「おお!!」
ちゃんと。
情報。
「初めて情報係っぽい!!!」
イトヨリダイが。
スマホに。
入力する。
「機能しましたね」
「した!!」
正確。
早い。
誰も。
釣られてない。
「…………」
ついに。
完成した。
かもしれない。
*
十分後。
六番が。
また。
来た。
「情報です!」
「何!?」
「一匹釣れました!」
「魚種は?」
「アカハタです!」
「おお」
イトヨリダイが。
入力する。
「アカハタ、一」
「うん」
五分後。
「情報です!」
「何!?」
「餌を替えました!」
「何に?」
「サバタンから」
「うん」
「別のサバタンです!」
「それいる!?」
イトヨリダイが。
入力する。
「餌変更」
「書くの!?」
*
三分後。
「情報です!」
「何!?」
「一人、飲み物を飲みました!」
「いらねえよ!!!」
イトヨリダイが。
入力する。
「休憩」
「人間側の休憩まで管理すんな!!!」
二分後。
「情報です!」
「今度は何!?」
「一人、立ちました!」
「知らねえよ!!!」
一分後。
「座りました!」
「実況になってんじゃねえか!!!」
*
情報が。
速くなった。
正確になった。
その結果。
全部。
来る。
「情報です!」
「何!?」
「竿を持ち替えました!」
「知らん!!」
「情報です!」
「何!?」
「何か食べています!」
「知らん!!!」
「情報です!」
「何!?」
「何か話しています!」
「そこ聞けよ!!!」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
見ながら。
言った。
「情報、多すぎますね」
「お前が全部記録するからだろ!!」
「でも情報は情報じゃないすか」
「選べ!!!」
キントキダイが。
言った。
「重要度を決めればいい」
「重要度?」
「ああ」
「釣りに関係するものを優先する」
「…………」
まとも。
また。
まともなこと。
言ってる。
キンメダイが。
聞いた。
「食べ物は?」
「低い」
「…………」
「低い?」
「ああ」
キンメダイが。
俺を見る。
「低い?」
「俺を巻き込むな!!!」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
操作する。
「じゃ、分けます?」
「どうやって?」
「重要」
「うん」
「普通」
「うん」
「どうでもいい」
「うん」
「食べ物」
「なんで独立した!?」
キンメダイが。
頷く。
「大事です」
「お前専用カテゴリーじゃねえか!!!」
*
その時。
六番が。
猛スピードで。
戻ってきた。
「情報です!!」
「何!?」
「チカメキントキ!」
「…………」
俺は。
固まる。
「何!?」
「チカメキントキが――」
「俺が!?」
「釣れたそうです!!」
「…………」
「…………」
全員が。
俺を見る。
俺も。
自分を見る。
いる。
普通に。
いる。
しかも。
船から。
かなり。
離れた場所に。
「…………」
「俺ここにいるけど!!!」
*
六番が。
五番を見る。
五番が。
四番を見る。
四番が。
三番を見る。
三番が。
二番を見る。
二番が。
遠くの。
一番を見る。
「…………」
イトヨリダイが。
言った。
「誤報っすかね」
「現物が否定してるだろ!!!」
キントキダイが。
言った。
「確認が必要だ」
「何を!?」
「本当に釣れたか」
「本人で確認しろ!!!」
キンメダイが。
俺を見る。
「釣られました?」
「お前まで聞くな!!!」
*
情報が。
逆方向へ。
戻っていく。
六番。
五番。
四番。
三番。
二番。
一番。
そして。
また。
戻ってくる。
一番。
二番。
三番。
四番。
五番。
六番。
「訂正です!」
「だろうな!!!」
「チカメキントキが釣れた、ではなく」
「うん」
「チカメキントキが釣れたらいいな、でした!」
「全然違うじゃねえか!!!」
*
一番が。
聞いた。
『チカメキントキ釣れたらいいな』
それが。
二番。
三番。
四番。
五番。
六番。
そして。
俺へ。
チカメキントキが。
釣れた。
「…………」
俺は。
船から。
離れて。
安全に。
待っていただけなのに。
情報だけが。
先に。
俺を。
釣り上げた。
「情報怖ええええええ!!!」
*
イトヨリダイが。
スマホに。
入力する。
「誤報、一件」
「記録すんな!!」
「必要じゃないすか?」
「必要だけど!!!」
キントキダイが。
言った。
「未確認情報には印を付けるべきだな」
「…………」
「確認済みと分ける」
「…………」
イトヨリダイが。
入力する。
「速報と確定っすね」
「…………」
速報。
確定。
「…………」
また。
何か。
生まれた。
*
その直後。
六番が。
来た。
「速報です!」
「もう使ってる!!!」
「大きい魚が釣れました!」
「何!?」
イトヨリダイが。
入力する。
「魚種は?」
「不明!」
「大きさは?」
「不明!」
「何が分かってんだよ!!!」
「大きいです!」
「速報の質が低い!!!」
*
少しして。
「続報です!」
「何!?」
「赤い魚です!」
「…………」
俺。
赤い。
キンメダイ。
赤い。
キントキダイ。
赤い。
イトヨリダイ。
赤っぽい。
「情報として弱えええええ!!!」
*
さらに。
少しして。
「確定です!」
「何!?」
「アカハタでした!」
「…………」
イトヨリダイが。
入力する。
速報。
大型魚。
続報。
赤。
確定。
アカハタ。
「…………」
俺は。
スマホを見る。
「ニュース速報みたいになってんじゃねえか」
イトヨリダイが。
言った。
「情報は鮮度が命っすからね」
「鮮度だけじゃダメだって今学んだだろ!!!」
*
遠くから。
聞こえる。
小魚♪
小魚♪
小魚♪
求人♪
その横を。
情報係が。
泳ぐ。
「速報です!」
別の魚が。
続く。
「続報です!」
さらに。
一匹。
「訂正です!」
「…………」
昨日まで。
魚は。
ただ。
泳いでいた。
今日。
速報が。
泳いでいる。
「…………」
海に。
報道機関。
できてない?
「…………」
次回。
『速報、チカメキントキ死亡』




