↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
144/156

第144話 あーーーーれーーーーーの時間


「…………」


飛ばされた俺は岩陰から、そっと顔を出した。


砂煙の向こうを、ハンマーヘッドの群れが横切っていく。


そのさらに向こうでは、巨大な魚影が動いていた。


イシナギだ。


まだやってる。


「…………みんなどこ行ったんだよ」


返事はない。


さっきの水流で、四匹とも別々の方向へ飛ばされた。


そこまで遠くへ流されたわけじゃない。


ハンマーヘッドも見える。


イシナギも見える。


ただ。


仲間だけが見えない。


「一番見えなくていいやつらだけ見えてるんだよな……」


神子元まで来て。


ハンマーヘッドに食われかけて。


岩だと思ったらイシナギで。


最後は全員、


あーーーーれーーーーー。


「遭難の仕方がバカすぎるだろ……」


とにかく探そう。


イトヨリなら声がでかい。


キントキダイなら岩陰に隠れていそうだ。


キンメは――


「…………チカメ」


「ん?」


聞こえた。


「キンメ!?」


振り返る。


少し離れた岩場。


赤い魚が一匹、こっちを見ていた。


「キンメ!」


「…………いた」


「いたじゃねえよ! 大丈夫か!?」


「…………うん」


よかった。


本当にいた。


キンメがゆっくりこちらへ泳いでくる。


俺も向かう。


「イトヨリとキントキダイは?」


「…………知らない」


「そっか。とりあえず――」


ドゴォン!!!


目の前の海底に、何かが叩きつけられた。


砂が爆発したように舞い上がる。


水が押し寄せる。


「キンメ!!!」


「…………あーーーーれーーーーー」


キンメの身体が浮いた。


そのまま砂煙の向こうへ消えていく。


「キンメーーーーー!!!」


まただ。


また流された。


何なんだよ!!!


砂煙の向こうから、巨大な魚影が現れた。


イシナギ。


その口には、ハンマーヘッドを咥えている。


「お前かよ!!!」


食えてはいない。


どう見ても口に収まっていない。


それでもイシナギは離さない。


ハンマーヘッドを咥えたまま、巨大な身体を反転させる。


「ちょっと待て」


嫌な予感がする。


イシナギが泳ぎ出した。


岩場へ。


「おい」


加速する。


「おいおいおいおい!」


ドゴォン!!!


ハンマーヘッドごと岩へ突っ込んだ。


あーーーーれーーーーー。


「食えないからって叩きつけるなよ!!!」


岩場から砂と小石が舞い上がる。


周囲にいた魚たちが一斉に逃げる。


ハンマーヘッドの群れも、大きく進路を変えた。


だが、イシナギは止まらない。


群れの中へ突っ込む。


一匹を咥える。


反転する。


岩へ叩きつける。


ドゴォン!!!


「まだやるのかよ!!!」


また一匹。


ドゴォン!!!


「やめろって!!!」


さらに一匹。


ドゴォン!!!


百匹を超えるハンマーヘッドの群れを、巨大なイシナギが縦横無尽に追い回している。


捕まえる。


咥える。


叩きつける。


そのたびに海底が揺れ、砂煙が広がり、魚たちが逃げ惑う。


「…………」


すごい。


人間だった頃なら、一度は見てみたかった光景かもしれない。


「今日ダイバーが潜ってたら、ある種大喜びだな」


ドゴォン!!!


また一匹、海底に叩きつけられた。


「…………ある種な」


俺はキンメが飛んでいった方へ泳いだ。


「キンメー!」


返事はない。


「イトヨリー!」


返事はない。


「キントキダイー!」


返事はない。


代わりに。


ドゴォン!!!


「お前は返事しなくていいんだよ!!!」


遠くで砂煙が上がった。


その向こうで、巨大な魚影がまた反転する。


「あいつ、いつまでやるつもりだ……」


岩場を回り込む。


その時。


岩陰に何かが見えた。


「…………ん?」


魚だ。


いや。


サメか?


岩の隙間に引っかかるようにして、ほとんど動いていない。


「…………またサメかよ」


今日はサメが多すぎる。


近づいてみる。


反応がない。


「おい」


「…………」


「生きてるか?」


少しだけ目が動いた。


生きてる。


でも、それだけだった。


「お前も巻き込まれたのか?」


ドゴォン!!!


岩場が揺れた。


サメの身体がわずかに動く。


驚いたというより、揺れに動かされただけに見えた。


「…………」


遠くで、また砂煙が上がる。


ドゴォン!!!


サメの目だけが、ゆっくり動いた。


ドゴォン!!!


「今はこいつに構っている場合じゃない」


キンメも。


イトヨリも。


キントキダイも。


どこにいるのか分からない。


「悪い。俺、仲間探さないと」


サメを見る。


「動けるなら、ここから離れた方がいいぞ」


「…………」


動く気配はなかった。


俺は岩陰を出た。


しばらく進む。


「チカメさーーーーーん!!!」


「この声は!」


向こうからイトヨリが泳いでくる。


「イトヨリ!」


「チカメさーーーーーん!!!」


「無事だったか!」


「死ぬかと思ったっすーーーーー!!!」


よかった。


今度こそ合流できる。


イトヨリが近づいてくる。


「キンメさんとキントキダイさんは!?」


「キンメは一回見つけた!」


「一回?」


「あーーーーれーーーーーした!」


「また!?」


その時。


遠くで巨大な魚影が反転した。


口にはハンマーヘッド。


今度のやつは、可哀想に飛び出た目を咥えられている。


「…………」


「…………」


イトヨリも見た。


俺も見た。


イシナギが、こっちを向いている。


「チカメさん」


「なんだ」


「嫌な予感するっす」


「奇遇だな」


イシナギが加速した。


「来るっす!!!」


「岩陰入れ!!!」


「どの岩が本物っすか!?」


「もう全部疑え!!!」


イシナギが、ハンマーヘッドを咥えたまま突っ込んでくる。


「チカメさん!!!」


「イトヨリ!!!」


「やっと会えたのにーーーーー!!!」


ドゴォン!!!


海底が揺れた。


水が押し寄せる。


イトヨリの身体が浮いた。


「あ」


「イトヨリ!」


「あーーーーれーーーーー!!!」


「またかよーーーーー!!!」


イトヨリが流されていく。


俺も巻き込まれた。


「あーーーーれーーーーー!!!!」


水流に身体を持っていかれる。


視界が砂で埋まる。


イトヨリの姿が消える。


俺の身体も、別の方向へ弾き飛ばされる。


二匹は、また別々の方向へ流されていった。


そして。


さっきまで岩の隙間にいたサメも。


押し寄せた水に身体をさらわれていた。


泳ごうともしない。


いや。


泳げないのかもしれない。


力の抜けた身体が、枯れ葉のように水の中を流されていく。


誰にも気づかれないまま。


サメもまた、神子元の海へ消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。