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第53話 帰ってきたら求人が増えてました




『目的地周辺です』



「…………」



俺は。



周りを見る。



岩。



海藻。



魚。



「どこだよ!!!」



イトヨリダイが。



スマホを見る。



「この辺っす」



「この辺の範囲が広すぎる!!!」



『目的地周辺です』



「それは聞いた!!!」



キンメダイが。



辺りを。



見回す。



「見覚えあります?」



「微妙」



キントキダイが。



前へ出る。



「私は分かる」



「本当?」



「ああ」



「どっち?」



「…………」



キントキダイが。



ゆっくり。



周りを見る。



「…………」



「どっち?」



「今、確認している」



「分かってねえじゃねえか!!!」



*



その時。



遠くから。



声が。



聞こえた。



「…………」



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



回遊♪



底物♪



高収入♪



「…………」



俺は。



声の方を見る。



「帰ってきたああああああ!!!」



キンメダイが。



俺を見る。



「分かるんですか?」



「この歌を聞き間違えるか!!!」



イトヨリダイが。



スマホを見る。



「Googleマッピ、合ってたじゃないすか」



「最後の目印が求人ソングなんだよ!!!」



*



俺たちは。



声の方へ。



泳ぐ。



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



まだ。



聞こえる。



「なんでまだ歌ってんだよ……」



イトヨリダイが。



言った。



「流行ってるんじゃないすか?」



「こんな短期間で!?」



「覚えやすいですし」



「お前が言うな!!!」



前から。



一匹の魚が。



泳いでくる。



すれ違いざま。



小さく。



「回遊♪ 底物♪」



「…………」



俺は。



振り返る。



魚は。



そのまま。



泳いでいった。



「今あいつ歌ってたよな?」



キントキダイが。



言った。



「歌っていたな」



「感染してんじゃねえか!!!」



*



そして。



ようやく。



見覚えのある。



岩。



赤い。



海藻。



いつもの。



場所。



遠くから。



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



俺は。



揺れている。



赤い海藻を見る。



「…………」



なんか。



この辺。



歌舞伎町の入口に。



見えてきたんだが。



「…………」



*



帰ってきた。



釣り人から。



逃げて。



迷って。



魚の勘に。



騙されて。



Googleマッピの言う通りに。



曲がったら。



仕掛けが。



落ちてきて。



「…………」



長かった。



イトヨリダイが。



スマホを見る。



「無事到着っすね」



「途中が無事じゃねえんだよ!!!」



*



そして。



俺は。



気づいた。



「…………」



魚が。



多い。



いつもより。



明らかに。



多い。



「何これ?」



キンメダイが。



周りを見る。



「集まってますね」



「ああ」



「福音?」



「今日はもう終わってるだろ」



キントキダイが。



魚たちを見る。



「待っているように見える」



「何を?」



「…………」



「何を?」



「知らん」



「そこまで言ったら考えて!!!」



*



一匹の。



魚が。



こっちへ。



来た。



「チカメキントキさんですか?」



「…………」



「はい?」



「募集を見て来ました」



「…………」



募集。



「何の?」



「仕事です」



「…………」



俺は。



イトヨリダイを。



見る。



イトヨリダイも。



俺を見る。



「…………」



「何した?」



「何もしてないっす」



「じゃあ何で求人が出てんだよ!!!」



*



別の魚が。



寄ってくる。



「情報の仕事はこちらですか?」



さらに。



一匹。



「福音は出ますか?」



「出ねえよ!!」



「報酬なし?」



「そもそも採用してねえ!!!」



また。



一匹。



「未経験でも大丈夫ですか?」



「何の経験だよ!!!」



「海上経験」



「死ぬ可能性あるからやめとけ!!!」



「体験からでも?」



「体験入店みたいに言うな!!!」



別の魚が。



聞いた。



「寮はありますか?」



「海だよ!!!」



「送迎は?」



「自分で泳げ!!!」



イトヨリダイが。



言った。



「アルファードっすか?」



「どこで覚えた!!!」



「送迎ってそれじゃないんすか?」



「お前の人間社会、歌舞伎町に偏ってない!?」



「?」



「なんでお前が分かってねえんだよ!!!」



*



キンメダイが。



群れを見る。



「人気ですね」



「なんで!?」



「仕事だからじゃないですか?」



「昨日まで誰も働きたがらなかっただろ!!」



キントキダイが。



言った。



「条件が広まったんじゃないか」



「どんな条件だよ」



「情報を持ち帰れば、福音がもらえる」



「…………」



そういえば。



最初は。



それだけだった。



船の近くへ。



行く。



人間の話を。



聞く。



戻って。



伝える。



その対価に。



福音。



「…………」



ただ。



それだけ。



だった。



はず。



なのに。



目の前には。



求職魚。



「誰が広めたんだよ……」



*



群れの中から。



声。



「聞いた話では」



「うん」



「船の近くまで行って」



「うん」



「人間の話を聞くだけで」



「うん」



「福音がもらえる」



「…………」



「簡単なお仕事だと」



「簡単じゃねええええええ!!!」



昨日。



サバ。



消えた。



別のサバ。



生き餌になった。



ブリ。



採用直後に。



釣られた。



「離職率百パーセントだぞ!!!」



「離職?」



「働き始めた奴が帰ってこねえんだよ!!!」



「…………」



遠くでは。



まだ。



求人ソングが。



流れている。



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



歌舞伎町で。



働きだしたら。



帰ってこないんだが。



「…………」



*



魚たちが。



ざわつく。



「聞いてない」



「危険なのか?」



「福音は?」



「それでも量による」



「報酬次第だな」



「そこだけ人間みたいになるな!!!」



一匹が。



聞いた。



「危険手当は?」



「制度が進んでる!!!」



*



少し。



離れたところから。



また。



聞こえる。



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



俺は。



そっちを見る。



「まだ歌ってる……」



キンメダイが。



言った。



「僕、覚えましたよ」



「覚えなくていい!!!」



「回遊♪」



「歌うな!!」



「底物♪」



「続けるな!!!」



キントキダイが。



小さく。



「…………高収入」



「お前もかよ!!!」



「歌ってない」



「最後だけ参加しただろ!!!」



「確認しただけだ」



「何を確認したんだよ!!!」



*



イトヨリダイが。



スマホを。



操作している。



「何してんの?」



「募集要項まとめてます」



「やめろ!!!」



「でも説明必要じゃないすか?」



「それはそうだけど!!」



「業務内容」



「うん」



「船周辺での情報収集」



「うん」



「報酬」



「福音」



「まあ……」



「勤務時間」



「…………」



「チカメさん?」



「知らねえよ!!!」



キントキダイが。



言った。



「船が来ている間だろう」



「なるほど」



「勝手に労働条件決めんな!!!」



キンメダイが。



画面を。



覗く。



「休憩は?」



「お前まで入ってくんな!!!」



「休憩、大事ですよ」



「急に労働者側になるな!!!」



*



イトヨリダイが。



入力する。



「危険事項も入れときます?」



「絶対入れろ!!」



「釣られる可能性あり」



「うん」



「食べられる可能性あり」



「うん……」



「帰ってこない可能性あり」



「それ求人として成立すんの!?」



魚たちが。



画面は。



読めないのに。



なぜか。



真剣に。



聞いている。



「…………」



一匹が。



聞いた。



「それで」



「はい」



「福音は、どれくらい?」



「そこ行く!?」



*



キントキダイが。



俺を見る。



「決める必要があるな」



「何を?」



「報酬だ」



「なんで俺!?」



「雇うんだろう?」



「雇わねえよ!!」



キンメダイが。



言った。



「でも情報係、いないですよ」



「…………」



正しい。



昨日から。



何度。



この問題に。



戻ってる?



募集する。



釣られる。



募集する。



食われる。



募集する。



釣られる。



「…………」



人事。



終わってる。



*



イトヨリダイが。



言った。



「一匹に任せるからダメなんじゃないすか?」



「…………」



俺は。



見る。



「どういうこと?」



「何匹かでやればいいじゃないすか」



「何匹か?」



「船の近く行く奴」



「うん」



「ちょい離れて待つ奴」



「うん」



「戻って伝える奴」



「…………」



キントキダイが。



言った。



「役割を分けるのか」



「そうっす」



キンメダイが。



言った。



「誰か戻れれば、情報も戻りますね」



「…………」



キントキダイが。



頷く。



「合理的だ」



「…………」



確かに。



一匹が。



全部やる必要は。



ない。



近づく。



聞く。



運ぶ。



伝える。



分ければ。



情報ごと。



消える可能性は。



減る。



「…………」



まともだ。



珍しく。



まともな。



案だ。



*



俺は。



魚の群れを見る。



「じゃあ……」



ざわ。



「とりあえず」



ざわざわ。



「何匹か――」



「採用ですか?」



「まだ言ってねえ!!!」



「何匹?」



「報酬は?」



「いつから?」



「今日?」



「明日?」



「福音は?」



「待て待て待て待て!!!」



イトヨリダイが。



スマホを。



見ながら。



言った。



「応募、多いっすね」



「なんでこんな人気職になってんだよ!!!」



*



遠くから。



また。



聞こえる。



小魚♪



小魚♪



小魚♪



求人♪



「…………」



回遊♪



底物♪



高収入♪



「…………」



魚たちが。



何匹か。



口ずさんでいる。



俺は。



赤い海藻を見る。



集まった。



魚を見る。



求人ソングを。



聞く。



「…………」



歌舞伎町。



だよな。



ここ。



「…………」



俺は。



頭を。



抱えたくなった。



ヒレしか。



ないけど。



「求人って何なんだよおおおおおお!!!」



次回。


『一匹で行く必要なくない?』



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