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第二十九話 伝言ゲームに納税記録を任せるな




「違あああああああああう!!!」



俺はサバを追いかけた。



「キントキダイじゃない!!」



サバが止まった。



「違うの?」


「違う!!」



「じゃあ何?」


「チカメキントキ!!」



「チカメキントキ」


「そう!」



サバが俺を見る。



「キントキダイ?」


「戻った!!」



なんでだ。



今、


正解を言っただろ。



「チ・カ・メ・キ・ン・ト・キ」



ゆっくり言う。



「チカメキントキ」


「そう」



「キンメダイではない?」


「違う」



「キントキダイでもない?」


「違う!!」



サバは頷いた。



「分かった」



「本当に?」


「うん」



「じゃあ俺は?」


「チカメキントキ」



「こいつは?」



キンメダイを指す。



「キンメダイ」



「こいつは?」



キントキダイを指す。



「キントキダイ」



完璧だった。



「できるじゃん!!」



俺は感動した。



第二の魚生で、


サバに名前を覚えてもらっただけで、


こんなに嬉しくなるとは思わなかった。



「じゃあ伝えて」


「何を?」



「最初から!?」



俺はもう一度説明した。



「俺たち三匹が」


「うん」


「伊東から大島まで」


「うん」


「ヤドカリ三匹、サザエ二個、海藻一束を運んだ」


「うん」



小さな貝二個は、


誰の荷物か分からないので除外した。



「これを相模湾コマセ機構に伝えて」


「相模湾……何?」



「相模湾コマセ機構」



「知らない」



「知らないの!?」



「僕サバだから」



「サバを免罪符にするな!!」



だが。



知らなくても、


どこかで誰かに伝えれば、


最終的には届くらしい。



恐ろしい仕組みだ。



「とにかく伊東の方へ行く魚に伝えて」


「分かった」



「絶対変えるなよ」


「変えないよ」



「チカメキントキ」


「チカメキントキ」



「三匹」


「三匹」



「ヤドカリ三」


「ヤドカリ三」



「サザエ二」


「サザエ二」



「海藻一」


「海藻一」



「完璧!!」



サバは泳ぎ出した。



俺は見送った。



「…………」



キンメダイが言った。



「大丈夫そうですね」



「ああ」



今度こそ大丈夫だ。



*



サバは泳いだ。



しばらくして。



伊東方面へ向かう、


イワシの群れに会った。



「ねえねえ」



「なに?」



「伝言」



「なに?」



サバは言った。



「チカメキントキたち三匹が、大島までヤドカリ三匹とサザエ二個と海藻一束を運んだって」



完璧だった。



「誰に伝えるの?」



「伊東の方」



「分かった」



サバは去った。



イワシたちは泳いだ。



しばらくして。



別の群れに会った。



「伊東行く?」



「行くよ」



「伝言お願い」



「いいよ」



「チカメキントキ三匹が、大島までヤドカリ三匹とサザエ二個と海藻一束運んだって」



増えた。



チカメキントキが、


三匹になった。



*



伝言は進んだ。



「チカメキントキ三匹が、大島にヤドカリ三匹とサザエ二個と海藻一束」



次へ。



「チカメキントキ三匹、大島。ヤドカリ三、サザエ二、海藻一」



次へ。



「大島でチカメキントキ三匹。ヤドカリ三、サザエ二、海藻一」



次へ。



「大島にチカメキントキ三匹いるって」



荷物が消えた。



次へ。



「大島にチカメキントキが三匹いる」



次へ。



「チカメキントキ、大島に三匹」



次へ。



「大島でチカメキントキが増えてる」



次へ。



「大島でチカメキントキが増えたらしい」



次へ。



「チカメ様、大島で増殖中」



誰だ。



様をつけたやつ。



*



その頃。



俺は何も知らず、


大島にいた。



「よし」



配達は終わった。



伝言も出した。



あとは伊東へ帰るだけだ。



「帰ろう」



キンメダイが言った。



「また泳ぐんですね」



「それしかないだろ」



キントキダイが、


俺の背中を見た。



「箱も返さないとね」



「…………」



忘れていた。



貝殻リュック。



三日以内。



延滞すると巻貝一個追加。



「帰るぞ!!」



急に目的が増えた。



納税確認。



容器返却。



そして。



できれば二度と配達しない。



「フエフキダイ!」



俺は振り返った。



フエフキダイは、


もうヤドカリを追いかけていた。



「伝言頼んだからな!!」



「分かったー!」



「俺の名前は!?」



「チカメキントキ!」



「よし!」



「キントキダイじゃない方!」



「余計な覚え方すんな!!」



俺たちは大島を離れた。



*



帰り。



行きより、


少し楽だった。



荷物がない。



背中の箱も空だ。



泳ぎながら、


キンメダイが言った。



「これで十五粒分、払ったんですよね」



「そのはず」



「僕は二十一粒」


「そう」



キントキダイが言った。



「僕は九粒」



「そう」



「配達一回で三匹分?」


「マダイはそう言ってた」



少し考える。



「じゃあさ」



キンメダイが言った。



「三匹で四十五粒分ですよね」



「うん」



「誰が何粒分働いたことになるんですか?」



「…………」



泳ぐのをやめた。



「何?」



「だって、チカメさんが箱を背負ってましたよね」



「うん」



「僕たちは一緒に泳いだだけです」



「…………」



キントキダイも止まった。



「確かに」



「お前ら今それ言う!?」



行きも帰りも、


俺が背負っている。



ヤドカリが逃げれば追った。



容器代も俺についた。



「でも三匹で役務納付って言われたよな?」


「言われたと思う」


「じゃあ大丈夫だろ」


「たぶん」



たぶん。



最近、


この言葉が多い。



「帰ったらマダイに確認しよう」



「そうですね」



「今度は全部聞く」



何粒分なのか。



三匹分なのか。



容器代はどうなるのか。



誰が得しているのか。



そして。



なぜ大島側は無料なのか。



聞きたいことが、


山ほどある。



「…………」



俺は思った。



これ。



税務署に電話する前の人間と、


同じ気持ちじゃないか。



「魚になった意味ねえな……」



「何が?」


「こっちの話」



俺たちは伊東へ向かった。



*



その頃。



俺たちより先に。



伝言は伊東へ到着していた。



「大島から情報でーす!」



一匹のソウダガツオが、


魚たちの間を泳いでいく。



「なになに?」



「チカメ様が大島で増殖したって!」



「増殖?」



「三匹になったらしい!」



ざわ。



ざわざわ。



「チカメ様が?」



「三匹?」



「分身?」



「大島で?」



「海上奉仕の結果?」



「違うんじゃない?」



「でもチカメ様だよ?」



「じゃあ何かあるよ」



勝手に。



何かがあることになった。



「大島に行けば増えるの?」



誰かが言った。



「チカメ様が三匹になったんでしょ?」



「そう聞いた」



「じゃあ増えるんじゃない?」



「大島ってすごいな」



「聖地?」



誰かが言った。



「聖地かも」



その言葉は。



すぐに。



別の魚へ伝わった。



*



俺たちはまだ、


伊東へ向かって泳いでいた。



何も知らずに。



「帰ったら寝たいな」



俺は言った。



キンメダイが頷いた。



「僕も」



キントキダイも言った。



「疲れた」



平和だった。



この時点では。



俺はまだ知らなかった。



俺が伊東へ戻る頃には。



大島が。



俺の聖地になっていることを。



次回。


『大島で三匹に増えたらしい』

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