第四十八話 本命の場所が分かりました
翌朝。
俺たちは。
イトヨリダイの岩に。
集まっていた。
「サバは?」
「まだっす」
イトヨリダイが。
スマホを。
つつく。
「ブログは?」
「更新なし」
「天気は?」
「見た」
「風は?」
「見た」
「波は?」
「見た」
「キャラメルフラペチーノは?」
「見た」
「最後いらねえよ!!」
「新作も出てたっす」
「情報網を私物化するな!!」
*
キンメダイが。
やってきた。
「おはようございます」
「お前は?」
「何ですか?」
「昨日のエビ」
「…………」
「食った?」
「ちゃんと捕りましたよ」
「何匹?」
「五匹」
「残ってる?」
「一匹」
「四匹食ってんじゃねえか!!」
キンメダイが。
一匹のエビを。
大事そうに。
見せる。
「これはサバさんのです」
「おお」
「我慢しました」
「一匹だけな!!」
*
キントキダイも。
来た。
俺の。
後ろに。
「…………」
「おはよう」
「おはよう」
「なんで後ろなの?」
「後方警戒」
「昨日からずっとそれで通す気!?」
「重要な役割だから」
「じゃあ俺から離れて後方警戒しろよ」
「…………」
「なんで黙るんだよ!!」
キントキダイが。
少し。
横へ。
移動した。
「これでいい?」
「十五センチくらいしか変わってねえよ!!」
「細かい奴だな」
「お前が言うな!!」
*
その時。
海面の方から。
何かが。
降りてきた。
速い。
「チカメ様ーーー!!!」
「サバ!!」
来た。
海の。
現地記者。
サバが。
俺たちのところまで。
一気に。
泳いできた。
「分かった!!」
「何が!?」
「場所!!」
俺と。
キントキダイが。
止まった。
イトヨリダイが。
スマホから。
顔を上げる。
「本命の?」
「うん!」
「どこ!?」
「聞いた!」
「だからどこ!?」
サバが。
言った。
「五十メートル!」
「…………」
「…………」
俺は。
周囲を見る。
「ここ何メートル?」
「知らない」
「誰か知らない!?」
全員。
黙った。
「魚なのに水深知らねえの!?」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
つつく。
「調べるっす」
「分かるの!?」
「海の地図とかあるんで」
「頼む!!」
すっ。
すっ。
「圏外」
「インターネットおおおお!!!」
イトヨリダイが。
ストラップを。
口にくわえる。
「行ってくるっす」
「電波?」
「はい」
上へ。
泳いでいく。
*
「あらあら〜」
後ろから。
姉イトヨリが。
やってきた。
「皆さん、朝から賑やかですね〜」
「あ、おねぇ」
妹は。
もう。
上へ向かっている。
「あら〜?」
姉イトヨリが。
空いた岩を見る。
「イトちゃんは?」
「電波取りに行った」
「あらあら〜」
「それで納得できるの!?」
「いつものことなので〜」
「いつもやってんだ!!」
姉イトヨリが。
俺たちを見る。
「何かあったんですか〜?」
「人間が水深五十メートルくらいを狙うらしい」
「あら〜」
「この辺って何メートルか分かる?」
「五十メートルくらいですよ〜」
「…………」
俺たちが。
止まった。
「え?」
「この辺、五十メートルくらいですよ〜」
「ここじゃねえか!!!」
*
俺は。
周囲を見る。
岩。
砂。
暗い海。
見覚えが。
あるも何も。
「…………」
ここ。
俺が。
魚になって。
目を覚ました辺りじゃねえか。
「最初から危険地帯に住んでたの俺!?」
キンメダイが。
言った。
「僕もこの辺、落ち着きます」
「お前は深いところ好きだもんな!!」
「暗い方がよく見えます」
「俺もだよ!!」
ここにいる理由まで。
本命の条件に。
近づいていく。
*
キントキダイが。
すっ。
俺の後ろへ。
移動した。
「おい!!」
「何?」
「今の聞いただろ!!」
「聞いた」
「なんで俺の後ろに来る!?」
「警戒」
「盾だろ!!」
「違う」
「前出ろ!!」
「合理的じゃない」
「昨日から何一つ成長してねえ!!」
姉イトヨリが。
細い目のまま。
言った。
「あらあら〜」
「お姉さんも何とか言って!!」
「仲良しですね〜」
「命の危機なんだよ!!!」
*
上から。
イトヨリダイが。
戻ってきた。
「分かったっす」
「もう分かった!!」
「この辺、だいたい五十メートル」
「お姉ちゃんが知ってた!!」
イトヨリダイが。
姉を見る。
「おねぇ知ってたの?」
「はい〜」
「先に聞けばよかった」
「そうだよ!!」
「でも」
イトヨリダイが。
スマホを。
見せる。
「もうちょい分かったっす」
「何?」
画面には。
海の。
地図。
数字。
線。
「四十」
すっ。
「五十」
すっ。
「六十」
「うん」
「この辺、深くなってるっすね」
「…………」
「逃げるなら、場所変えた方がよさそう」
「…………」
キントキダイが。
言った。
「私もそう思ってた」
「今初めて聞いた顔してただろ!!」
「想定内」
「俺の後ろに逃げたくせに!!」
*
俺は。
サバを見る。
「他に何か聞いた?」
「聞いた」
「何?」
「根の近く」
「…………」
「赤い魚がいるところ」
「…………」
俺。
赤い。
キントキダイ。
赤い。
キンメダイ。
赤い。
イトヨリ。
赤い。
姉イトヨリ。
「赤い魚、多すぎんだよ!!!」
キンメダイが。
自分を見る。
「僕も赤いですね」
「お前も!!」
イトヨリダイが。
言った。
「あーしもっすね」
「お前も!!」
姉イトヨリが。
自分を見る。
「あら〜」
「お姉さんも!!」
「あらあら〜」
「赤いことに今気づいたみたいな反応すんな!!」
*
サバが。
続ける。
「あと」
「まだある?」
「目が大きいって」
「…………」
全員が。
俺を見る。
「待て」
キンメダイが。
俺を見る。
イトヨリダイが。
俺を見る。
姉イトヨリが。
俺を見る。
キントキダイが。
俺の後ろから。
俺を見る。
「待て待て待て」
キンメダイが。
言った。
「チカメさん」
「何?」
「目、大きいですね」
「知ってるよ!!」
イトヨリダイが。
スマホを。
俺に向ける。
「かなり」
「撮るな!!」
姉イトヨリが。
にこにこ。
俺を見る。
「昨日も思いましたけど〜」
「言わなくていい!!」
「立派なお目々ですね〜」
「褒められてる場合じゃねえ!!」
*
キントキダイが。
俺の後ろから。
言った。
「チカメ」
「何?」
「本命」
「うん」
「チカメじゃない?」
「…………」
「赤い」
「うん」
「目が大きい」
「うん」
「五十メートル」
「うん」
「珍しい」
「…………」
「かなり一致してる」
「…………」
俺は。
キントキダイを見る。
「お前」
「何?」
「ちょっと安心してない?」
「してない」
「前に出てきてるぞ」
「…………」
見ると。
さっきまで。
俺の後ろにいた。
キントキダイが。
いつの間にか。
俺の横にいる。
「自分じゃないと思った瞬間、出てきたな!?」
「状況を整理しただけ」
「お前えええええ!!!」
*
「でも」
サバが。
言った。
「まだある」
「何!?」
「人間が言ってた」
サバは。
少し。
考えて。
その言葉を。
思い出す。
「キントキダイじゃない方」
「…………」
「…………」
キントキダイが。
俺を見る。
俺が。
キントキダイを見る。
キンメダイが。
言った。
「じゃあ」
イトヨリダイが。
言った。
「チカメさんっすね」
姉イトヨリが。
言った。
「あら〜」
キントキダイが。
言った。
「チカメだな」
「…………」
俺は。
止まった。
「…………」
「俺じゃねえかあああああああ!!!」
*
キントキダイが。
俺の前へ。
出た。
「大丈夫」
「急に余裕出すな!!」
「私が守る」
「さっきまで俺を盾にしてただろ!!」
「状況が変わった」
「自分が本命じゃなくなっただけだろ!!」
「冷静な判断だ」
「どこがだよ!!」
*
キンメダイが。
俺の横へ。
来る。
「僕もいますよ」
「キンメ……」
「エビもあります」
「…………」
「食べます?」
「なんで最後の晩餐みたいになってんだよ!!!」
キンメダイが。
エビを見る。
「半分ずつでも」
「お前も食う気じゃねえか!!」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
つつく。
「じゃあ」
「何?」
「チカメさんが狙われてるってことで」
「うん」
「調査終了っすね」
「終わらせるな!!!」
「本命分かったんで」
「俺の命の問題が始まったんだよ!!」
「あー」
イトヨリダイが。
あくびをする。
「じゃ、次は避難場所を調査するっす」
「頼む!!」
「その前に」
「何!?」
スマホを。
見せてくる。
「あーし、これも飲んでみたいんすよね」
「今度は何だよ!!」
「抹茶フラペチーノ」
「フラペチーノから離れろ!!!」
姉イトヨリが。
画面を。
覗く。
「あら〜」
「おねぇも飲む?」
「美味しそうですね〜」
「姉妹でスタバ見てる場合じゃねえええええ!!!」
*
その時。
遠く。
海面の方から。
小さな。
音がした。
俺は。
見上げる。
船。
まだ。
見えない。
でも。
明日。
ここへ。
人間が来る。
俺を。
狙って。
針を。
落とす。
「…………」
魚になって。
初めて。
思った。
釣り人に。
狙われる魚って。
こんな気持ちなのか。
キントキダイが。
俺の横で。
言った。
「大丈夫」
「何が?」
「私は冷静だから」
「それが一番不安なんだよ」
上から。
小さな海藻が。
落ちてきた。
「来た!!」
キントキダイが。
俺を置いて。
逃げた。
「お前ええええええ!!!」
次回。
『本命にも拒否権をください』




