第147話 川奈オールインクルーシブ
「二回言うな!!!」
小サバは不思議そうに俺を見た。
「だって食われるでしょ?」
「まあ……食われるけど」
「食われるじゃん」
「三回言うな!!!」
後ろの群れまでざわついている。
どうやら川奈の評判は、俺が思っていたより悪い。
「ちょっと待て。川奈だってそんな悪いところじゃないぞ」
「何がいいの?」
「何がって……」
考える。
俺たちはこいつらを連れて帰るために、ここまで来た。
何かあるはずだ。
川奈にしかない、圧倒的な魅力が。
「福音がある!」
「石廊崎にも降るよ」
「…………」
そうだった。
降ってた。
しかも祭りみたいになってた。
「いや、川奈はいっぱい降る!」
「石廊崎も降るよ」
「…………」
強い。
石廊崎が思ったより強い。
「でも川奈には風紀委員がいる!」
後ろにいたホンガツオが反応した。
「風紀委員長だ」
「今そこどうでもいいよ!!!」
小サバがホンガツオを見る。
「風紀委員?」
「そう! こいつがいる!」
俺はホンガツオを前へ出した。
「川奈の海の風紀を守ってる! 何かあったらこいつが来る!」
ホンガツオが胸を張る。
「私の管轄で勝手な真似はさせん」
「ほら!」
小サバたちが少しざわついた。
これは効いた。
ようやく効いた。
「でも人間いるでしょ?」
「いる」
「釣るでしょ?」
「釣る」
「じゃあダメじゃん」
「いや待て!」
これは違う。
少なくとも、小サバに関しては。
「川奈の釣り人は、お前らなんかほとんど持って帰らないぞ!」
「…………」
小サバたちが静かになった。
「釣れても嫌がられる!」
「…………」
「また小サバかよって顔される!」
「…………」
「むしろ釣れないでほしいと思われてる!」
「…………」
イトヨリが俺を見た。
「チカメさん」
「なんだ」
「それ、営業になってるっすか?」
「なってるよ! 最高の条件だろ!」
小サバが聞いた。
「僕たち、嫌われてるの?」
「違う! そうじゃない!」
「今、嫌がられるって」
「釣り人にだよ!」
「だから嫌われてるんじゃん」
「喜べよ!!! 釣られにくいって話してんだよ!!!」
何で傷ついてるんだ。
食われたくないって言ったのはお前らだろ。
「じゃあ釣られても逃がしてくれるの?」
「かなりの確率でな」
小サバたちが顔を見合わせる。
「福音が降る」
「石廊崎にもあるよ」
「それはもういい!!!」
俺は指を折る代わりに、頭の中で数えた。
飯が降ってくる。
釣り人にはあまり持ち帰られない。
風紀委員までいる。
「…………あれ?」
「何?」
「待てよ」
これ。
かなりいいんじゃないか?
俺は改めて小サバの群れを見た。
「川奈……オールインクルーシブじゃね?」
「何それ?」
「飯付き! 警備付き! 釣られてもリリース付き!」
「最後のサービス嫌なんだけど」
「贅沢言うな!!!」
イトヨリが横から入ってきた。
「しかも全部無料っす!」
「そうだよ!」
「チカメさん好きそうっす!」
「俺の話はいいんだよ!!!」
小サバたちがざわつき始めた。
さっきまでとは少し違う。
完全に嫌がっている感じではない。
俺は畳みかけた。
「どうだ! 福音食べ放題! 風紀委員常駐! 釣り人からは基本的に不人気!」
「最後だけ悪口じゃない?」
「生存率の話だよ!!!」
小サバは少し考えた。
「…………でも」
「なんだ?」
「釣られた僕たちを、そのまま餌にする人いるよね?」
「…………」
知ってる。
ものすごく知ってる。
というか。
人間の頃の俺もやってたし、さっきそれは考えていた。
「…………一部のお客様によるオプションサービスです」
「誰向けのサービスなの?」
「大型魚」
「僕たち死ぬじゃん」
「そこはオールインクルーシブ対象外です」
「行かないよ!!!」




