↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/156

第二十四話 商品を食べたのは誰ですか



「三匹目どこいったああああああああ!!!」


いない。


何度数えても、ヤドカリは二匹だった。


一匹。

二匹。


終わり。


「…………落とした?」


キンメダイが言った。



下を見る。


暗い。


海底は見えない。


三匹とも、しばらく動かなかった。


「誰か取りに行く?」


「…………」


「急に聞こえなくなるな」


俺は記憶をたどった。


出発したときは三匹いた。

途中でも何度か確認した。


一匹、二匹、三匹。


ちゃんといた。


ソウダガツオと別れた。

知らない群れに道を聞いた。

逆方向だと判明した。


そして今、二匹。


「この間だな」


俺は二匹を見る。


キンメダイ。

キントキダイ。


「…………」


「何?」


キンメダイが俺を見る。


「いや」


「疑ってる?」


キントキダイが言った。


「疑ってない」


「目が疑ってる」


「俺、目でかいから」


チカメキントキの特徴を、こんなところで使うことになるとは思わなかった。


キンメダイが少し間を置いて言った。


「…………僕、食べてないよ」


「まだ何も聞いてない」


「…………」


「なんで先に言った?」


「…………疑われてる気がしたから」


「今のでお前が一番怪しくなったぞ」


キンメダイが少し慌てる。


「…………本当に食べてないよ」


「じゃあ口開けて」


「…………え?」


「口」


キンメダイが口を開けた。


何もない。


「よし」


次にキントキダイを見る。


「口」


「嫌だ」


「なんでだよ」


「なんとなく」


「一番怪しい反応すんな!!」


「食べてないよ」


「じゃあ開けろよ」


「食べたとしても、もう口には残ってないんじゃないか?」


「具体的だな!!」


怪しい。


非常に怪しい。


「お前、さっきヤドカリ見て『美味しそう』って言ったよな」


「言った」


「さらに『食べれば軽くなる』って言ったよな」


「言った」


「犯行予告じゃねえか!!」


「冗談だよ」


「魚の冗談は食うか食われるかしかないの!?」


キントキダイが首を傾げた。


「でも、チカメも途中でヤドカリに話しかけてたよな」


「話しかけたよ」


「長距離配送ってこうなるって言ってた」


「言った」


「精神的に不安定だったんじゃないか?」


「俺を容疑者に入れるな!!」


ふと見ると、キンメダイまで俺を見ていた。


「…………」


「お前も見るな」


海の真ん中で、魚三匹が消えたヤドカリ一匹について疑い合っている。


なんだこれ。


「とりあえず整理しよう。最後に三匹確認したのは?」


「…………ソウダガツオと別れる前」


「そのあと何があった?」


「群れについていった」


「逆方向だったな」


「…………伊東行きだった」


「傷をえぐるな」


そのとき、キントキダイが何かを見つけた。


「あ」


「何?」


「いた」


「え?」


少し離れたところに、小さな何かが漂っている。


ヤドカリだった。


「いたあああああ!!」


俺はすぐに泳いで近づいた。


間違いない。

三匹目だ。


「よかったああああ!!」


ヤドカリを回収する。


「疑って悪かった!!」


「本当にね」


「特にお前な」


「なんで?」


これで三匹。


一匹、二匹、三匹。


商品は無事だった。


「じゃあ行くぞ」


大島の方向はいまだによく分からないが、とりあえずヤドカリは三匹いる。


それでいい。


俺たちは再び泳ぎ始めた。


少し進んで、確認する。


一匹。

二匹。

三匹。


いる。


また泳ぐ。


しばらくして、もう一度確認する。


一匹。

二匹。

三匹。


いる。


さらに泳いで、念のため確認する。


一匹。

二匹。


…………。


「二匹いいいいいい!!!」


また消えた。


「今度は誰だ!!」


「だから誰も食べてないって」


「じゃあなんで減るんだよ!!」


戻る。


探す。


いた。


回収。


三匹。


泳ぐ。


しばらくして確認。


二匹。


戻る。


いた。


回収。


三匹。


泳ぐ。


確認。


二匹。


「…………」


俺は止まった。


キンメダイも止まった。

キントキダイも止まった。


「これさ」


「…………うん」


「もしかして」


俺はヤドカリを見る。


ヤドカリも俺を見る。


「逃げてない?」


少し間があった。


「…………生きてるからね」


「そうだよ!!」


完全に忘れていた。


商品。

商品。

ずっと商品と呼んでいた。


だが、こいつらは生きている。


ヤドカリだ。


「なんで配達物が自力で逃げるんだよ!!」


「配達されたいとは言ってないからな」


「制度の根本を揺らすな!!」


その横で、ヤドカリがまた離れていく。


「待て待て待て!!」


俺が追う。


逃げる。


追う。


逃げる。


「大島行くんだよ!」


さらに逃げる。


「フエフキダイさんが待ってるんだよ!」


もっと逃げた。


「…………」


俺は止まった。


キンメダイがぽつりと言う。


「…………今の言い方、まずかったんじゃない?」


「俺も言ってから思った」


考えてみれば、大島のフエフキダイが伊東産ヤドカリを三匹注文した。


たぶん、食うためだ。


つまり俺は今、このヤドカリたちを食う魚のところまで、生きたまま運ぼうとしている。


ヤドカリが逃げる。


「そりゃ逃げるわ!!!」


キントキダイが言った。


「どうする?」


「どうするって……」


仕事だ。


届けなければ、俺たちのコマセ代は払えない。


でも。


「俺たち、これ捕まえて大島まで連れていくの?」


「そういう仕事じゃないか?」


「急に仕事内容が怖くなったんだけど」


海上奉仕のときもそうだった。


言葉を変えると、なんとなく普通に聞こえる。


役務。

配送。

商品。

受取先。


でも、やっていることだけ見れば。


「捕まえたヤドカリを、食う魚のところまで運んでるだけじゃねえか」


キンメダイが黙った。


キントキダイも黙った。


ヤドカリが逃げた。


「あっ、待て!!」


俺たちは追った。


倫理より先に、納税が勝った。



*



しばらくして。


三匹のヤドカリを囲みながら進んでいた俺たちは、ほとんど前へ進めなくなっていた。


一匹が右へ行く。


「そっち!」


一匹が下へ行く。


「待て!」


一匹が後ろへ行く。


「伊東に帰るな!!」


キンメダイが疲れたように言った。


「…………これ、大島まで続けるの?」


「無理だろ……」


キントキダイがヤドカリを見る。


「何かに入れれば?」


「何かって?」


「知らない」


「知らないのかよ」


でも、その通りだった。


人間なら荷物は箱に入れる。


魚なら?


「…………」


ない。


袋もない。

箱もない。

紐もない。


そもそも手もない。


「待って」


俺は今さら、とんでもないことに気づいた。


「相模湾コマセ機構ってさ」


「…………うん」


「配送制度作ったんだよな」


「そうだな」


「注文も取ってる」


「…………うん」


「役務として俺らに配達させてる」


「そうだな」


俺は三匹のヤドカリを見る。


一匹がもう逃げようとしている。


「なんで配送方法だけ何も考えてねえんだよ!!!」


そのとき、後ろから声がした。


「初めての方ですか?」


振り返る。


一匹の魚がいた。


そして。


背中に、箱を背負っていた。


「…………」


いや。


箱じゃない。


大きな二枚貝の殻を、海藻の帯で体に固定している。


四角い。


妙に四角い。


しかも蓋までついている。


どこからどう見ても。


「Uberじゃねえか!!」


魚が首を傾げた。


「ウーバー?」


「知らなくていい!!」


よく見ると、背中の貝殻には小さな貝やエビが詰まっていた。


中で逃げないように、海藻で仕切りまで作られている。


「それ何?」


「配送容器です」


「あるんじゃねえか!!」


俺は逃げようとしているヤドカリ三匹を見る。


背中の箱を見る。


もう一度ヤドカリを見る。


「なんで最初にこれ渡さなかったの!?」


「お持ちでなかったんですか?」


「持ってるように見える!?」


魚は少し考えた。


「貸し出しもありますよ」


「あるの!?」


助かった。


これでようやく大島へ行ける。


「じゃあ貸して」


「はい」


魚はにこっと笑った。


「容器代は別料金です」


「税金払うための仕事で借金増えるのおかしいだろおおおおお!!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。