第四十四話 釣果情報
「なんで魚がスマホ見てんだよ!!!」
イトヨリダイが。
ようやく。
画面から目を離した。
「スマホだからっす」
「答えになってねえよ!!」
「じゃあ何ならいいんすか?」
「何ならって何!?」
「貝とか?」
「そういう問題じゃねえ!!」
サバが。
横から言った。
「この子、詳しいよ」
「詳しい以前に聞きたいことが増えたんだけど!!」
*
淡い赤色の体。
黄色い線。
尾びれから。
長く伸びた。
黄色い糸。
イトヨリダイ。
メス。
たぶん。
俺たちより。
少し若い。
そんなイトヨリダイが。
岩の上に置いた。
スマートフォンを。
普通に。
操作している。
透明な。
防水ケース。
首から下げるためなのか。
長いストラップまで付いている。
「それ、誰の?」
「知らんす」
「知らないの!?」
「夏に流れてきたんで」
「どこから?」
「海水浴場の方」
「落とし物じゃねえか!!」
「そうなんすか?」
「どう見てもそうだよ!!」
イトヨリダイが。
スマホを見る。
「でも誰も取りに来ないんで」
「海底まで取りに来られねえんだよ!!」
「あー」
「今納得したの!?」
「人間、不便っすね」
「魚に言われたくねえよ!!」
*
イトヨリダイが。
鼻先で。
画面を。
すっ。
動かした。
「…………」
俺は。
それを見る。
「普通に使えてんな」
「押せば動くっすよ」
「そこまで辿り着いたのがすげえんだよ」
「暇だったんで」
「暇で文明に到達するな!!」
イトヨリダイが。
あくびをした。
本当に。
暇だったらしい。
キンメダイが。
横から。
画面を覗く。
「文字も読めるんですか?」
「ちょっと」
「誰に教わったんですか?」
「チャッピー」
「…………」
俺は。
止まった。
「誰?」
イトヨリダイが。
俺を見る。
「チャッピー知らないんすか?」
「知らねえよ!!」
「ChatGPTっす」
「ChatGPT!?」
「分かんない文字とか聞くと、教えてくれるんで」
「ChatGPT、人類以外にまで普及してんじゃねえよ!!」
「便利っすよ」
イトヨリダイが。
あくびをした。
*
俺は。
本題を。
思い出した。
「そうじゃない!」
「はい?」
「キントキ!」
「あー」
「人間がキントキ狙ってるらしいんだよ!」
「そうっすね」
「知ってんの!?」
「昨日見たんで」
「昨日!?」
後ろで。
サバが。
止まった。
「昨日?」
「はい」
「俺」
「うん」
「今日、ここまで泳いで知らせに来た」
「おつっす」
「…………」
サバが。
スマホを見る。
イトヨリダイを見る。
もう一度。
スマホを見る。
「これがあれば」
「うん」
「俺、泳いで情報運ばなくていい?」
「別にいいんじゃないすか?」
「…………」
サバが。
静かに。
向きを変えた。
「待てサバ!!」
「もう帰る」
「落ち込むな!!」
「昨日からずっと泳いでた」
「ごめん!!」
「イトヨリは?」
「寝てたっす」
「言うな!!!」
サバは。
ゆっくり。
泳いでいった。
「サバあああああ!!!」
海の新聞が。
インターネットに。
負けた。
*
「で!」
俺は。
イトヨリダイに。
詰め寄った。
「何キントキなんだ!?」
「近いっす」
「ごめん」
少し下がる。
イトヨリダイが。
画面を。
何度か。
動かした。
「これっすね」
「何?」
「川奈のボート屋のブログ」
「…………」
俺は。
止まった。
「ボート屋?」
「はい」
「川奈の?」
「はい」
「ブログ?」
「はい」
「なんで魚が川奈のボート屋のブログ読んでんだよ!!」
「釣りに来る人のこと書いてあるんで」
「…………」
「見ないんすか?」
「普通の魚は見ねえんだよ!!」
イトヨリダイが。
また。
あくびをした。
「危ないのに」
「…………」
それは。
そう。
*
「昨日のやつ」
イトヨリダイが。
画面を。
開いた。
「これっす」
俺と。
キントキダイが。
寄る。
キンメダイも。
寄る。
「近いっす」
三匹で。
少し下がる。
画面には。
文章。
写真。
昨日。
人間が。
釣った魚。
ウスバハギ。
ミノカサゴ。
ホウボウ。
アヤメカサゴ。
ほかにも。
何匹か。
陸の上に。
並べられていた。
「…………」
キントキダイが。
言った。
「死体じゃん」
「そうっすね」
「軽っ!!」
イトヨリダイが。
画面を。
すっ。
動かす。
「こっち一昨日」
また。
魚が。
並んでいる。
「死体じゃん!!」
「そうっすね」
すっ。
「三日前」
「死体!!」
「はい」
すっ。
「四日前」
「もういい!!」
「まだあるっすよ」
「知ってるよ!! ブログだからな!!」
*
人間だった頃。
俺も。
釣果写真なんて。
何度も見た。
今日。
これだけ釣れました。
大漁。
いいサイズ。
楽しそう。
普通の。
写真だった。
でも。
魚になって。
改めて見ると。
「…………」
「死体陳列サイトじゃねえか」
「釣果ブログっすよ」
「魚側から見ろ!!」
「見てるっすよ」
「お前が一番魚側なんだよ!!」
*
キンメダイが。
写真を。
じっと見る。
「これ、食べるんですか?」
「たぶんな」
「美味しそうですね」
「お前は見るな!!」
「なんで?」
「腹減るから!!」
キントキダイが。
一匹の魚を。
見た。
「これ」
「何?」
「見たことある」
「どれ!?」
「これ」
「知り合い!?」
「たまに見た」
「…………」
イトヨリダイも。
画面を。
覗く。
「あー」
「お前も知ってる?」
「知ってるっす」
「マジで!?」
「この辺いた」
「…………」
イトヨリダイが。
あくびをした。
「最近見ないと思ったら」
画面を。
つつく。
「ここにいたんすね」
「死んでんだよ!!!」
「そうっすね」
「なんでそんなにあっけらかんとしてんだよ!!」
「魚って食われるじゃないすか」
「そうだけど!!」
「あーしも魚食うし」
「そうだけど!!」
「チカメさんも食うっしょ?」
「…………」
「じゃ同じじゃないすか」
「人間だった記憶が邪魔してんだよ!!」
*
イトヨリダイが。
画面を。
戻した。
「でも便利っすよ」
「この死体一覧が!?」
「釣果情報」
「呼び方変えただけだろ!!」
「どの魚が最近釣れてるとか」
すっ。
「何狙いの人が来てるとか」
すっ。
「どこが危なそうとか」
「…………」
俺は。
画面を見る。
人間が。
人間のために。
公開している。
釣果情報。
それを。
魚が。
読んでいる。
「人間、自分たちで全部教えてんじゃん」
「そうっすね」
「どこで誰が釣れたか」
「はい」
「何を狙ってるか」
「はい」
「次に何を狙うか」
「書いてあれば」
「…………」
イトヨリダイが。
あくびをした。
「楽っすよ」
「人間と魚で情報戦始まってんじゃねえか!!」
*
「それで!」
俺は。
画面を。
指した。
「何キントキ!?」
「あー」
イトヨリダイが。
昨日の記事を。
もう一度。
開く。
「本命はキントキ」
「そこは知ってる!!」
「今日は調査」
「知ってる!!」
「またすぐ来ます」
「全部知ってる!!」
「じゃ、何が知りたいんすか?」
「種類!!」
俺は。
自分を。
指す。
「チカメキントキ!」
次に。
隣を。
指す。
「キントキダイ!」
「どっちが本命!?」
「あー」
イトヨリダイが。
俺を見る。
キントキダイを見る。
画面を見る。
また。
俺を見る。
「…………」
「どう!?」
「書いてないっす」
「インターネット敗北!!!」
*
キントキダイが。
聞いた。
「他に調べられない?」
「んー」
イトヨリダイが。
スマホを。
つつく。
「圏外っす」
「海底だからな!!」
「ちょい待ち」
イトヨリダイが。
ストラップを。
口にくわえた。
そのまま。
上へ。
泳ぎ始めた。
「どこ行くの!?」
「電波」
少し上。
止まる。
画面を見る。
また。
上へ。
「一本」
「魚がアンテナ本数確認すんな!!」
さらに。
上。
「二本」
「基地局探す魚になるな!!」
*
しばらくして。
イトヨリダイが。
戻ってきた。
「ダメっすね」
「分かんない?」
「分かんない」
「くそ!!」
「まあ」
イトヨリダイが。
スマホを。
岩の上に置いた。
「そのうち分かるっすよ」
「どうやって?」
「釣れたら」
「…………」
「写真載るんで」
俺と。
キントキダイが。
止まった。
「どっちかが釣れたら」
「はい」
「何キントキだったか分かる?」
「そうっすね」
「持って帰られたら?」
「写真も分かりやすいっす」
「最悪の答え合わせだよ!!!」
*
イトヨリダイが。
また。
あくびをした。
「あーし、更新見とくっす」
「やめてくれ」
「なんで?」
「俺たちが更新内容になる可能性あるからだよ!!」
「あー」
俺と。
キントキダイを。
見る。
「そっか」
「今気づいたの!?」
「じゃあ」
スマホを。
一回。
つつく。
「キントキ出たら教えるっす」
「出る前に教えてくれ!!!」
次回。
『更新されないでください』




