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第四十二話 専門性を持つな。もっと適当に海と接してくれ。



「ハゲ針って何ですか?」



キンメダイが。


聞いた。



「カワハギを――」



俺は。


上から降りてきたものを見て。


止まった。



「…………」



カゴ。



その下から。



何本もの糸が。



放射状に伸びている。



その先に。



針。



針。



針。



針。



針。



針。



「…………」



キントキダイが。


聞いた。



「これ、針?」



「…………」



「針なの?」



「一応」



「いっぱいあるけど」



「そうだな」



「いろんな方向向いてるけど」



「そうだな」



「囲まれてるけど」



「そうだな」



「もはや兵器じゃん」



「俺も今そう思ってた!!」



キンメダイが。


仕掛けの周りを。


少し離れて泳いだ。



「どれを避ければいいんですか?」



「全部」



「…………」



「針じゃないじゃん」



「針だよ!!」



「罠じゃん」



「それは否定できない!!」



遠くの岩陰から。



カワハギが叫んだ。



「だから逃げろって言っただろ!!」



*



「で」



キンメダイが。



もう一度。



仕掛けを見る。



「これがハゲ針?」



「そう」



「誰を釣るの?」



「カワハギ」



「…………」



全員。



カワハギを見る。



「見るな!!」



キントキダイが。



仕掛けを見る。



カワハギを見る。



もう一度。



仕掛けを見る。



「一匹にこれ?」



「そう」



「人間、カワハギに何されたの?」



「餌を盗まれた」



「…………」



「それだけ?」



「何度も」



「…………」



キンメダイが。



小さく言った。



「怒ってるじゃん」



「たぶんな」



*



仕掛けが。



海底近くまで。



降りてきた。



カワハギは。



出てこない。



さっきまで。



針の横から。



平気で餌を盗んでいた魚が。



岩陰から。



顔だけ出している。



「本当に怖いんだ」



キントキダイが言った。



「そりゃ怖いだろ」



「でも」



キンメダイが。



首を傾げた。



「どうして人間は、カワハギさん専用のものを作ったんですか?」



「釣りたいから」



「そこまでして?」



「そこまでして」



「なんで?」



「…………」



なんで。



だろう。



人間だった頃の俺なら。



何の疑問も持たなかった。



カワハギを釣りたい。



なら。



カワハギ用の針。



カワハギ用の仕掛け。



カワハギ用の竿。



カワハギ用の釣り方。



口が小さい。



餌取りがうまい。



普通にやれば。



餌だけ盗られる。



だから。



考える。



試す。



失敗する。



また考える。



そして。



専用品を作る。



「…………」



キンメダイが。



岩陰のカワハギを見る。



「人間、カワハギさんのこと、すごく考えてるんですね」



「そういう言い方するな!!」



カワハギが。



岩陰から叫んだ。



俺は。



少し考えた。



「愛されてるな」



「殺しに来てるだろ!!」



「愛が重いですね」



「重さの問題じゃない!!」



*



キントキダイが。



俺を見た。



「僕用もあるの?」



「ある」



「…………」



少し。



下がった。



キンメダイも。



聞いた。



「僕用は?」



「ある」



「…………」



こっちも。



少し。



下がった。



二匹が。



俺を見る。



「チカメさん用は?」



「…………」



チカメキントキ。



専用。



俺は。



人間だった頃の記憶を。



探した。



「たぶん」



「うん」



「ない」



「…………」



二匹が。



俺を見る。



「いいなあ」



「初めてこの魚で得した!!」



*



嬉しい。



本当に。



嬉しい。



マダイ。



専用がある。



キンメダイ。



ある。



カワハギ。



今。



目の前に。



兵器みたいなのがある。



アジ。



イサキ。



タチウオ。



人間は。



魚を釣るために。



魚ごとに。



道具を作る。



魚が。



何を食べるか。



どこにいるか。



どの深さにいるか。



どう動くか。



どんな針なら。



掛かるのか。



調べる。



試す。



失敗する。



また。



調べる。



「…………」



怖い。



人間。



魚に。



詳しすぎる。



「専門性を持つな」



「?」



キンメダイが。



俺を見る。



俺は。



海面に向かって。



言った。



「もっと適当に海と接してくれ」



「誰に言ってるんですか?」



「人間」



人間だった頃。



俺も。



その人間だった。



そこは。



黙っておいた。



*



キントキダイが。



言った。



「でもチカメは安全なんだ」



「まあな」



「専用ないから」



「そう」



「狙われない?」



「ほとんどな」



「人気ないんだ」



「言い方!!」



キンメダイも。



頷いた。



「名前もあまり知られてませんし」



「お前まで!!」



「専用もない」



「うん」



「人気もない」



「二回言うな!!」



「値段も――」



「そこは高い!!」



大事だ。



魂に関わる。



*



その時。



ソウダガツオが。



泳いできた。



「チカメー!」



「何?」



「聞いたよ!」



「何を?」



「人間!」



「また?」



嫌な予感がした。



ソウダガツオは。



嬉しそうに。



言った。



「キントキを探してるって!」



「…………」



俺と。



キントキダイが。



同時に。



止まった。



キンメダイが。



俺たちを見る。



「キントキ」



「…………」



「二匹いますね」



「そうなんだよ」



俺が。



チカメキントキ。



こいつが。



キントキダイ。



「どっち?」



キンメダイが聞いた。



「俺が聞きてえよ!!」



*



ソウダガツオが。



続けた。



「本命はキントキだって!」



「本命!?」



「うん!」



「何キントキ!?」



「キントキ!」



「種類まで聞いてこいよ!!」



「人間、そこまで言ってなかった!」



俺は。



キントキダイを見る。



キントキダイも。



俺を見る。



「…………」



「…………」



キンメダイが。



二匹を。



見比べる。



「どっちが本命なんでしょうね」



「知らねえよ!!」



「僕じゃないことだけは分かります」



「お前だけ安全圏から喋るな!!」



*



岩陰から。



カワハギが。



顔を出した。



「キントキ専用?」



「まだ分かんねえよ!!」



「仕掛け作られる?」



「やめろ!!」



「人気出た?」



「やめろって!!」



「愛されてるね」



「その愛いらねえよ!!!」



数分前まで。



専用がないと。



喜んでいた。



俺の平穏は。



短かった。



ソウダガツオが。



言った。



「また来るって!」



「…………」



「調査だって!」



「調査!?」



俺は。



海面を。



見上げた。



調査。



人間が。



魚について。



詳しくなるための。



嫌な言葉。



「専門性を持つなって言ったばっかりだろおおおおお!!!」



岩陰から。



カワハギが。



静かに言った。



「次は専用だね」



「縁起でもねえこと言うな!!!」



次回。


『本命はキントキ』

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