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第131話 【神子元編】バイキング会場

挿絵(By みてみん)


朝。



目が覚めた。



昨日仕留めたサメが、海底に並んでいる。



その横を。



サメが泳いでいた。



「…………」



一匹。



二匹。



三匹。



「増えてるうううううう!!!」



俺の声でみんなが起きた。



「何っすか!?」


「サメ!!」


「…………また?」


「またどころじゃねえよ!!」



昨日あれだけ駆除したのに。



普通にいる。



キントキダイが岩陰へ下がった。



「私は今日は赤くない」


「現実逃避すんな!!」



二代目も起きた。



大きく口を開ける。



「んー……よく寝た!」


「なんでお前まで普通に泊まってんだよ!!」



二代目が泳いでいるサメを見る。



「おっ」


「おっ、じゃねえよ!! 昨日より増えてるぞ!!」


「サメが多いとは聞いてたけど……まさかこれほどとはな!」


「お前が言ったんだろ!! 稲取にはうようよいるって!!」


「ウヒッ!」


「笑ってごまかすな!!!」



キンメを見る。



昨日は俺のすぐ後ろにいた。



今日は普通に横にいる。



「大丈夫?」


「…………うん。昨日よりは」


「そっか」


「でも、食べられるのは嫌」


「それは全員嫌だよ」



その時。



イトヨリが沖を見た。



「チカメさん。なんか来るっす」


「またサメ!?」


「いや……いっぱい来るっす」



大きな影。



一つ。



二つ。



三つ。



その後ろにも。



魚じゃない。



でかい。



「来た!」



二代目が飛び出した。



「じいちゃーん!!!」



ワニ。



熱川のワニたちだった。



「本当に来たあああああ!!!」



昨日、ソウダガツオに頼んだ伝言。



ちゃんと届いたらしい。



老ワニたちが、ぞろぞろと稲取の海へ入ってくる。



「サメはどこじゃ」


「そこ!」



二代目が海底を指した。



昨日仕留めたサメが何匹も沈んでいる。



「おお」


「いっぱいあるぞ!」


「よくやった」



老ワニたちが沈んでいく。



これで回収してくれる。



よかった。



俺たちも先へ――



「…………ん?」



一匹の老ワニが止まった。



海底のサメではなく。



その向こうを見ている。



生きたサメ。



泳いでいる。



別の老ワニも見る。



「…………」



さらに一匹。



「…………」



昨日仕留めたサメが海底に並び。



その上を新しいサメが泳いでいる。



老ワニが呟いた。



「なんだこのバイキング会場は」



「違う違う違う!!!」



「まだ生きとるのもおるぞ」


「新鮮じゃな」


「朝飯にするか」


「おう」



「回収に来たんじゃないの!?」



ばっ!!!



一斉に散った。



「行ったあああああ!!!」



サメがワニに気づく。



向きを変える。



逃げる。



老ワニが追う。



「昨日と逆だあああああ!!!」



ばぐっ!!!



一匹。



別のワニが横から回る。



ばぐっ!!!



また一匹。



「じいちゃん! そっち行った!」


「おう」



ばぐっ!!!



「連携がすごい!というか魚とるの苦手だったんじゃないの!?」


「あれは小さいからの、やる気が、、、ばぐっ!!」


「やる気の問題かよ!!」



昨日。



俺たちは必死だった。



サメに追われ。



客引きになり。



二代目のところまで連れていった。



今日。



ワニが自分で追っている。



「しかしこれじゃあ、、昨日の俺たちなんだったんだぁ...」



キントキダイが岩陰から呟いた。



「無駄働き……」


「言うな!!!」



しばらくして。



また海が静かになった。



今度こそ。



見える範囲にサメはいない。



老ワニたちが満足そうに集まってきた。



「食った食った」


「下にもまだあるぞ」


「持って帰るか」



「完全にバイキングじゃねえか……」



岩陰から、稲取のキンメダイたちが出てきた。



昨日よりもたくさんいる。



その中から、一匹のキンメダイが老ワニのところまで泳いできた。



「おじいちゃん」


「ん?」


「サメ、おいしいの?」


「うまいぞ」


「へえ……」



稲取のキンメダイが、海底のサメを覗き込む。



「稲取の海、おいしいものいっぱいあるよ」


「そうなのか?」


「うん。キンメもおいしいよ」


「…………」


「…………」



老ワニがキンメダイを見る。



キンメダイも老ワニを見る。



「食わんぞ」


「よかった」


「今ちょっと考えただろ!!!」



キンメダイが笑った。



「おじいちゃんたち、ありがとう。ずっとサメに困ってたの」


「そうか」


「助かったよ」


「それならよかったわい」



「仲良くなるの早いな!!」



二代目も胸を張った。



「ウヒッ! 任せろ!」


「お前は急にヒーロー面すんな!!!」



朝飯を食いに来ただけだ。



なのに。



稲取の魚たちが集まってくる。



「二代目、ありがとう!」


「ワニさんたち、ありがとう!」


「また来て!」



「ウヒッ!」



二代目が人気者になっている。



「なんでだよ!!!」



老ワニの一匹が、仕留めたサメを見回した。



「サメが多いとは聞いていたが……ここまでとはのう」



「なんで全員その認識だったのに今まで確かめに来てねえんだよ!!!」



「これだけあれば、熱川もしばらく平気そうだな」



俺が言うと。



老ワニは首を振った。



「いや。足りん」


「足りないの!?」


「熱川に残っとる連中の分もあるからのう」


「お前らどんだけ食うんだよ!!」



老ワニが沖を見る。



「もっとおるんじゃろ?」


「そりゃ、深いところにはまだいるだろうけど」


「呼んできてくれ」


「…………は?」


「わしらは深くまでは行けんからな」



俺。



キントキダイ。



キンメ。



三匹で老ワニを見る。



「俺たちに深場まで客引きに行けっての!?」



キントキダイが一歩下がった。



「断る」


「まだ何も言ってないぞ」


「深場へ行ってサメを連れてこいと言うつもりだろ」


「話が早いのう」


「断る!!!」



その瞬間。



イトヨリが前に出た。



「紹介料は何パーっすか?」



「お前は何の話してんだよ!!!」



老ワニがイトヨリを見る。



「紹介料?」


「はいっす。深場からお客さん連れてくるんすよね?」


「まあ、そうじゃな」


「だったら紹介料が発生するっす」


「発生しねえよ!!!」



イトヨリが老ワニの隣へ寄った。



「うちはいつもこのくらいでやらしてもらってやす」


「いくらじゃ?」


「福音二つで」


「高いのう」


「深場案件っすからね」


「値段交渉始めんなあああああ!!!」



キントキダイが口を挟んだ。



「私は契約していないぞ」


「誰もしてねえよ!!!」



「…………僕、場所分かるよ」



キンメだった。



「何が?」



キンメが沖を見る。



「…………サメがいるところ」


「分かるの?」


「深いところなら、だいたい」



すると。



さっきの稲取のキンメダイが近づいてきた。



「私も分かるよ」


「…………ほんと?」


「うん。この辺の海、よく泳ぐから」



キンメが少しだけ黙った。



「…………一緒に行く?」


「いいよ」



二匹のキンメダイが並んだ。



「…………おじいちゃん」


「なんじゃ?」



キンメが老ワニを見る。



「ラブカも食べたい?」


「ラブカ?」



二代目が振り返った。



「ウヒッ! それはぜひじいちゃんにも食わせたい! 珍味だ!」


「ラブカまで客引きすんな!!!」



稲取のキンメダイが首を傾げる。



「ラブカ、おいしいの?」


「うまいぞ!」


「へえ……」


「お前まで興味持つな!!!」



結局。



俺たちは深場へ向かった。



俺。



キンメ。



キントキダイ。



稲取のキンメダイ。



少し上をイトヨリ。



ワニたちは浅いところで待っている。



「なんで私まで……」


「赤いから」


「昨日から理由がそれしかない!!」



二匹のキンメダイが先を泳ぐ。



「こっち」


「…………うん」


「この辺、深くなるよ」


「…………もっと下にも行ける?」


「行けるよ」


「…………じゃあ、行こ」



俺は少し後ろから二匹を見ていた。



「何見てるの?」


「え?」


「チカメ、遅いよ」


「あ、はい」



怒られた。



「なんで俺が最後尾なんだよ」



暗くなっていく。



下の方はよく見えない。



「この辺」


稲取のキンメダイが止まった。


「サメ、よくいるよ」


「…………いると思う」



「…………帰らない?」



キントキダイが言った。



「まだ来て一分くらいだぞ」


「十分調査した」


「何を!?」



その時。



暗がりの中で。



何かが動いた。



一匹。



大きな影。



こっちを向いた。



「来た!!!」



「帰るぞおおおおおお!!!」



俺たちは一斉に浅場へ向かった。



後ろからサメが来る。



「一匹ついてきてるっす!!」



イトヨリが上から叫ぶ。



「一名様ご案内いいいいい!!!」



「本当に客扱いし始めんなああああ!!!」



キントキダイも全力で泳いでいる。



「私は客引きではない!!!」



「昨日も聞いた!!!」



「チカメ」


「何!?」



キンメが横に来た。



「後ろ、もう一匹いる」


「増えてんじゃねえか!!!」



二匹。



いや。



その奥にも。



「三匹っす!!」



「大繁盛だあああああ!!!」



浅場が見えてくる。



ワニたちが待っている。



イトヨリが先に飛び出した。



「三名様ご案内っすー!!!」



老ワニたちが顔を上げた。



「おお!」


「来たぞ!」


「こっちじゃ!」



「店みたいになってるううううう!!!」



俺たちがワニの間を抜ける。



サメが続く。



ばぐっ!!!



どん!!!



ばぐっ!!!



一匹。



二匹。



三匹。



次々と捕まる。



老ワニたちが満足そうに食っている。



イトヨリが横で数えていた。



「三件成約っす」


「成約じゃねえよ!!!」



老ワニが顔を上げる。



「もう一回頼む」


「リピート入ったあああああ!!!」



また深場へ向かう。



今度は。



稲取のキンメダイがキンメに話しかけていた。



「どこから来たの?」


「…………川奈」


「遠いね」


「…………うん」


「ずっと旅してるの?」


「…………神子元まで」


「すごい」



キンメが少し照れたように前を向いた。



「…………そんなでもないよ」



喋ってる。



普通に。



「チカメさん、何ニヤニヤしてるんすか?」


「してねえよ!!」



その時。



稲取のキンメダイが止まった。



「ん?」



暗がりを見る。



「…………あ」



キンメも見た。



細長い影。



ゆっくり。



こっちへ上がってくる。



「…………ラブカ」



「本当にいたあああああ!!!」



イトヨリが飛んでいく。



「うわああああ!! また図鑑でしか見れないのがいるー!!!」



「お前、前にも見ただろ!!」



ラブカがこちらを向いた。



「…………」



俺も見る。



「…………あ」



尻尾。



先っぽがない。



「こないだのやつじゃねえか!!!」



ここにくる途中二代目に先っぽだけ食われたラブカ。



向こうも俺たちを見た。



「…………」



くるっ。



「逃げた!!!」



「待て!! そっちは浅場だ!!」



ラブカが上へ逃げる。



俺たちも追う。



「なんで追うんすか!?」


「知らねえよ!! 流れで!!!」



「ラブカさん、そっちワニいるよー!」


稲取のキンメダイが叫ぶ。



「先に言ってやれよ!!!」



浅場。



ラブカが飛び出した。



二代目が振り返る。



「…………」



ラブカ。



二代目。



「…………」



ラブカが止まった。



「ウヒッ!!!」



びくっ!!!



「ラブカだ!!!」



ラブカが全力で逃げる。



二代目が追う。



「待てえええええ!!!」



「もういいだろ!! 前に食っただろ!!」



二代目が加速する。



「先っぽだけじゃ満足できなかったわ!!!」



「言い方あああああああ!!!」



ばぐっ!!!



「捕まえたー!!!」



「ウヒッ!」



老ワニたちが集まってくる。



「これがラブカか」


「じいちゃん! 珍味だぞ!」


「ほう」


「みんなで食おう!」


「ラブカの運命が前回より悪化してるううううう!!!」



稲取のキンメダイも老ワニの横へ行く。



「おじいちゃん、おいしい?」


「うむ」


「どんな味?」


「食ってみるか?」


「私はいい」


「そこは冷静なんだ!!」



老ワニが笑った。



「お前は何が好きなんじゃ?」


「私?」


「うむ」


「稲取のごはん」


「全部じゃないか」


「全部おいしいよ」


「そうかそうか」



「完全に孫とじいちゃんになってる!!!」



その日。



俺たちは何度か深場へ行った。



サメを見つけ。



追われ。



浅場まで連れてくる。



「二名様ご案内っすー!!」


「いらっしゃいませえええええ!!!」



ばぐっ!!!



「四名様追加っす!!」


「多い多い多い!!!」



ばぐっ!!!



途中から。



キントキダイも諦めた。



「一匹そっちへ行ったぞ!!」


「承知しましたっす!」


「私は何をやっているんだ!!!」



そして。



何度目かの深場。



またサメが来た。



「来た!!!」



一斉に逃げる。



「二名様追加っすー!!」


「追加っすーじゃねえええ!!!」



横を見る。



キンメがいる。



昨日まで。



俺の後ろに隠れていたキンメが。



今は俺の横を泳いでいる。



その少し先には。



稲取のキンメダイ。



「こっちこっち!」


「…………待って」



キンメが追いつく。



三匹で。



深場から逃げる。



サメに追われているのに。



「あははは!」



「…………え?」



キンメが笑っていた。



「あははは! 楽しいね、チカメ」


「お、おう」



そのまま少し泳いで。



キンメが小さく言った。



「ありがとう」


「ん?」


「なんか言ったか?」



キンメが俺を見る。



「…………なんでもなーい」



少しだけ前へ出た。



稲取のキンメダイの隣へ並ぶ。



「早く。置いてくよ」


「お前、急に元気だな!!」



昼を過ぎる頃には。



海底にサメが並び。



老ワニたちは腹いっぱい。



熱川へ持ち帰る分まで十分に確保できていた。



「これだけあれば足りるじゃろ」


「やっと閉店か……」


「閉店って言うな」



稲取の魚たちが集まってくる。



「ありがとう!」


「サメがいなくなった!」


「助かった!」



ワニたちを見る目が。



英雄を見る目になっている。



「またサメが増えたら来てくれる?」



老ワニが頷いた。



「呼んでくれれば来るぞ」


「本当!?」


「こっちも助かるからのう」



稲取。



サメが増えて困っている。



熱川。



食料が足りなくて困っている。



サメが増えたら。



知らせる。



ワニが来る。



食う。



「食料問題解決しちゃったよ!!!」



イトヨリが老ワニの横へ寄った。



「今後ともごひいきに」


「おう」


「業者になるな!!!」



俺たちも出発することにした。



二代目は老ワニたちと一緒に熱川へ帰る。



サメも持って帰る。



ラブカも持って帰る。



「じゃあな!」


「おう」



二代目がキンメを見る。



「お前も食われんなよ!」


「…………うん」



少し間を置いて。



「…………またね、二代目」


「ウヒッ! またサメいたら呼べ!」


「…………食べたいだけでしょ」


「ウヒッ!」



稲取のキンメダイも老ワニのところへ行く。



「おじいちゃん」


「なんじゃ?」


「また来てね」


「おう」


「今度、もっとおいしいもの教えてあげる」


「楽しみにしとるぞ」


「キンメ以外で頼むぞ」


「ふふっ」



老ワニたちが北へ泳いでいく。



「またねー!」



稲取のキンメダイが見送る。



それから。



キンメのところへ来た。



「また稲取に来る?」


「…………分かんない」


「そっか」


「…………でも」


「うん?」


「また来てもいい」


「じゃあ、またね」


「…………うん。またね」



俺は何も言わなかった。



昨日まで。



キンメが近づきたくなかった場所。



そこに。



また会いたい相手ができた。



「チカメ」


「ん?」


「行こ」


「おう」



俺たちは南へ。



二代目たちは北へ。



稲取のキンメダイは。



しばらくそこで手を振っていた。



キンメも一度だけ振り返る。



そして。



今度は俺より先に。



南へ泳いでいった。

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