↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
148/156

第148話 北上しすぎるな


「行かないよ!!!」


小サバに即答された。


「いや待て! そもそもお前ら全員で川奈に引っ越せって話じゃない!」


「違うの?」


「違うよ!!!」


言われてみれば、さっきまでの俺は完全に移住先の営業をしていた。


「川奈にもまた回ってきてほしいんだよ。最近、小サバが全然来なくなったからな。お前らだけじゃなくて、他の群れにも伝えてくれればいいんだ」


「たまに行けばいいの?」


「そう。回遊してくれればいい」


小サバが少し考える。


これならどうだ。


住めとは言っていない。たまに川奈で福音を食って、またどこかへ行けばいい。


「でも、泳がせ釣りの餌にされるんでしょ?」


「…………」


「大型魚に食べさせるんでしょ?」


「一部熱狂的な人だけだ!」


「やっぱり嫌だよ」


「いや、でも考えてみろ」


「何を?」


「お前ら、針がついてなくても大型魚には食われるだろ」


「…………」


「針がついて大型魚に食われるか、普通に泳いでて大型魚に食われるかの違いだ」


「針ついてない方がいいよ」


「そりゃそうだな!!!」


イトヨリが吹き出した。


「また負けたっす」


「うるさい!」


小サバはしばらく考えていたが、さっきよりは話を聞く気になったらしい。


「どこまで行けばいいの?」


「川奈と伊東辺りまでで十分だ」


「もっと北は?」


「宇佐美、網代くらいまでなら……まあいい。しかし……」


「しかし? しかしの先は!?」


「本当はあんまり言うと怒られちゃうから……言うのやめようと思ってたんだが……」


「えっ、怖い……。なんで?」


「…………熱海だから」


イトヨリが俺を見た。


「出たっす、謎の敵視が!!」


「熱海はダメなの?」


小サバは何も知らない。


「ダメ……ではないんだ。行くも行かないも君たちの自由なわけだし。俺が言うことでもないし。あ〜……いや、なんでもない」


「なんで? なに!? 教えてよ……」


「熱海には……」


「熱海には?」


「…………海釣り施設がある」


「海釣り施設?」


「観光客も来る。家族連れも来る。普段ほとんど釣りをしない人間だって竿を出す」


「それが何?」


分かってない。


俺は小サバをじっと見た。


「そこで、お前が釣れる」


「…………うん」


「初めて釣ったサバだ」


「…………うん」


「どうすると思う?」


「逃がしてくれる?」


「答えはノーだ……持って帰る」


小サバの動きが止まった。


「川奈や伊東なら『また小サバか』だ。だが、初めて釣ったサバなら話は違う」


「…………」


「食うぞ」


群れのざわめきが消えた。


「想像してごらん」


「嫌だ」


「まず包丁が入る。出刃包丁ならまだいい……スパッと切れてくれるからな」


「何がいいの?」


「でもな。普段魚なんか捌かない家庭では、百円ショップの使い古された包丁が出てくるんだ……」


「…………嫌」


「ギーコー、ギーコー……。あれ? うまく切れませんね? ギーコー、ギーコー……」


「やめて」


「皮が切れない。身が潰れる」


「やめてって!!!」


「そして切られたお前の身に、塩が塗り込まれていく」


「…………」


「念入りに……傷口に塗り込ませるように。あぁ、傷口じゃありませんでしたね。飾り包丁でした」


「やめてえええええ!!!」


「尻尾やヒレには焦げ付かないよう、さらに念入りに塩だ」


「もうやめてえええええ!!!」


目の前の小サバが群れの中へ逃げ込んだ。周りにいた小サバまで一斉に俺から距離を取る。


「そして焼かれる」


「もういいよ!!!」


「チカメさん! あーしまで塩焼きにされる気分になってきたっす!!!」


「だから北上しすぎるな! 網代で引き返せ!」


「熱海怖い!!!」


「そうだろ!」


「今度、川奈にも回る!!!」


「よし!!!」


やった。


福音でもなかった。


風紀委員でもなかった。


オールインクルーシブでもなかった。


最後に小サバを動かしたのは、熱海だった。


キントキダイが呆れたように俺を見る。


「それでよいのか?」


「結果がすべてだ」


ホンガツオが口を開いた。


「では、話はまとまったな」


「ああ」


小サバの群れから声が飛んできた。


「他のみんなにも言っておく!」


「頼む!」


「川奈には行ってもいいけど、熱海には行くなって!」


「…………」


少し違う。


だが。


まあいいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。