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第二十七話 島には島のルールがあります




「大島にも税関あるのかよおおおおお!!!」



大きな魚は、


俺の背中の箱を見た。



「税関?」


「違うの?」


「違うよ」


「よかった」



安心した。



「持込確認所」


「ほぼ同じだろ!!」



大島。



ようやく着いたと思ったら、


最初にやることが申告だった。



魚になってから、


自由になった気がまったくしない。



「相模湾から来たんだよね?」


「伊東から」


「じゃあ中身見せて」



俺は背中を向けた。



「開けてもらえる?」


「自分で開けられないの?」


「そういう容器なんだよ!!」



海藻をほどいてもらう。



ぱか。



二枚貝の蓋が開いた。



中には。



ヤドカリ三匹。


サザエ二個。


海藻一束。


小さな貝二個。



大きな魚が黙った。



「…………」



俺も黙った。



「…………」



キンメダイも覗いた。



「増えましたね」


「途中から俺も把握してない」



大きな魚が、


一つずつ確認していく。



「ヤドカリ」


「三匹」


「サザエ」


「二個」


「海藻」


「一束」


「この貝は?」


「知らない」


「知らないもの運んでるの?」


「気づいたら入ってた」



大きな魚が、


俺を見た。



「怪しいね」


「俺もそう思う」



自分で言っていて悲しくなった。



「何のために持ってきたの?」


「配達」


「誰に?」


「フエフキダイ」


「どの?」


「どの!?」



嫌な予感がした。



「フエフキダイって一匹じゃないの!?」


「そりゃそうでしょ」


「当たり前のこと言われた!!」



考えてみればそうだ。



伊東から来た、


チカメキントキ。



それだけで俺のところに届くわけがない。



人間の宅配便だって、


東京都までしか書いてなかったら届かない。



「届け先、聞いてないの?」


「大島のフエフキダイさんとしか」


「それは困るね」


「注文受けたやつ出てこい!!」



ソウダガツオだった。



もういない。



あいつら、


情報を運ぶ能力だけ高くて、


責任を取る能力が一切ない。



「名前は?」


「知らない」


「住んでる場所は?」


「知らない」


「特徴は?」


「フエフキダイ」


「それは種類だね」


「知ってるよ!!」



キントキダイが言った。



「注文いっぱいしてたよ」


「そう!」



俺は箱を示した。



「ヤドカリ三匹!」


「うん」


「サザエ二個!」


「うん」


「海藻!」


「うん」


「途中でヤドカリのサイズ変えて!」


「うん」


「海藻いらないって言ったあと、やっぱり食べるって!」


「…………」



大きな魚が少し考えた。



「ああ」


「分かるの!?」



「たぶん、あいつだ」


「特定方法が注文の面倒くささ!!」



大島まで来て、


ようやく住所が判明した。



*



持込確認は続いた。



大きな魚が、


ヤドカリを見た。



「生きてるね」


「生きてる」


「大島で放さないでね」


「なんで?」


「伊東から持ってきたんでしょ?」


「そうだけど」



「こっちの海に勝手に放されたら困るから」



「…………」



急に、


まともなことを言われた。



「それは……そうだな」



キンメダイも頷いた。



「確かに」



「食べるならいいよ」


「急に魚の倫理に戻った!!」



ヤドカリ三匹が、


箱の中で動いた。



俺は見なかったことにした。



「サザエも?」


「食べるなら」


「海藻は?」


「食べるなら」


「貝は?」


「食べるなら」


「全部食えば通る制度なの!?」



「持ち込んで増やされる方が困るからね」


「理屈は分かるのが嫌だな!!」



相模湾とは違う。



向こうでは、


コマセを食べたら払えと言われた。



こっちでは、


持ってきたものを勝手に放すなと言われる。



海は繋がっているのに、


ルールは繋がっていなかった。



「じゃあ確認終わり」


「え?」


「行っていいよ」


「払うものは?」


「ないよ」


「本当に!?」



「何で払うの?」


「最近それを聞かれるだけで嬉しい」



無料だった。



大島。



いいところかもしれない。



「ただし」


「出た」



大きな魚が言った。



「食べずに余ったものを捨てる場合は、こっちに持ってきて」


「分かった」


「勝手に放すと面倒だから」


「分かった分かった」



俺は箱を閉めてもらった。



海藻を締め直してもらう。



「フエフキダイは?」


「あっち」



大きな魚が、


岩場の方を向いた。



「この先の大きな岩を越えたあたり」


「ありがとう」



今度こそ。



本当に今度こそ。



配達が終わる。



俺たちは泳いだ。



*



大島の海は、


伊東とは少し違って見えた。



岩場を抜ける。



知らない魚がいる。



向こうから来た魚が、


俺の背中を見る。



「あ、配達」


「分かるんだ」


「その箱背負ってるから」


「これ制服みたいになってるの?」



貝殻リュック。



恥ずかしかったが、


初めて役に立った。



さらに進む。



大きな岩。



その陰に、


魚がいた。



「…………」



でかい。



フエフキダイだった。



「あ」



向こうも俺に気づいた。



背中の箱を見る。



そして。



「来た来た」



軽かった。



ものすごく軽かった。



俺たちが、


海を越えて、


荷物を落として、


ヤドカリを追いかけて、


容器代まで借りて、


注文変更を何度も受けながら、


ようやく辿り着いた相手が。



「来た来た」



だった。



「お前かああああああ!!!」



フエフキダイが驚いた。



「え、何?」


「何じゃねえよ!!」



「伊東便でしょ?」


「そうだよ!!」


「遠かった?」


「島だからな!!!」



フエフキダイは、


不思議そうにした。



「回遊魚は普通に来るけど」


「俺は回遊魚じゃねえんだよ!!」



「ああ」


納得した。



「じゃあ大変だったね」


「注文する前に気づけ!!」



箱を開けてもらう。



フエフキダイが中を見る。



「おお」



ヤドカリ三匹。



サザエ二個。



海藻一束。



小さな貝二個。



「いっぱい来た」



「お前が頼んだんだよ!!」



「貝二個は頼んでないよ」


「やっぱり!?」



初めて判明した。



誰の荷物なんだ。



「まあいいや」


フエフキダイが言った。



「食べるから」


「よくねえよ!!」



所有権が、


胃袋で解決されそうになっている。



俺は慌てて貝二個を離した。



「これは保留!!」



「じゃあヤドカリ」


「三匹いる」



フエフキダイが覗き込む。



ヤドカリたちが、


箱の奥へ逃げた。



「小さいね」


「お前が小さめにしろって言ったんだろ!!」



「そうだっけ?」


「途中で伝言まで寄越したよ!!」



「サザエ二個」


「ある」


「海藻」


「ある」


「一回いらないって言ったけど」


「知ってる」


「やっぱり欲しくなって」


「知ってる!!」



フエフキダイは嬉しそうだった。



「便利だね、これ」


「誰が便利にしてると思ってんだ!!」



俺は、


ようやく気づいた。



注文する側には、


海の距離なんて関係ない。



伝言を回遊魚に言えばいい。



あとは誰かが運んでくる。



大島から伊東なんて、


一言だ。



泳ぐのは、


こっちだ。



「じゃあ受領ね」


「待て」



大事なことがある。



これを忘れたら、


俺は本当にただの出前になる。



「俺たち、これで役務納付したことになるんだよな?」



「役務納付?」



フエフキダイが首を傾げた。



「…………」



嫌な予感がした。



「相模湾コマセ機構」


「何それ?」



「…………」



キンメダイが俺を見た。



キントキダイも俺を見た。



フエフキダイは、


本当に知らない顔をしていた。



「お前、この配達どこに頼んだの?」



「ソウダガツオ」



「金は?」



「払ってないよ」



「…………」



「大島は無料だから」



「…………」



俺は、


伊東から背負ってきた貝殻の箱を見た。



ヤドカリ三匹。


サザエ二個。


海藻一束。



そして、


容器利用料。



「…………」



キンメダイが小さく言った。



「チカメさん」



「言うな」



「もしかして」



「言うな」



「僕たちだけ払ってません?」



「言うなああああああああああ!!!」



次回。


『誰が得しているんですか』

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