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第137話 新しいイトヨリ

挿絵(By みてみん)


「イトヨリいいいいいいいい!!!!!」



アカウミガメは、そのまま泳いでいった。


口からピンク色の尾びれを出したまま。



「…………」


「…………」



静かになった。



キントキダイが、アカウミガメの消えていった方を見ている。



「……食べられたのか?」


「…………」



キンメも、同じ方向を見ていた。



「…………悲しい」



「そんな...」



「新しいイトヨリ探すか……」



「早くないか!?」



キントキダイが振り返った。



「だっていなくなったんだろ?俺達魚だぞ?」


「そうだが!」


「三匹になっちゃったし」


「補充するものなのか!?」



キンメが俺を見る。



「…………新しいイトヨリ」


「ああ」


「…………探すの?」


「探そう」



幸い、ここは砂浜だった。


少し先には弓ヶ浜。


海底には明るい砂地が広がっている。



新しいイトヨリを見つけるのに、苦労はしなかった。



「いたぞ」



早い。



キントキダイが本当に連れてきた。



「この子はどうだ?」


「どうも」


「普通だな、却下」



なかなかパンチのあるイトヨリはいなかった。


そして。


一匹のイトヨリが、キントキダイの後ろから出てくる。



またイトヨリだ。



どう見てもイトヨリだ。



さっきまで面接してた子とは当然違うが。



まあ。



イトヨリだ。



「この人?」



新しいイトヨリ候補が俺を見る。



「そうだ。イトヨリを探している」



「ふーん」



俺の周りを一周した。



なんだ。



魚なのに品定めされている気分になる。



「先輩がアタシと居たいって人?」



「先輩?」



「うん」



新しいイトヨリ候補がニヤッと笑った。



「ざーこ♡ ざーこ♡」



「なんで初対面で煽られなきゃならねえんだよ!!!」



「だってアタシより弱そう」


「何を見て判断した!?」


「顔?」


「顔で強さ決めんな!!!」



キントキダイが横から言う。



「どうだ?」


「どうだと言われてもな」



新しいイトヨリ候補が首を傾げた。



「何?」


「いや。ちょっと話を聞こうと思って」


「面接?」


「まあ、そんな感じだ」


「アタシを?」


「ああ」



「いいよ♡」



素直だ。



「じゃ、先輩からね」


「なんで俺からなんだよ!!!」



新しいイトヨリ候補が砂の上で俺と向き合った。



「名前は?」


「チカメ」


「年齢は?」


「知らん」


「職業は?」


「魚」


「ざーこ♡」


「魚全員落ちる面接やめろ!!!」



キントキダイが真面目な顔で補足した。



「元人間らしい」


「へえー」


「釣りに詳しい」


「釣られる側なのに?」


「今はな」


「ざーこ♡」


「俺の前世まで煽るな!!!」



キンメが横でじっと見ている。



新しいイトヨリ候補が今度はキンメを見た。



「この子も一緒?」


「…………うん」


「名前は?」


「…………キンメ」


「キンメ?」


「…………うん」


「かわいーじゃん」


「…………ありがとう」



馴染むの早いな。



「で、こっちがキントキダイ」


「私はキントキダイだ」


「さっき会った」


「そうだった」



なんだこの面接。



「今度はこっちが聞くぞ」


「どーぞ」



新しいイトヨリ候補がダルそうに首を傾げた。



「名前は?」


「イトヨリ」


「それは知ってる」


「じゃあ聞かないでよ」


「個人名だよ!」


「ないよ」


「まあ俺たちもそんなもんか……」



魚の名前問題は、今さらだった。



「特技は?」


「砂掘れる」


「おお」


「先輩より速く掘れるよ」


「俺、砂掘らねえからな?」


「負けるの怖い?」


「ざこ判定に誘導すんな!!!」



「長距離は泳げるか?」


「泳げる」


「サメは?」


「嫌い」


「俺もだ」


「ざーこ♡」


「お前も嫌いなんだろ!!!」



キントキダイが頷いた。



「なかなかいいんじゃないか?」


「どこがだよ」


「元気だ」


「元気だけで採用する会社は危ねえぞ」



「会社なの?」



「違う」



キンメが即答した。



「…………旅」


「あ、旅なんだ」



新しいイトヨリ候補が俺を見る。



「どこ行くの?」


「神子元」


「遠っ」


「やっぱ遠いのか」


「なんで行くの?」


「小さいサバを迎えに」


「何それ」


「俺もそう思う」



新しいイトヨリ候補が少し考えた。



「アタシ行っていいよ」


「まだ採用してねえよ!!」


「でも先輩、アタシ探してたんでしょ?」


「イトヨリを探してた」


「アタシ、イトヨリ」


「そういう問題じゃねえんだよ!」


「じゃあ何イトヨリがいいの?」


「何イトヨリってなんだよ!!!」


「イトヨリダイとソコイトヨリだよ。そんなことも知らないの? かわいー」


「うるせ!」



キントキダイが俺に近づいてきた。



「私はこの子でいいと思う」


「お前、連れてきた責任取れよ」


「何の責任だ」



キンメを見る。



「キンメは?」



「…………どっちでもいい」



新しいイトヨリ候補が近づいた。



「キンメっち、アタシ嫌い?」


「…………別に」


「じゃあ好き?」


「…………別に」


「どっち?」


「…………別に」


「この子ちょうだい!!」



「キンメで遊ぶな!!!」



新しいイトヨリ候補は楽しそうだった。



なんだかんだ話しているうちに、俺たちはそのまま弓ヶ浜へ向かっていた。



その時だった。



「あー!!!」



聞き慣れた声がした。



全員が振り返る。



遠くから、何かがものすごい勢いでこっちへ泳いでくる。



アカウミガメだった。



その横に。



ピンク色の魚がいる。



「チカメさああああああああん!!!」



「…………」


「…………」


「…………」



旧イトヨリだった。



普通に生きていた。



「イトヨリ!?」



キントキダイが叫ぶ。



「生きてたのか!?」



「何言ってるんすか!! 死んでないっすよ!!!」



イトヨリがアカウミガメと一緒に俺たちのところまで来た。



「急に咥えられてびっくりしたっすよー!」


「食われたんじゃなかったのか!?」


「感動の再会してただけっす!」



キントキダイが固まる。



キンメも固まる。



新しいイトヨリ候補も固まる。



俺はアカウミガメを見る。



やっぱり。



「お前。川奈にいた奴だろ」



アカウミガメが俺を見て、ゆっくり頷いた。



「弓ヶ浜はウミガメの産卵でも有名だからな」



俺は改めてアカウミガメを見る。



「お前、メスだったのか?」



もう一度。



ゆっくり頷いた。



「へえー!」



イトヨリがアカウミガメの周りを泳ぐ。



「じゃあ里帰りっすか!」


「川奈からずいぶん遠くまで帰ってきたな!というか、よく川奈まで行ったなというべきか」



アカウミガメが、どこか誇らしそうに首を伸ばした。



「産卵しに戻ってきたのか」


「おめでたっすー!」



キントキダイが首を傾げる。



「ということは、川奈にいた時にはもう――」


「そこまで聞くな!!!」



アカウミガメが俺を見た。



「いや、俺も聞いてないからな」



イトヨリが嬉しそうにアカウミガメへ寄っていく。



「それであーし見つけて、懐かしくなっちゃったんすねー!」



アカウミガメが。



ぱくっ。



またイトヨリを咥えた。



「またああああああああ!!!!!」



「んんんんんんんん!!!!」



「感動が雑なんだよ!!!」



アカウミガメがイトヨリを離した。



「ぷはっ!」



キントキダイが俺を見る。



「チカメ」


「なんだ?」


「知っていたのか?」


「ああ」


「いつから?」


「最初から」



「最初から!?」



イトヨリが俺を見る。



「何の話っすか?」



「お前が食われてないこと」


「あーし、食われたんすか!?」



「最初からあの亀に気づいてたからな」



「じゃあなんで助けに来なかったんすか!!!」



「遊んでたから」



「じゃあなんで新しいイトヨリ探したんすか!!!」



「暇だったから」



「チカメさああああああああん!!!!!」



新しいイトヨリ候補が俺を見る。



「先輩」


「なんだ?」



ニヤッと笑った。



ゾクゾクゾク。



「さいてー♡」



「ざーこじゃなくなった!!!」



*



そんなことをしているうちに、俺たちは弓ヶ浜まで来ていた。



「おおー!」



イトヨリが砂浜を見ながら先へ出る。



「弓ヶ浜っすー!!!」



ようやく着いた。



下田港を出て。


イトヨリが食われたと思われて。


新しいイトヨリの採用面接までして。



やっと弓ヶ浜だ。



「きれいっすねー!」



イトヨリが砂浜を見ながら泳いでいる。



なぜか新しいイトヨリ候補も、まだいる。



「こんなの普通じゃん」


「地元民はありがたみがないっすね!」


「毎日見てるし」


「ぜいたくっす!」


「観光客?」


「川奈から来たっす!」


「遠っ」



「チカメさん!」



イトヨリがスマホを取り出した。



「なんだよ」


「ちょっと待ってくださいっす。こないだいいのをブクマしておいたっす!」



画面を見ながら何か調べている。



「何見てんだ?」


「じゃらんっす」



「なんで旅行サイト見てんだよ」



「せっかく弓ヶ浜まで来たんすよ?」



指を動かす。



「あっ」



嫌な予感がする。



「休暇村なら、みんなで泊まっても払えそーっすよ」



「泊まる!?」



「いつもそこら辺で寝るだせじゃないっすか」


「魚の旅なんてそんなもんだろ!」



イトヨリが画面をキンメに見せる。



「ほら、キンメちゃん。ここっす」



「…………」



キンメが画面を見る。



しばらく見て。



「…………休暇村」



「そうっす!」



もう一度、画面を見る。



「…………行きたい」



「キンメまで!?」



珍しい。



キンメが自分から行きたい場所を言った。



「行きたいっすよねー!」


「…………うん」



イトヨリが勝ち誇った顔で俺を見る。



「二票っす!」


「多数決で宿泊先決めるな!」



「私は構わないぞ」



キントキダイまで乗ってきた。



「三票っす!」


「俺以外全員じゃねえか!!!」



新しいイトヨリ候補が横から覗き込む。



「休暇村?」


「知ってるのか?」


「地元だもん」



「魚でも泊まれるっすか?」



新イトヨリは憎たらしい笑顔で



「教えて欲しい?」



「なんか方法があるんかよ!!!」



俺は自分の身体を見る。



次にイトヨリ。



キンメ。



キントキダイ。



全員。



魚だ。



「そもそも俺たち魚だぞ。どうやって泊まるんだよ」



「ふふふ」




新イトヨリが休暇村の方を見る。



「食料として」



「宿泊じゃねえよ!!!!!」



キントキダイが自分の身体を見る。



「私は食べられるのか?」


「たぶんいけるっす!」


「いけるって言うな!!!」



キンメが画面を見たまま呟く。



「…………僕、ご馳走になっちゃう」



「お前は特に入館するな!!!」



新しいイトヨリ候補が俺を見る。



「先輩は?」


「俺?」


「食べてもらえるの?」



「知らねえよ!!」



「売れ残り?」



ニヤッ。



「ざーこ♡」



「食材としてマウント取るな!!!!」

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