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第二十八話 誰が得しているんですか




「言うなああああああああああ!!!」



大島の海に、


俺の声が響いた。



フエフキダイが、


ヤドカリを見ながら言った。



「食べていい?」


「ちょっと待て!!」



危ない。



もう完全に食事の顔になっている。



「まだ配達終わってないから!」


「届いたじゃん」


「俺の中で終わってない!!」



ヤドカリ三匹。


サザエ二個。


海藻一束。



伊東から大島まで、


俺たちが運んできた。



注文したフエフキダイは。



無料。



運んだ俺たちは。



税金を払うための労働。



しかも、


容器代まで払う。



「…………」



おかしい。



何かがおかしい。



いや。



最初から全部おかしい。



「誰が得してるんだ?」



キンメダイが言った。



「フエフキダイさんじゃない?」


「今のところ圧倒的にな!!」



フエフキダイは、


サザエを眺めていた。



「伊東のサザエ、久しぶりだなあ」


「送料無料で産地直送だもんな!!」



「送料無料?」


「こっちの話!!」



俺は考えた。



相模湾コマセ機構。



俺たちはコマセを食べた。



十五粒。


二十一粒。


九粒。



払えない。



だから役務納付。



大島まで配送。



ここまでは、


嫌だけど分かる。



じゃあ。



「フエフキダイは何を払ったの?」


「何も」


「即答すんな!!」



「だってソウダガツオに、伊東のヤドカリ食べたいって言っただけだし」


「それが注文になったんだよ!!」



「そうなの?」


「お前も知らなかったの!?」



フエフキダイは、


本当に知らなそうだった。



「何日か前にソウダガツオが来てさ」


「うん」


「伊東で欲しいものある?って聞くから」


「うん」


「ヤドカリって言った」


「うん」


「今日来た」


「…………」



それだけだった。



ネット通販より簡単だった。



会員登録すらない。



「じゃあソウダガツオが得してる?」



キントキダイが言った。



「注文取ってるもんな」



ちょうど、


一匹のソウダガツオが通った。



「おーい!!」



呼び止める。



「なにー?」



「お前ら、注文取ると何かもらえるの?」


「もらえないよ」


「じゃあなんでやってんの!?」



ソウダガツオは答えた。



「通るから」



「…………」



「どこを?」


「いろいろ」



「理由が回遊魚すぎる!!」



「ついでに聞いて、ついでに伝えてるだけだよ」


「無料?」


「うん」



ソウダガツオは去っていった。



「じゃああいつらも得してない……」



キンメダイが言った。



「配送魚は?」


「そうだ!」



容器を貸してくれた配送魚。



巻貝二個。



あいつは得している。



少なくとも、


容器代は取っている。



「犯人いたぞ」


「犯人なんですか?」


「今のところ一番金の匂いがする」



キントキダイが言った。



「巻貝だけどね」


「海だからな」



しかし。



よく考える。



あの配送魚は、


自分で容器を作っていた。



二枚貝を探して。



海藻を集めて。



加工して。



貸している。



「…………」



普通だ。



商売として、


かなり普通だ。



むしろ今回の中で、


一番まともかもしれない。



「違うな……」



「何が?」


「容器屋は普通に働いてる」



「じゃあ誰?」



「相模湾コマセ機構」



結局、


そこへ戻った。



俺たちは、


あそこから仕事を渡された。



なら。



機構が得しているはずだ。



「役務納付したら、機構には何が入るんだ?」



キンメダイが考えた。



「配達が一件終わる?」


「それだけ?」


「たぶん」



「物は?」


「入らないね」



「巻貝は?」


「容器の魚に行くね」



「フエフキダイは?」


「ご飯が来る」



「俺たちは?」


「税金を払ったことになる」



「機構は?」



「…………」



三匹で黙った。



何も入っていない。



「なんでこんな制度作ったんだよ!!」



フエフキダイが、


横から言った。



「便利だからじゃない?」


「お前にとってはな!!」



*



俺はヤドカリを見た。



ヤドカリは、


俺を見ている気がした。



おそらく、


この中で一番損をしている。



「…………」



考えないことにした。



「とにかく」



俺は言った。



「配達完了したって、どうやって証明するんだ?」



「証明?」



フエフキダイが聞いた。



「そう」



マダイに、


大島まで届けました。



そう言うだけでいいのか。



そんなわけがない。



あの女が。



そんな優しい制度を作るわけがない。



「受領証みたいなのない?」



「ないよ」



「何か渡されてない?」


「何も」



「印とか」


「ない」



「証明できるもの」


「ないね」



「…………」



終わった。



俺たちは。



伊東から大島まで。



誰にも証明できない労働をしてきた。



「帰ろう」



キンメダイが驚いた。



「もう?」


「マダイを探す」



「でも配達は?」


「終わった!!」



俺はフエフキダイを見た。



「食え!!」


「いいの?」


「もう食え!!」



フエフキダイが、


ヤドカリを見る。



ヤドカリが逃げる。



「待って待って」



フエフキダイが追う。



「新鮮だなあ」


「鮮度優先だけは達成したよ!!」



キントキダイが、


サザエを見ている。



「一個くらい」


「ダメだ!!」



「もう届けたよ?」


「届けた瞬間からお前のものじゃねえ!!」



「届ける前も僕のじゃないけど」


「もっとダメだろ!!」



そのとき。



フエフキダイが言った。



「あ」



「何?」



「そういえば」



嫌な言葉だった。



今日何度目だ。



「ソウダガツオに言われた」



「何を?」



「届いたら、配達した魚の名前を伝えてって」



「誰に?」



「次に来た回遊魚に」



「…………」



俺は止まった。



「それだけ?」



「うん」



「受領証は?」



「ない」



「印は?」



「ない」



「書類は?」



「魚だよ?」



「急に正論言うな!!」



つまり。



配達完了。



フエフキダイが、


次に通りかかった回遊魚へ伝える。



その回遊魚が、


どこかへ泳ぐ。



また誰かに伝える。



さらに伝わる。



いつか。



相模湾コマセ機構まで届く。



「口頭!?」



「そうみたい」



「海を越えた納税記録が全部口頭!?」



キンメダイが言った。



「途中で変わらないんですかね」



「変わるだろ!!」



教祖の。



ただの。



「食べた分くらい払ってほしい」



という独り言が。



相模湾コマセ機構になった。



実績がある。



この通信網は、


信用してはいけない。



「俺の名前、ちゃんと伝えて!!」



フエフキダイが頷いた。



「チカメキントキ」


「そう!!」



「キントキダイじゃなくて?」


「違う!!」



「キンメダイ?」


「違う!!!」



「チカ……」



「チカメキントキ!!」



「分かった」



本当に分かったのか。



「三匹で来たことも!」


「分かった」



「ヤドカリ三匹!」


「分かった」



「サザエ二個!」


「分かった」



「海藻一束!」


「それも?」


「念のため全部伝えろ!!」



フエフキダイが頷いた。



「分かった」



俺は何度も確認した。



完璧だ。



これなら大丈夫だ。



たぶん。



そのとき。



ちょうど一匹のサバが、


近くを通った。



フエフキダイが呼び止める。



「おーい!」



「なにー?」



「伊東から配達来たよ」



「誰が来たの?」



フエフキダイは答えた。



「キントキダイ」



「違あああああああああう!!!」



まだ一匹にも伝わっていなかった。



次回。


『伝言ゲームに納税記録を任せるな』

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