第54話 一匹で行く必要なくない?
翌朝。
まだ。
船は。
来ていない。
なのに。
魚は。
いる。
「…………」
多い。
昨日より。
多い。
「なんで増えてんだよ……」
遠くから。
聞こえる。
小魚♪
小魚♪
小魚♪
求人♪
「…………」
もう。
誰が歌ってるのか。
分からない。
*
イトヨリダイが。
スマホを。
見ている。
その前に。
魚。
魚。
魚。
「次の方どうぞー」
「待て」
一匹。
前へ。
出る。
「船の近くまで行けます」
「はい」
「泳ぎには自信があります」
「はい」
「福音は好きです」
「それは全員だろ!!!」
イトヨリダイが。
スマホに。
何か。
入力する。
「採用候補、と」
「面接始めんな!!!」
「昨日やるって言ったじゃないすか」
「何匹か試すとは言ったけど!!」
キンメダイが。
横から。
魚を見る。
「好きな食べ物は?」
「それ面接に必要!?」
「大事ですよ」
「お前が知りたいだけだろ!!!」
*
キントキダイが。
魚たちを見る。
「三匹でいいだろう」
「三匹?」
「ああ」
前へ。
一匹。
中継に。
一匹。
戻る役に。
一匹。
「…………」
昨日。
話した。
役割分担。
船へ。
全員で。
近づく必要は。
ない。
「一匹で行く必要なくない?」
イトヨリダイが。
言った。
「だから三匹にしたんだろ」
「いや」
「?」
「もっと分けてもよくないすか?」
「…………」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
見せる。
「船の近くで聞く係」
「うん」
「それを受け取る係」
「うん」
「さらに受け取る係」
「…………」
「さらに受け取る係」
「待て」
「さらに――」
「何匹使う気だよ!!!」
キントキダイが。
言った。
「距離を短くすれば、安全性は上がる」
「理屈ではな!!」
キンメダイが。
聞く。
「いっぱい並ぶんですか?」
「そうなるな」
「面白そうですね」
「遊びじゃねえんだよ!!!」
*
結果。
七匹。
「…………」
俺の前に。
七匹の魚が。
並んでいる。
「増えてるじゃん!!!」
イトヨリダイが。
言った。
「安全第一っす」
「昨日まで一匹だったんだぞ!?」
「改善っすね」
「人員七倍を改善って言うな!!!」
キントキダイが。
七匹を見る。
「問題ない」
「お前は人件費って概念を覚えろ!!」
「福音だろう?」
「…………」
そうだった。
給料。
オキアミ。
「…………」
急に。
安く感じる。
「いや騙されねえぞ!!!」
*
船が。
来た。
ぶううううううん。
七匹が。
一斉に。
上を見る。
「来ましたね」
「ああ」
俺は。
七匹を見る。
「いいか」
「はい」
「絶対に無理すんな」
「はい」
「仕掛けが来たら逃げろ」
「はい」
「餌がついてても食うな」
「…………」
「返事!!!」
「はい」
「今の間なんだよ!!!」
*
配置。
一匹目。
船の近く。
二匹目。
少し下。
三匹目。
さらに。
離れる。
四匹目。
五匹目。
六匹目。
そして。
七匹目。
俺たちの。
近く。
「…………」
魚の。
伝言リレー。
完成。
キンメダイが。
列を見る。
「長いですね」
「俺もそう思う」
「運動会みたいです」
「急に楽しそうにすんな!!!」
*
しばらくして。
一匹目が。
戻ってきた。
二匹目に。
何か。
伝える。
二匹目が。
三匹目へ。
三匹目が。
四匹目へ。
「…………」
来た。
情報。
来てる。
四匹目から。
五匹目。
五匹目から。
六匹目。
六匹目から。
七匹目。
七匹目が。
俺の前へ。
来た。
「情報です」
「おお!!」
成功。
した。
「何て言ってた!?」
「今日は」
「うん」
「潮が」
「うん」
「…………」
「…………」
「何でしたっけ」
「おいいいいいいいい!!!」
*
七匹目が。
六匹目を見る。
「何だっけ?」
六匹目が。
五匹目を見る。
「何だっけ?」
五匹目が。
四匹目を見る。
「…………」
四匹目が。
三匹目を見る。
「潮が何とか」
三匹目が。
二匹目を見る。
「速い?」
二匹目が。
一匹目を見る。
遠い。
「…………」
俺は。
叫ぶ。
「伝言ゲームになってんじゃねえか!!!」
*
一匹目が。
もう一度。
伝える。
二匹目。
三匹目。
四匹目。
五匹目。
六匹目。
七匹目。
「潮が速いそうです!」
「おお!!」
「たぶん!」
「たぶん付けんな!!!」
キントキダイが。
言った。
「情報の劣化が問題だな」
「魚で伝言ゲームしたらそうなるわ!!!」
イトヨリダイが。
スマホを。
見ながら。
言った。
「じゃ、途中で記録すればよくないすか?」
「どうやって?」
「スマホ」
「一台しかねえだろ!!!」
「…………」
「…………」
「増やします?」
「海底にスマホショップねえよ!!!」
*
その時。
一匹目が。
慌てて。
下りてきた。
「仕掛け!」
「来た!!」
二匹目へ。
「仕掛け!」
三匹目へ。
「仕掛け!」
四匹目へ。
「仕掛け!」
五匹目へ。
「仕掛け!」
六匹目へ。
「仕掛け!」
七匹目へ。
「仕掛け!」
俺へ。
「仕掛け!!」
「それは正確なんだな!!!」
*
全員。
逃げる。
上から。
仕掛けが。
落ちてくる。
一匹目。
避ける。
二匹目。
避ける。
三匹目。
避ける。
四匹目。
避ける。
「…………」
五匹目が。
止まった。
「おい?」
針の先。
餌。
「…………」
「おい」
「…………」
「食うなよ?」
「…………」
ぱく。
「食ったあああああああ!!!」
ぎゅん。
五匹目。
上昇。
「五番んんんんんん!!!」
*
残った。
六匹。
「…………」
イトヨリダイが。
スマホを見る。
「欠員一」
「リアルタイムで更新すんな!!!」
キントキダイが。
言った。
「五番の区間を詰めよう」
「切り替え早っ!!!」
四匹目。
少し。
下へ。
六匹目。
少し。
上へ。
「…………」
もう。
穴が。
埋まった。
「業務継続できるな」
「できちゃうの!?」
*
再び。
情報が。
流れる。
一匹目。
二匹目。
三匹目。
四匹目。
六匹目。
七匹目。
「情報です!」
「今度こそ何!?」
「今日は」
「うん」
「チカメキントキは」
「…………」
嫌な。
予感。
「もう狙わないそうです」
「…………」
「アカハタに切り替えるって」
「…………」
昨日。
聞いた。
「それ昨日の情報だよ!!!」
七匹目が。
六匹目を見る。
六匹目が。
四匹目を見る。
四匹目が。
三匹目を見る。
三匹目が。
二匹目を見る。
二匹目が。
一匹目を見る。
一匹目が。
遠くから。
叫ぶ。
「今日も言ってましたー!」
「今日も言ってんの!?」
*
「…………」
俺。
本命。
終了。
正式に。
終了。
「…………」
キンメダイが。
俺を見る。
「よかったですね」
「うん」
「…………」
「何だよ」
「寂しい?」
「寂しくねえよ!!!」
*
その横で。
魚たちは。
普通に。
仕事を。
続けている。
一匹。
釣られても。
残りが。
詰める。
情報が。
少し。
間違っても。
また。
確認する。
「…………」
昨日まで。
一匹が。
いなくなったら。
全部。
終わっていた。
今日は。
一匹。
いなくなっても。
続いている。
「…………」
キントキダイが。
言った。
「機能しているな」
「…………」
確かに。
している。
イトヨリダイが。
スマホに。
入力する。
「これ、交代要員もいた方がよくないすか?」
「…………」
「休憩も必要ですし」
キンメダイが。
頷く。
「大事ですよ」
「…………」
キントキダイが。
言った。
「予備も必要だな」
「…………」
魚が。
増える。
仕事が。
分かれる。
交代が。
できる。
一匹が。
消えても。
続く。
「…………」
これ。
もしかして。
組織。
じゃない?
*
遠くから。
聞こえる。
小魚♪
小魚♪
小魚♪
求人♪
「…………」
俺は。
七匹。
いや。
六匹になった。
情報係を見る。
「…………」
歌舞伎町から。
会社になってきたんだが。
「…………」
次回。
『情報は鮮度が命です』
NEXT 55




