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第129話 【神子元編】見分けがつかない

挿絵(By みてみん)

前話で先っぽだけ食べられたラブカ


稲取。



ついに来てしまった。



俺たちは少し離れたところで、海を見ていた。


二代目だけが先へ行こうとしている。



「何してんだ? 行くぞ」


「ちょっと待って」


「なんで?」


「いろいろあんだよ」



俺の横にはキンメがいる。


熱川を出てからずっと近かったけど、今はもう近いとかいう距離じゃない。


ほぼ俺の後ろだ。



「…………」



「キンメ」


「…………なに」


「無理なら、ここで待っててもいいぞ」


「…………」


「俺たちだけで通って――」


「…………行く」



キンメが少しだけ前へ出た。



「僕も行く」



「そっか」



二代目が首を傾げている。



「何が嫌なんだ?」


「昔ここに住んでたんだよ」


「へえ」


「いろいろあったんだよ」


「ふーん」



興味がない。


こいつ、サメのことしか考えてない。



「ウヒッ!」


「まだ何も出てねえよ」



俺たちは稲取の海へ入った。



キンメが前に住んでいた場所。


同じキンメダイたちにいじめられて、離れた場所。



当然、俺は警戒していた。



どこから来る。



昔キンメをいじめていた奴ら。



どんな奴らだ。



キンメも周りを見ている。



「…………」



いた。



岩の向こうから、赤い魚が数匹出てきた。



キンメダイ。



キンメが止まった。



向こうも俺たちを見た。



「…………」



「…………」



来る。



俺はキンメの前へ出た。



「おい」


「はい?」


「…………はい?」



普通だ。



一匹のキンメダイが俺を見る。



「旅の人?」


「あ、うん」


「どこから?」


「川奈」


「遠いね」


「…………そうだね」



なんだ。



普通だ。



後ろを見る。



キンメはまだ俺の後ろにいる。



「あのさ」


「何?」


「前からここに住んでる?」


「俺たち?」


「うん」


「そんな長くないよ」



俺はキンメを見た。



キンメも顔を上げた。



「じゃあ、昔ここにいたキンメダイたちは?」


「昔?」



何匹かが顔を見合わせた。



「ああ。前にいた奴ら?」


「そう」



「いないよ」



キンメが動きを止めた。



「…………どこ行ったの」



キンメが自分から聞いた。



「食われた」



「…………」



「え?」



「サメに」



「全滅してんじゃねえか!!!」



思ってたのと違う。



もっとこう。



旅立ったとか。


世代が変わったとか。


人間に釣られたとか。



「サメ!?」



二代目だけが急に元気になった。



「何ザメ!?」


「そこ食いつく!?」



キンメダイが沖を見る。



「いろいろいるよ。最近多いんだ」


「アオザメは!?」


「いる」


「ネズミザメは!?」


「いる」


「ウヒッ!」



二代目の目が輝いた。



「お前、完全に飯屋のメニュー聞いてるだろ」



でも。



俺はもう一度キンメを見た。



「…………」



ずっと怖がっていた相手は。



もういなかった。



キンメは何も言わない。



喜んでいるようにも見えない。



悲しんでいるようにも見えない。



ただ、さっきまで隠れていた俺の後ろから、少しだけ出ていた。



「キンメ」


「…………なに」


「大丈夫?」


「…………分かんない」



そりゃそうか。



ずっと怖かった場所へ戻ってきたら。


怖かった奴らが全員サメに食われてました。



どういう顔すればいいんだよ。



「まあ、とりあえず――」



「来た!!」



二代目が叫んだ。



「え?」



沖から。



青い影がこっちへ向かってくる。



速い。



「サメだ!!」



「キンメ!! 下がれ!!」



「…………うん!」



キンメが俺の後ろへ入った。



よし。



俺が前に出れば――



ぐわっ!!!



「俺に来たああああああ!!!」



目の前に口が来た。



「うわああああ!!!」



間一髪で避ける。



「待て待て待て!! 違う!!」


「チカメさん!!」


「俺はキンメダイじゃない!! チカメキントキだ!!!」



サメが反転する。



また俺を見た。



「聞いてねえええええ!!!」



逃げる。



横からキントキダイが来た。



「チカメ! こっちだ!!」


「助かった!!」



サメがキントキダイを見た。



「…………」



「…………」



ぐわっ!!!



「こっちにも来たああああああ!!!」



「逃げろおおおお!!!」



「私はキントキダイだ!! キンメダイではない!!」


「それ俺も言った!! 通じなかった!!!」



二匹で逃げる。



後ろからサメが追ってくる。



「なんでだ!!」


「知らねえよ!!」


「キンメダイが好物なんじゃないのか!!」


「俺たちを見ろ!!」



泳ぎながら。



俺はキントキダイを見る。



赤い。



俺を見る。



赤い。



後ろを見る。



キンメも赤い。



目もでかい。



「…………」



「…………」



「そりゃそうか!!!」



「何が!?」



「区別つくわけねえな!!!」



「納得してる場合かああああ!!!」



「わああああああ!!!」



サメから逃げていたら。



今度は別の影が前から来た。



「増えたあああああ!!!」



「挟まれたぞ!!」



「キンメ!!」



見ると。



キンメにも一匹向かっていた。



「…………!」



「二代目!!!」



「任せろ!!」



どん!!!



二代目が横から突っ込んだ。



サメの身体が大きく弾かれる。



「ウヒッ!」



「強え!!!」



サメが向きを変える。



今度は二代目を見る。



二代目も見る。



「…………」



「…………」



「ウヒッ!」



ばぐっ!!!



「食ったああああああ!!!」



噛みついた。



サメが暴れる。



二代目も暴れる。



何だこれ。



サメ対ワニ。



稲取で何見せられてんだ俺。



「チカメさん!! 後ろ!!」


「え?」



ぐわっ!!!



「まだいるううううう!!!」



イトヨリと一緒に逃げる。



「二代目!! 全然減ってねえぞ!!」


「今食ってる!!」


「返事できるの!?」



「チカメ!」



キントキダイが俺の横へ来た。



「どうする!?」


「どうするって――」



周りを見る。



サメ。



サメ。



またサメ。



「本当にうようよいるじゃねえか!!!」



熱川で二代目が言っていた。



稲取にはアオザメがうようよいる。



大げさに言ってるんだと思ってた。



本当にいた。



しかも。



俺も食われる。



キントキダイも食われる。



キンメはもちろん食われる。



「赤けりゃ何でもいいのかよ!!!」



「チカメさん!!」



イトヨリがキンメを指した。



一匹。



またキンメへ向かっている。



「キンメ!! 逃げろ!!」



「…………」



キンメがサメを見る。



動かない。



「キンメ!?」



サメが近づく。



俺が向かおうとした。



その時。



キンメが動いた。



逃げなかった。



こっちへ来た。



俺の横に並ぶ。



「…………チカメ」


「何やってんだよ! 逃げろ!」


「…………僕もやる」


「何を!?」



キンメがサメを見る。



「…………追い払う」



「お前が!?」



「僕だけ、隠れてるの嫌だから」



「…………」



お。



喋った。



いや。



今そこじゃない。



「分かった!! でも食われんなよ!!」


「…………うん」



サメが来る。



キントキダイも横に並んだ。



「私もいるぞ」


「お前さっきまで逃げてただろ」


「戦略的後退だ」


「はいはい!!」



二代目が向こうでサメを振り回している。



イトヨリが叫ぶ。



現地のキンメダイたちも岩陰から出てきた。



気がつけば。



みんなサメを見ていた。



「…………」



なんで。



キンメの昔の住処へ来ただけなのに。



「チカメさん!! 来るっす!!」



「分かってる!!」



サメが突っ込んでくる。



俺は叫んだ。



「鮫駆除だああああああ!!!」

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