↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/156

第三十二話 野生の餌にも管轄があります




「制度を分ければいいと思うなあああああ!!!」



逃げた。



全力で逃げた。



後ろからマダイの声が聞こえる。



「ご説明だけでもー!」



「聞かない!!」



「制度の趣旨をー!」



「聞いたら対象になる気がする!!」



岩場を抜ける。



海藻を抜ける。



キンメダイとキントキダイもついてくる。



「チカメさん!」


「何!?」



「どこまで逃げるんですか!?」


「マダイが見えなくなるまで!!」



「でも納付が」


「今それ言うな!!」



泳いだ。



しばらく泳いだ。



ようやく。



マダイが見えなくなった。



「はあ……」



魚なので、


息は切れない。



でも気分は切れていた。



「もう嫌だ」



俺は岩の横に止まった。



「コマセ食べたら払え」


「はい」



「払えないなら働け」


「はい」



「働くために借りた道具にも金がかかる」


「はい」



「自分で餌を捕ったら別制度」



キントキダイが言った。



「それはまだ説明聞いてないよ」



「聞かないから!!」



正式名称なんて絶対聞かない。



名前を知った瞬間、


俺の第二の魚生に居座る。



そんな気がする。



「でも」



キンメダイが言った。



「結局、どうやって払うんですか?」



「…………」



そうだった。



逃げても。



三粒。



残っている。



しかも。



「僕は二十一粒です」



「僕は九粒」



増えた。



いや。



最初からあった。



現実を見ないようにしていただけだ。



「三十三粒……」



三匹で。



残り三十三粒。



「もう食わなきゃいいんじゃない?」



キントキダイが言った。



「今後はな」



「じゃあ解決」



「過去は消えねえんだよ!!」



税金の嫌なところだった。



*



俺たちは考えた。



どうすれば、


余計な制度に触れず。



大島にも行かず。



三十三粒分を払えるのか。



「現物納付」



キンメダイが言った。



「餌を渡す」



「そう」



「でも自分で捕まえた餌を食べると、何か別の制度が来る」



「食べなければいいんじゃない?」



「…………」



キントキダイだった。



「捕まえて、食べないで、そのまま渡せばいい」



「…………」



俺とキンメダイは、


キントキダイを見た。



「何?」



「お前たまにすげえ普通のこと言うな」



「いつも普通だよ」



それだ。



捕まえる。



食べない。



マダイへ渡す。



簡単だ。



「よし」



今度こそ。



俺たちは餌を探した。



*



岩陰。



小さなエビがいた。



俺は近づいた。



逃げる。



追う。



逃げる。



追う。



「待て!!」



逃げる。



「今度は食わないから!!」



もっと逃げた。



「安心材料にならないの!?」



当然だった。



捕まった後の予定が、


食事から納税に変わっただけだ。



エビから見れば、


どっちも迷惑だ。



なんとか追い込む。



口に入れる。



「…………」



食わない。



絶対に。



口の中で動く。



食わない。



美味そう。



食わない。



俺は必死で耐えた。



そこへ。



キンメダイが来た。



「チカメさん」



口が使えない。



「ん?」



「僕、取れました」



キンメダイの口にも、


小さなエビがいた。



「…………」



二匹。



いい。



順調だ。



キントキダイも来た。



口には何もない。



「お前は?」



言えないので、


目で聞いた。



キントキダイは言った。



「食べた」



「んんんんんん!!!」



「美味しかった」



「んんんんんんんん!!!」



口を開けたら、


俺のエビが逃げる。



怒れない。



「何?」



「んんん!!」



「喋れば?」



「んんんんん!!!」



キンメダイが言った。



「エビ逃げちゃいますよ」



分かってる。



それで喋れないんだよ。



キントキダイが首を傾げた。



「変なの」



腹が立った。



ものすごく腹が立った。



でも口を開けたら、


エビが逃げる。



「んんんんん!!!」



結局、


怒ることすらできなかった。



*



俺とキンメダイは、


エビを一匹ずつ咥えて戻った。



マダイは、


まだ同じ場所にいた。



「お戻りになりましたか」



俺はエビを差し出した。



「ありがとうございます」



ようやく口が自由になった。



「これで払える!?」



「確認いたします」



「正式名称は言うなよ」



「何のですか?」



「何でもない!!」



マダイが、


エビを見る。



俺を見る。



またエビを見る。



「こちらは、チカメキントキ様が捕獲されたものですね」



「そう」



「未摂食ですね」



「食ってない」



「では現物納付としてお預かりできます」



「やった!!」



初めて。



初めて制度に勝った。



「これで三粒分!?」



「一粒分です」



「…………」



「一粒?」



「はい」



「エビ一匹で?」



「はい」



「オキアミ一粒と同じ!?」



「厳密には異なりますが、今回は一単位として――」



「細かい説明はいらない!!」



あと二匹。



たった二匹だ。



いける。



「じゃあキンメのも!」



キンメダイが、


エビを差し出した。



マダイが確認する。



「ありがとうございます」



「僕の二十一粒から引かれますか?」



「はい」



「一粒?」



「いいえ」



「え?」



マダイが言った。



「こちらは七粒分として扱われます」



「…………」



俺は。



キンメダイのエビを見た。



自分のエビを見る。



同じように見える。



「なんで?」



「状態が良好ですので」



「状態!?」



「はい」



俺のエビを見る。



「こちらは捕獲時に一部損傷しております」



「…………」



よく見る。



俺のエビ。



ちょっと潰れている。



「口に入れたから……?」



「捕獲方法によるものかと」



キンメダイのエビ。



きれい。



元気。



俺のエビ。



ぐったり。



「納税にも品質あるの!?」



「現物ですので」



正論だった。



嫌な正論だった。



キンメダイが嬉しそうに言った。



「あと十四粒です」



「急に差を縮めやがった!!」



「チカメさんはあと二粒ですね」



「分かってるよ!!」



キントキダイが横から言った。



「僕は九粒」



「お前は何も払ってないからな!!」



「エビ食べたからね」



「それを誇るな!!」



*



もう一度。



餌探し。



今度は、


傷つけないように捕まえる。



「どうやったの?」



俺はキンメダイに聞いた。



「何がですか?」



「さっきのエビ」



「普通に捕まえました」



「その普通を教えて」



「近づいて」



「うん」



「ぱくって」



「参考にならねえ!!」



魚同士で、


捕食方法を教わる日が来るとは思わなかった。



俺はエビを探す。



いた。



近づく。



逃げる。



追う。



速い。



「なんで俺のだけ逃げるんだよ!!」



キンメダイが横から近づく。



ぱく。



捕まえた。



「…………」



俺は見た。



「何?」



キンメダイは、


エビを咥えたまま首を傾げた。



「お前、上手いな」



「そうですか?」



「もう一匹やってみて」



別のエビ。



キンメダイが近づく。



ぱく。



捕まえた。



「…………」



また。



きれい。



「もう一匹」



ぱく。



「もう一匹」



ぱく。



「もう一匹」



ぱく。



「…………」



俺は気づいた。



こいつ。



「餌捕るの、めちゃくちゃ上手くない?」



キンメダイが、


エビを咥えたまま言えずに困っている。



口の中。



一匹。



二匹。



三匹。



四匹。



「待て」



俺は数えた。



状態が良ければ。



一匹七粒分。



四匹。



二十八粒。



「…………」



キンメダイの未納。



十四粒。



キントキダイ。



九粒。



俺。



二粒。



合計。



二十五粒。



足りる。



「キンメ」



「ん?」



「お前」



俺は、


口いっぱいのエビを見た。



「俺たち全員分、払えるぞ」



「…………」



キンメダイの目が。



少しだけ。



細くなった。



嫌な予感がした。



エビを一匹、


ごくん。



「食うなああああああ!!!」



ごくん。



二匹目。



「待て待て待て!!」



ごくん。



三匹目。



「俺たちの税金んんんん!!!」



最後の一匹。



キンメダイは、


少し考えた。



俺を見る。



そして。



ごくん。



全部食べた。



「美味しかったです」



「お前ええええええええ!!!」



キントキダイが言った。



「僕も欲しい」



「未納者が宴会始めるなあああああ!!!」



その日。



俺は初めて知った。



キンメダイは。



思っていたより、



食欲に忠実だった。



次回。


『僕が捕ったので僕のです』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。