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第三十三話 僕が捕ったので僕のです




「未納者が宴会始めるなあああああ!!!」



キンメダイは、


満足そうだった。



さっきまで口の中にいたエビは、


もう一匹もいない。



四匹。



全部食べた。



「なんで食うんだよ!!」



キンメダイが首を傾げた。



「僕が捕ったので」



「うん」



「僕のですよね?」



「…………」



強い。



ものすごく強い理屈だった。



「そうだけど!」



「じゃあ食べてもいいですよね?」



「そうだけど!!」



「美味しかったです」



「そうだけどおおおお!!!」



勝てない。



所有権では完全に負けている。



キントキダイが言った。



「チカメが勝手に税金にしようとしてただけだよね」



「お前まで正論で殴るな!!」



そうだった。



キンメダイは、


俺たちのためにエビを捕まえたわけじゃない。



俺が勝手に。



一匹七粒。



四匹二十八粒。



全員分払える。



そう計算しただけだ。



「…………」



人の金を勝手に当てにするな。



人じゃないけど。



「ごめん」



俺は謝った。



「いえ」



キンメダイは、


あっさり答えた。



「また捕ればいいですし」



「え?」



「まだ食べたいので」



「納税の話どこ行った!?」



キンメダイは、


もうエビを探していた。



こいつ。



思ったより食う。



*



また。



ぱく。



一匹。



ぱく。



二匹。



ぱく。



三匹。



「うまっ」



俺は見ていた。



キンメダイ。



めちゃくちゃ上手い。



エビが逃げる前に、


すっと近づいて捕まえる。



俺みたいに追い回さない。



「なんでそんな捕れるの?」



「普通ですよ」



「その普通ができないんだよ」



「チカメさん、追いすぎなんじゃないですか?」



「追わないと逃げるだろ」



「逃げる前に食べればいいんです」



「できる側の説明だ!!」



キントキダイもやってみる。



エビに近づく。



ぱく。



食べた。



「お前は納付しろ!!」



「捕まえたよ」


「その後だよ!!」



二匹とも。



捕食と納税の区別がついていない。



いや。



魚としては、


俺の方がおかしいのかもしれない。



餌を捕まえる。



食べる。



普通だ。



捕まえた餌を、


税金として別の魚へ渡す。



こっちがおかしい。



「…………」



魚になってから。



普通と異常の位置が、


ずっと入れ替わっている。



「チカメさん」



キンメダイが呼んだ。



「何?」



「取れました」



口の中に。



エビが三匹。



「今度は食うなよ」



「どうしようかな」



「税金だぞ!!」



「僕のです」



「分かってるよ!!」



所有権が強い。



「じゃあ頼む」



俺は頭を下げた。



「二匹だけ納付に使わせて」



「二匹?」



「お前の残り十四粒」



一匹七粒なら。



二匹で終わる。



「一匹余るだろ?」



「はい」



「それは食っていい」



キンメダイは少し考えた。



「僕が三匹捕ったんですよね?」



「そう」



「そのうち二匹を渡すんですよね?」



「そう」



「僕は一匹しか食べられない?」



「そう」



「嫌です」



「納税交渉始まった!!」



「二匹食べたいです」



「じゃあまた捕れよ!!」



「それならいいです」



なんなんだ。



俺は今。



キンメダイと。



税金にするエビと、


食べるエビの配分を交渉している。



「じゃあ二匹納付」


「はい」



「一匹食べる」


「はい」



「あとでもう一匹捕って食べる」


「はい」



「これでいい?」



「いいですよ」



「契約成立!!」



キントキダイが言った。



「僕もそれがいい」



「お前はまず捕まえたら飲み込むのをやめろ!!」



*



マダイのところへ戻った。



キンメダイが、


エビ二匹を差し出す。



「現物納付をお願いします」



マダイが確認する。



「状態良好ですね」



「はい」



「二匹で十四粒相当としてお預かりいたします」



「はい」



「これにより、キンメダイ様の未納分は――」



少し間。



「ゼロとなりました」



「やった」



キンメダイは嬉しそうだった。



「完納!?」



「はい」



「キンメが最初!?」



二十一粒。



一番食べていたやつが。



最初に終わった。



俺。



残り二粒。



キントキダイ。



九粒。



「納税って能力差出るんだな……」



「現物納付ですので」



マダイが答えた。



また正論だった。



キンメダイが言った。



「じゃあ僕、もう食べていいんですよね?」



「はい」



「やった」



「納税後の自由を満喫するな!!」



キンメダイは、


エビを探しに行った。



軽い。



完納した魚は、


泳ぎまで軽く見える。



「…………」



腹立つな。



「俺も終わらせる」



あと二粒。



状態のいいエビなら、


一匹で余裕だ。



むしろ七粒相当。



「一匹納めたら、お釣りは?」



マダイに聞いた。



「ございません」



「ないの!?」



「現物納付ですので」



「五粒分損するじゃん!!」



「別の小さな現物をご用意いただいても結構です」



「細かくなる!!」



三粒を見逃せと言っていた俺が。



今。



五粒分損することを気にしている。



制度とは恐ろしい。



「じゃあ小さいの探す」



俺は岩場へ向かった。



キントキダイもついてくる。



「僕も」



「お前は九粒だからな」



「うん」



「今度は食うなよ」



「分かった」



信用できない。



*



小さなエビ。



いた。



俺は。



追わない。



キンメダイのやり方。



ゆっくり。



近づく。



逃げる前に。



ぱく。



「!!」



捕れた。



しかも。



潰れていない。



「できた!!」



口の中にエビがいるので、



「んんん!!」



しか言えなかった。



でも嬉しい。



俺も。



魚になってきた。



キントキダイも、


隣で何かを捕まえた。



「取れた?」



俺は口が使えない。



キントキダイの口には。



小さなエビ。



生きている。



「おお!」



「んん!」



二匹で。



エビを咥えたまま。



頷いた。



初めて。



まともに納税できる。



その瞬間だった。



ぱら。



「…………」



上から。



赤いものが落ちてきた。



ぱらぱら。



「…………」



見覚えがある。



ありすぎる。



オキアミ。



コマセ。



「…………」



俺。



口にエビ。



目の前にオキアミ。



キントキダイ。



口にエビ。



目の前にオキアミ。



二匹とも。



動かなかった。



ぱらぱら。



また降ってくる。



「…………」



上を見る。



海面の向こう。



船影。



見覚えのある船。



「…………」



教祖。



来た。



よりによって。



今。



ぱらぱら。



福音が降る。



キントキダイが、


俺を見る。



俺も見る。



「んん」



何を言っているか分からない。



でも。



たぶん。



同じことを考えている。



食べるな。



絶対に。



食べるな。



今食べたら。



また増える。



ぱら。



一粒。



俺の目の前を落ちる。



「…………」



美味そう。



ぱら。



もう一粒。



「…………」



口には。



納税用のエビ。



目の前には。



無料で降ってくるオキアミ。



「…………」



人間だった頃。



俺は。



こんなものを魚に撒いていたのか。



そりゃ食うわ。



ぱら。



一粒が。



俺の鼻先を通った。



「…………」



俺は耐えた。



耐えた。



耐えた。



その横で。



ごくん。



音がした。



「…………」



キントキダイの口から。



エビが消えていた。



そして。



目の前のオキアミも。



消えていた。



「んんんんんんんんん!!!」



キントキダイが言った。



「美味しい」



「んんんんんんんんんんんん!!!!!」



こいつ。



納税用のエビを食った上に。



新しくコマセまで食った。



マダイの声が。



遠くから聞こえた。



「一粒追加でーす」



「んんんんんんんんんんんんんん!!!!!」



キントキダイ。



未納。



九粒から。



十粒へ。



減らすどころか。



増えた。



次回。


『払っている途中で食べないでください』

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