第四十七話 魚にも情報網は必要です
「明日来る」
サバが。
そう言った。
「…………」
俺は。
キントキダイを見る。
キントキダイも。
俺を見る。
「どっちだと思う?」
「何が?」
「俺とお前だよ!!」
「まだ気にしてるの?」
「お前も当事者だろ!!」
キントキダイが。
少し。
考える。
「まあ」
「うん」
「チカメじゃない?」
「なんで!?」
「珍しいし」
「…………」
それは。
ちょっと。
ありそう。
「あと目が大きい」
「関係ある!?」
「目立つから」
「魚を見た目で選ぶな!!」
キントキダイは。
冷静だった。
少なくとも。
本人は。
そのつもりらしい。
*
キンメダイが。
言った。
「僕はキントキダイさんだと思います」
「…………」
キントキダイが。
止まった。
「どうして?」
「名前です」
「名前?」
「僕が人間なら、キントキって聞いたらキントキダイさんだと思います」
「…………」
キントキダイが。
すっ。
俺の後ろへ。
移動した。
「おい」
「何?」
「なんで俺の後ろに来た?」
「来てない」
「いるだろ!!」
「位置を変えただけ」
「何のために!?」
「周囲を警戒しやすいから」
「俺を盾にしてるだけだろ!!」
「違う」
「じゃ前出ろよ」
「それは合理的じゃない」
「怖くなってんじゃねえか!!」
「怖くない」
「声ちょっと小さくなってるぞ!!」
*
イトヨリダイが。
スマホを。
見ながら。
言った。
「どっちでもよくないすか?」
「よくねえよ!!」
「釣られなきゃいいんでしょ?」
「それができるなら苦労しねえよ!」
「逃げれば?」
「どこに!?」
「遠く」
「雑!!」
イトヨリダイが。
あくびをする。
「じゃ、明日だけ遠く行けばいいじゃないすか」
「…………」
俺は。
止まった。
キンメダイも。
止まった。
キントキダイも。
俺の後ろで。
止まった。
「…………」
「それだ」
「今まで何を悩んでたんすか?」
「言うな!!!」
*
だが。
問題がある。
「どこまで逃げればいい?」
「知らんす」
「人間がどこで釣るか分からないからな」
「サバに聞けば?」
「…………」
俺たちは。
サバを見る。
サバが。
少し。
胸を張った。
「聞いてくる?」
「今から!?」
「うん」
「また海面すれすれまで行くの?」
「うん」
「船の近くで?」
「うん」
「人間の話を聞く?」
「うん」
「完全に盗聴じゃねえか!!」
「聞こえるだけ」
「自分から聞こえる場所まで行ってんだよ!!」
サバが。
泳ぎ出そうとする。
俺は。
止めた。
「待て待て」
「何?」
「今日はもういい」
「なんで?」
「お前、昨日から泳ぎすぎだろ」
「平気」
「平気でも休め!!」
「魚なのに?」
「魚にも労働基準は必要だ!!」
*
イトヨリダイが。
顔を上げる。
「労働?」
「うん」
「サバ、仕事なんすか?」
「…………」
サバが。
俺を見る。
俺も。
サバを見る。
「仕事なの?」
「知らない」
「俺も知らん」
イトヨリダイが。
サバを見る。
「じゃあ報酬は?」
「ない」
「…………」
「あー」
「何だよ」
「ブラックっすね」
「俺が!?」
「チカメ様のために泳いでるんでしょ?」
「…………」
俺は。
サバを見る。
サバが。
頷く。
「チカメ様が知りたいって言ったから」
「待て!!」
嫌な。
匂いがする。
「俺は頼んでないぞ!!」
「情報いるって言った」
「言ったけど!!」
イトヨリダイが。
言った。
「それ、だいたい頼んでるっすよ」
「違う!! もっとこう、雑談の中で!!」
「ブラックな人がよく言いそうっすね」
「やめろ!!!」
*
キンメダイが。
言った。
「僕、お礼した方がいいと思います」
「ほら」
イトヨリダイが。
言う。
「キンメは何をあげる?」
「僕ならエビをあげます」
「お前、エビ持ってないだろ」
「僕が捕ります」
「そして食うだろ」
「…………」
「食うんだな?」
「僕、一匹くらいなら我慢できます」
「何匹捕るつもりだよ!!」
「四匹くらい」
「三匹食うじゃねえか!!」
「僕が捕ったので」
「その理屈また出てきた!!」
*
キントキダイが。
俺の後ろから。
言った。
「情報と餌を交換すればいいんじゃない?」
「…………」
俺は。
止まった。
イトヨリダイも。
スマホから。
顔を上げた。
サバも。
止まった。
「情報と」
「餌?」
「そう」
キントキダイが。
前へ。
少しだけ。
出てきた。
「情報を持ってきた魚に、餌を渡す」
「…………」
「そうすれば継続的に情報が集まる」
「…………」
「合理的」
得意げだ。
本人は。
完全に。
クールな参謀のつもりだ。
そして。
俺には。
分かる。
嫌な。
匂いが。
強くなった。
前にも。
こういうことが。
あった。
誰かが。
ちょっと。
便利なことを。
言う。
みんなが。
それに。
頷く。
そして。
気づいた時には。
制度になる。
「やめよう」
「どうして?」
「絶対やめよう」
「合理的なのに」
「合理的だからだよ!!」
*
その時。
上から。
黒いものが。
落ちてきた。
「来た!!」
キントキダイが。
ものすごい勢いで。
逃げた。
「…………」
ひら。
ひら。
俺の前を。
海藻が。
落ちていく。
「海藻だよ!!!」
遠くで。
キントキダイが。
止まった。
ゆっくり。
戻ってくる。
「…………」
「何?」
「確認した」
「何を!?」
「危険性」
「真っ先に逃げただけだろ!!」
「結果、安全だった」
「お前の分析、一回逃げてから始まるの!?」
「慎重なの」
「ドジをクールで包むな!!!」
*
イトヨリダイが。
言った。
「でも、あーしも情報持ってるっすよ」
「お前まで参加するな!」
「ブログ」
「知ってる」
「天気」
「見られるの?」
「電波あれば」
「風」
「…………」
「波」
「…………」
「釣果」
「…………」
「店」
「店はいらない」
「キャラメルフラペチーノ」
「もっといらない!!」
キンメダイが。
顔を上げる。
「僕は欲しいです」
「お前は飲み物の話になると入ってくるな!!」
「僕、甘いもの好きだと思います」
「まだ飲んだことないだろ!!」
「でも僕、エビも好きです」
「何の根拠にもなってねえよ!!」
*
その時。
「あらあら〜」
姉イトヨリが。
ゆっくり。
泳いできた。
「まだ皆さんいたんですね〜」
「おねぇ」
「はい〜?」
妹イトヨリが。
聞いた。
「情報って餌と交換した方がいいと思う?」
「何の情報ですか〜?」
「人間がどこで釣りするかとか」
「あら〜」
姉イトヨリが。
細い目のまま。
少し。
考える。
「それなら〜」
「うん」
「みんなで教え合えばいいんじゃないですか〜?」
「…………」
俺は。
固まった。
「お姉さん」
「はい〜?」
「今、一番危ないこと言った」
「あら〜?」
「それやると組織ができるんだよ!!」
「便利そうですね〜」
「便利だから困ってんだよ!!!」
姉イトヨリが。
にこにこ。
している。
「皆さんで助け合うの、素敵ですよ〜」
「その善意から制度が生まれるんだよ!!」
「あらあら〜」
「その顔で行政を作らないで!!!」
*
サバが。
言った。
「じゃあ俺」
「何?」
「人間の話、聞いてくる」
イトヨリダイが。
言った。
「あーし、ネット見るっす」
キンメダイが。
言った。
「僕はエビを捕ります」
「食うなよ」
「僕、頑張ります」
「食わないって言え!!」
キントキダイが。
言った。
「私は周囲を警戒する」
「お前も何かするの!?」
「当然」
「どこで?」
「ここ」
「なんで俺の後ろなんだよ!!」
「ここが一番全体を見渡せる」
「俺の体で半分見えてねえだろ!!」
「…………」
キントキダイが。
反対側へ。
移動した。
「そっちじゃねえ!! 前に出ろ!!」
「私は後方警戒担当だから」
「今決めただろ!!」
*
姉イトヨリが。
細い目のまま。
言った。
「皆さん、仲良しですね〜」
「今それ!?」
「楽しそう〜」
「明日命狙われてんだよ!!」
「あらあら〜」
「その『あらあら〜』で全部平和に見えるのすごいな!!」
*
こうして。
サバは。
海面へ。
イトヨリは。
スマホへ。
キンメダイは。
エビを探しに。
キントキダイは。
俺の後ろへ。
「お前は何もしてねえじゃん!!」
「警戒してる」
「俺を盾にして!?」
「違う」
その時。
また。
何かが。
上から。
落ちてきた。
キントキダイが。
びくっ。
とした。
「…………」
今度は。
小さな。
海藻。
キントキダイは。
動かなかった。
「…………」
「成長したな」
「最初から分かってた」
「嘘つけ!!」
そして。
俺は。
気づいた。
「…………」
これ。
もう。
情報網じゃないか。
誰も。
作ろうとは。
言っていない。
責任者も。
いない。
規則も。
ない。
なのに。
サバは現場。
イトヨリはネット。
キンメは餌。
キントキダイは。
「…………」
俺の後ろ。
「お前だけ役に立ってねえ!!」
「失礼ね」
「クールな顔して言うな!!」
また。
勝手に。
何かが。
でき始めている。
「頼むから」
俺は。
呟いた。
「ただの魚でいてくれ……」
遠くから。
キンメダイの。
声がした。
「エビいましたー!」
「食うなよー!!」
「僕、まだ食べてません!」
「まだって言ったな!?」
次回。
『本命の場所が分かりました』




